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ジャックドール

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じゃっくどーる

2018年生まれの日本の現役競走馬。主な勝鞍は2023年の大阪杯(GⅠ)で、その他にも2022年の金鯱賞・札幌記念(以上GⅡ)を制した。

プロフィール

生年月日2018年4月8日
欧字表記Jack d'Or
性別
毛色栗毛
モーリス
ラヴァリーノ
母の父Unbridled's Song
生産者クラウン日高牧場
馬主前原敏行
管理調教師藤岡健一

名前の「ドール」はフランス語で「黄金」を意味する(英語で「人形」を意味する方と勘違いされることもあるが、間違いである)。

あの激情の三冠馬の『オル』と同じ由来と言えば分かりやすいか。

前原オーナーによれば「ドール」との音のバランスを取るため男性名である「ジャック」を付けたのだとか。

2019年の北海道セレクションセールにて3,200万円(税込3,456万円)で前原敏行氏に落札された。

経歴

2歳(2020年)

2020年12月6日の中山競馬場で行われた新馬戦は斎藤新鞍上で2着。

続く12月27日の阪神競馬場未勝利戦では藤岡調教師の息子でもある藤岡佑介を迎えるも2着で、2歳シーズンは未勝利に終わる。

3歳(2021年)

年が明け4か月の休養を挟んで4月25日の阪神3歳未勝利戦を勝利。

中1週を挟んでダービートライアルのプリンシパルステークス(リステッド)に三浦皇成鞍上で挑むも5着に敗れ、ダービーには出られなかった。

その後は9月11日の1勝クラス(中京競馬場)を藤岡佑介鞍上で勝利すると、続く2勝クラス浜名湖特別(鞍上は藤岡佑介の弟藤岡康太)も単勝1.8倍の期待に応え勝利。そして第41回ジャパンカップと同日に行われた3勝クラスのウェルカムステークスも勝利してオープン入りを果たした。

4歳(2022年)

古馬となった4歳初戦は白富士ステークス(リステッド)。同期でクラシックを戦ったアドマイヤハダルを破り4連勝。

そして初の重賞挑戦となった金鯱賞(GⅡ)は、レイパパレアカイイトといったGⅠホース達を相手に果敢に逃げ切り1分57秒2のレコード勝ち。重賞初勝利を挙げた(このタイムは2007年優勝馬のローゼンクロイツと並ぶ記録で、こちらは中京競馬場改修前の記録)。このレコードでの逃げ切り勝利により、同じ栗毛の逃走者サイレンススズカに例えて、令和のサイレンススズカと呼ぶ声も出てきた。(走法やラップから考えると ミホノブルボンのほうが近いと思われるが。)

その次戦・GⅠ初挑戦となる大阪杯では、これまで通り逃げ戦法に出るも、落鉄の影響などで最終直線で力尽きて後続の馬たちに差し切られ、1着のポタジェに1馬身以上の差を付けられての5着に敗れてしまう。

陣営は次戦を札幌記念に定める。同レースでは前年度の勝者・ソダシはじめ、パンサラッサユーバーレーベンマカヒキグローリーヴェイズなどのGⅠホースとの対戦が実現。

本番ではパンサラッサ含む他の逃げ馬を警戒したのか、先行策に転じて逃げ馬の後続に付ける作戦を取る。ハナを切ってレースを進めたをパンサラッサを最終直線で振り切って、ソダシら後続の馬たちをもねじ伏せ、見事重賞2勝目を果たした。

次戦は天皇賞(秋)、前走に引き続きパンサラッサ・ユーバーレーベンとの対決だが、それだけでなく3~7歳までの揃う全頭が重賞勝利馬という強豪揃い。

その上でジャックドール、パンサラッサ、バビット、ノースブリッジらを始めとした前に出たがる馬が多い組み合わせであり「誰が前に出るか」が注目となった。

その一方で東京レース場の長い直線と最後の坂などから脚を溜められない逃げ馬は不利とされている難しい状況だった(東京レース場で開催される日本ダービーが「逃げて勝つことが難しい」と称される所以は正にココにある)。

スタート後はパンサラッサとノースブリッジが先頭争いには参加せず番手に位置。最終的にパンサラッサが先頭を取った中でノースブリッジ、バビットの後ろの4番手に位置取って2番手集団を作る。どんどんと後ろを突き放して爆走するパンサラッサには無理についていかずマイペースに走る…のだが、後ろとは殆ど距離が無い。

その後、パンサラッサは沈黙の日曜日サイレンススズカが叩き出したのと同じ1000m通過タイム57秒4という驚異的なラップタイムをマークし最終直線に出た時には20馬身差以上とも言われた超大逃げを打っており、各馬は残り2ハロンでそれを追い上げる事となる。ノースブリッジとバビットが沈み、パンサラッサも徐々に速度を落とし始める中、ジャックドールは安定したスピードを維持して追い上げていく。が、後方から脚を溜めていたイクイノックスとダノンベルーガの猛烈な末脚に追い抜かれてしまう。最終的にイクイノックスがパンサラッサを残り50mほどで差し切って秋の盾を手にする裏で、ジャックドールはダノンベルーガの猛追をクビ差で退けたパンサラッサにも届かずに4着となった。

札幌記念の勝利経験とコース仕様から番手で落ち着いた競馬をした上で好位からの差し切りを試みたようだが、今度は控えめに動きすぎたことが敗因となった。結局、ジャックドールは前は自分の強みを活かした超大逃げを打つ馬と、後ろからは溜めてからの末脚を発揮する差し馬に挟まれる格好になり、前を捉えられず後ろからも差し切られるという、今後の課題が見える負け方をしたと言える。

そんなジャックドールの次走は秋天の結果に関わらず予め出走を決めていた香港カップを予定。パンサラッサとは1勝1敗からの三度目の対決となる。そして今度は逃げ馬に定評がある武豊騎手を鞍上に迎えることになった。

4歳で頭角を現してきたジャックドールは金鯱賞勝利や「逃げて差す(溜め逃げ)」な立ち回りから「令和のサイレンススズカ」と評される事があったが、そのスズカに乗った武がスズカと出会った香港カップでジャックドールに乗るという数奇な縁を結ぶ事となった。武自身も騎乗決定時に「スズカとの香港カップを思い出した」と自身の公式サイトの日記で語っている。

秋天と同日に武は阪神で2勝をあげており、それはドーブネアドマイヤビルゴの2頭で逃げを打って手に入れたものだった。このことから、ジャックドールとのコンビにも期待が持てると考えるに十分な実績があったと言える。

そして迎えた本番だが、ゲートで入れ込んでしまいスタートで出遅れたために12頭中5~6番手の中団に位置。持ち味を全く活かせないまま馬群に沈んで7着となった。

敗因を振り返る中で上記の出遅れの他に「香港現地の馬は短距離から順々に距離を伸ばすのに対し、ジャックドールは2000mしか走ってないのでスタートダッシュの技術で香港馬の前に出にくかったのでは?」という意見も見られる。

といっても自分の走りをしたはずのパンサラッサは陣営も首を傾げる逆噴射っぷりで日本勢5頭中ブービーの10着というジャックドール以上の惨敗を起こしているのだが…。

2022年下半期は本来逃げ馬として戦いたいのにハナが取れない状況が続き、そこでどう立ち回るかがジャックドールの課題となった。特に大逃げ馬であるパンサラッサとローテーションが被ったのも大きい。

GⅢやGⅡではGⅠ馬を倒しているため決して力不足ではないはずなのだが、大一番で結果が出てこないという歯がゆい結果を残しつつ4歳シーズンを終える事となった。

5歳(2023年)

大阪杯

向かえた翌年、次走は引き続き武豊をパートナーに大阪杯を選択。

今年の大阪杯はパンサラッサドウデュースイクイノックスといった直近話題となった中距離馬はドバイへ向かい、阪神巧者のタイトルホルダーもスケジュールが近い春天を見据えて回避と、スターホースが軒並み不在となっている。

だがこちらはこちらで二冠牝馬スターズオンアース秋華賞スタニングローズ(後に回避)、エリザベス女王杯ジェラルディーナといった前年の牝馬G1覇者の面々や、前年ジャパンカップで接戦を繰り広げ、年明けの日経新春杯で好調な滑り出しを見せたヴェルトライゼンデ中山記念で隔年勝利を果たしたヒシイグアスなど猛者が集まる。

しかし、前残り決着の傾向が強い阪神のコースに、走り慣れた芝2000mの距離という条件は、ジャックドールにとってこの上なく合っていたこともまた事実。

そのため実力を出し切れば十分勝ち目があると思われており、前走の惨敗がありながら、スターズオンアースに次ぐ単勝2番人気に支持されていた。

そしてレース本番。ジャックドールはイレ込むことなく9番ゲートに収まると、ゲートが開くと同時に飛び出し好スタートに成功。自分以外に逃げ馬がないこのレースで、1年ぶりにハナを切った。すぐ後ろにはノースザワールドやマテンロウレオなど他の先行馬がつける中、600mを35秒5で通過。これは昨年より1秒近く遅いのタイムだった。しかし、ジャックドールはそこから徐々にペースを上げ始め、1000mの通過は去年とほぼ同じ58秒9。スタート直後にスタミナを温存し、後半にスピードの持続力を利用して後続に脚を使わせるという、この馬の持ち味を活かした競馬に持ち込むことに成功。更に、武騎手はレース後のコメントで「レース前に1000mを59秒で通過できればと思っていた。」と語っており、ペース配分もほぼ完璧と言ってよかった。

結局ジャックドールは4コーナーを抜けるまで楽な手応えで先頭をひた走り、直線に入ると武騎手のムチに応えてさらにスパートをかける。2番手にいたダノンザキッドは脚を使い果たしてジリジリとしか先頭との差を詰められず、後方で待機していた馬たちも、後半ペースを上げたジャックドールに付き合う形で追走に付き合ったたためか、軒並み伸びを欠いていた。

そんな中で、スターズオンアースだけが後方から上がり最速の末脚で追い込んできたものの、先頭をハナ差まで追い詰めたところがゴール板前であった。

こうしてジャックドールは「黄金ジャック」の名の通りに、悲願のGⅠ初勝利を勝ち取った。

後半1000mのラップは58.5前半とほぼ変わらない数値であり、GⅡ時代のヒルノダムールの記録を0.4秒上回るレースレコードを樹立。武騎手はレース後のインタビューで「第一・第二コーナーで力みかけたのを馬の方も理解してくれていいリズムで行く事ができた」とも述べられており、人馬一体で作り上げた走りが勝利に繋がったと言えるだろう。自分のペースをしっかり掴んだ時のジャックのポテンシャルを見せつけた一戦となった。

また鞍上の武豊はこの勝利で岡部幸雄の記録を上回る最年長GⅠ勝利記録、並びに日本史上初GⅠ80勝を記録している。武騎手がメディアインタビューの後にカメラのレンズににサインを求められ、カタカナで「サイン」と書き込んだことも話題になった。

また、史上2例目の父系だけでの親子4代GI制覇も達成した(初例はスプリンターズステークス2021を勝ったピクシーナイト)。

安田記念

晴れてGⅠホースの仲間入りを果たしたジャックドール。肝心の次走だが、4月26日に藤岡調教師から安田記念とすることが発表され、初のマイル戦に挑戦することとなった。鞍上は引き続き武騎手が担当する予定。

藤岡調教師はこれについて「マイルは初めてになりますが、いいスピードがありますし、府中のマイルは2000メートルをこなせる力がないと厳しいと言われているくらいなので、むしろいいのでは、と思います」とコメントしている。マイル戦挑戦についてはオーナーと武豊も考えていたようで2ハロン短縮でどう変わるかが注目だった。

当日はジャック含めてGⅠ馬10頭という猛者揃いだったが前走の実績や武豊とのコンビへの期待からオッズは1桁倍率の5番人気、マイル初挑戦ながらも大きな期待が寄せられた。

レースが開始するとウィンカーネリアンが飛び出したため2番手に控える事になり、後ろにはソダシがピッタリ張り付いてくる。第4コーナーでウィンカーネリアンの横に出つつ先頭を確保し、ラスト200mほどでウィンカーネリアンとソダシを振り切りいけるか…と思われたが、そのソダシの後ろに居たセリフォス、そしてソングライン、シュネルマイスターガイアフォースの豪脚に捕まり5着で入線。

勝利とは行かなかったが最終直接を粘りに粘る見応えのある走りと、初マイルながらも掲示板はしっかり掴むという実績を残した。

札幌記念 ~先頭の奪い合い~

秋は連覇がかかった札幌記念から始動。

ジャックはスタートダッシュで調子よく前に出たが、外からユニコーンライオンが全力疾走でハナを奪いにかかり、その後ろをアフリカンゴールドウインマリリンが追いかける形、ジャックは無理に追わずに距離が離れた4番手に控える形に。第三コーナー手前で先頭をとりにかかろうとするが外をぶん回す事となりそこから伸びきれず6着で終了、連覇とはならなかった。

天皇賞秋 ~先頭は俺のものだ~

10月末は天皇賞秋。武豊騎手はドウデュースに乗る予定(に加えてレース当日の負傷)のため1年ぶりに藤岡騎手に乗り替わりとなった。

この年は1番人気のイクイノックスがここ1年の怪物じみた暴れっぷりを見せた事もあり同世代の有力馬は軒並み秋天を回避し海外遠征を選択。結果的に最少タイの11頭立てとなり、ジャックは21世代では唯一のG1馬として出走となった。

スタートすると今年は是が非でも先頭を取るべくハイペースで上がっていく。前回の秋天や前走の札幌記念のように番手で控えずにハナを取って主導権を握る…はずだったが、どうも今回は様子がおかしい。

いくらペースを上げても後ろにガイアフォースとイクイノックスが張り付いてきている。いや、出遅れたジャスティンパレスプログノーシスはしょうがないとしても他もグイグイと前に出てくる。というかイクイノックスなんでそこいるの?

そう、前年の秋天ではパンサラッサが大逃げでイクイノックスにあと一歩まで迫った事もあり、全員ハイペースを選んでいたのである。特に最大の敵であるイクイノックスが3番手となればジャックは息を入れてしまうと抜かされるだろうし、末脚での勝ち目は全くない。なので勝つ気ならば嫌でも先頭を維持するためにハイペースのまま走る必要が出てくる。

その結果、前半1000mのラップタイムは去年に迫る57.7、1400m時点に至っては1:20.5と逆にパンサラッサを上回り、マイル戦である安田記念並のペースで秋天を走るという異常状態が起こった。

流石にこんな状況でペースを府中2000mで維持しつづける力はジャックになく、最終直線で力尽きてシンガリ11着負け(それでも入線タイムは1:58.4と充分早いのだが)。一方で3番手で追走していたイクイノックスはトーセンジョーダンのレコードを0.9秒上回る1:55:2の新レコードで駆け抜けていった。

敗戦を振り返り、最大の敵に自分の戦い方でどう戦えばいいかを考え、出来る限りの事はしたはず。その上で圧倒的な力の前にねじ伏せられるという苦い敗北となった。

レース後のSNS等の反応では流石に消耗が激しい戦術を取らせた挙句のシンガリ負けという結果では、非難する声は避けられなかった。

特に声が多かったのは、結果そのものよりも、やはり馬の力を引き出す適切なペースで走れていなかったのではないかという点。競馬において、展開が向くか否かや、展開を読んでそれに合わせられるかが勝負に直結することは往々にしてある。しかし、ジャックドールはその脚質上、持ち味を活かしながら、相手に脚を使わせて追いつけないよう、自ら展開を「作る」タイプの競走馬である。

オープン入りしてからのレースを調べてもらえばわかるが、この馬が能力を大きく引き出せるペースは1000mで速くて59秒を切るかどうかくらいで、遅くても59秒の後半だと考えられていた。ゆえに、ジャックドールはこれまで経験したことのない競馬をいきなりさせられたわけであり、端的に言ってしまえば「去年と形は正反対だが、結局は同じように自滅した。」と揶揄されても反論が難しかったのだ。

実は、この批判が大きくなった要因は、1年前の天皇賞(秋)の延長だったという側面もある。あのときは、逃げるパンサラッサが57秒代で飛ばす一方、それ以降の馬群が極端にスローで、有志がパトロールビデオの再生時間等から計算したところ、ジャックドールの1000m通過が60秒を超えていたことがわかっている。これはこれであまりに遅いし、ジャックドール自身も馬群に合わせてペースメイクをしていたため、自らの持続力で他の馬に脚を使わせるという、いつもの競馬ができていなかった。パンサラッサとの距離を考えれば、2番手で馬群のペースをコントロールすることだってできたはずなのにである。

そして、4着という決して悪くない着順にもかかわらず、藤岡佑介騎手は、一緒に勝ち上がってきた馬の鞍上を降りることになった。しかも、管理している調教師は自分の父親である。公に理由の説明があったわけではない。しかし、競馬ファンたちがその意味をどう受け取ったのかは、記事の読者も察しがつくのではないだろうか?

そして、藤岡騎手に鞍上が戻った挙句に、この競馬。もちろん、藤岡騎手も後述する事情から思い切った作戦を取らざるを得ない状況ではあったのだが、「ジャックドールを一番知っているはずの騎手が、彼の持ち味を殺す競馬をしてしまった。」という点は否定できない。「決着時計を見れば、いつもより速いペースで走っても脚が持ったと考えても不思議ではない」という擁護の声もあったが、そもそもレース前の時点でレコードタイムを1秒近く更新する決着時計が出るなど誰も予想できるわけがないので、この意見はかなり無理があるだろう。

しかし、その一方で「ハンパに掲示板入り程度を目指すのではなく『イクイノックスに勝つ』事を目指そうとしたらこれしかなかった」という反応が多く、下手に控えるよりも逃げ馬として果敢に攻めた事を賞賛する声も多く挙がった。

というのも、スタート直後にハナを争ったガイアフォースだけ先行させるという、いわば2頭の位置が逆のような展開になったとしても、ジャックに比べ多少遅い程度の逃げないし先行策を仕掛けた可能性もある(実際、ガイアフォースは2番手に控えたためにジャックより余力があったかもしれないとはいえ、最後の直線でジャックをかわして先行しようとした動きを見せたため)。しかも、ガイアフォースがイクイノックスと並走する形で追ってきた点から、下手をすれば、ガイアフォースとイクイノックスがジャックをかわした後、2頭による先行策かつ逃げ寄りのペースで走るという展開になる可能性もある。そうなれば、結局イクイノックスないし馬群に追いつかれないようにすべく、逃げ寄りのペースの走りになる可能性があるため、番手で控えつつペースを作るというのも困難であり、むしろ、逃げてイクイノックスに対抗しようとした選択自体は、称賛はされど、批判されるのは少々酷な話である。

自分に有利な展開に持ち込もうとした結果失敗したのであるから、最初から自分の競馬を捨ててしまったかのような前年に比べれば、まだ理解はできる部分はあるだろう。

他には「イクイノックスのレコードを生んだ立役者」というジャック自身としては複雑な気持ちになる反応もあったが、掲示板入りした去年よりも今回の方が評価する声が多いという珍事となった。

その後は前年のように香港へは行かず年内はリフレッシュに費やした。

6歳(2024年)

次走は大阪杯の連覇かと期待されているジャックドールだが、なんと陣営はその1ヵ月前に開催されるサウジカップへの出走登録を行った。

ダートでありながら前年に芝馬であるパンサラッサが勝利した本レースだが、ジャックドールはそのパンサラッサと雨で渋った洋芝上のレースとなった札幌記念で下しており、サウジの馬場でも勝負が出来ると見込んだか。

だがサウジは馬場事情が変わり易いと言われ、さらに前年にパンサラッサが勝った事で逃げ馬への警戒も高まっていると見込まれる。果たしてジャックも1000万ドルの栄光を掴めるだろうか。

しかし、現実は非情だった。

1月17日に右前浅屈腱炎が判明し、全治9ヶ月以上の休養を見込むこととなった。幸いにも軽度ではあったものの、古馬戦線を暫くの離脱をせざるを得ない状況になってしまったのは無念だろう。2024年6月時点では、福島県いわき市の競走馬リハビリテーションで療養もしつつ、秋への復帰を目指している。

余談

走法と脚質

モーリス産駒特有の均等ラップ、前半をスローに落としてからのロングスパートの後傾ラップの逃げ切りを持ち味とする。逃げ切り勝ちの印象が強いが、札幌記念のようにハナを譲っての先団・番手での競馬も可能。2023年大阪杯では、鞍上の武豊によって1ハロン11.5秒近くを中盤から5ハロン続けるというより厳しいラップで後続の脚を削って優勝した。

令和のサイレンススズカ

栗毛と流星の見た目、金鯱賞を鮮烈なレコード勝ちで勝利、どちらも武豊で香港カップ挑戦を経験しその後のGIで逃げ切り勝ちを果たす点から、「令和のサイレンススズカ」と呼ばれることもある。だが、サイレンススズカが序盤から最高速度を出してスピードも大きく落とさないまま前半で勝負を決めるのに対して、ジャックドールは序盤3ハロンで息を入れ、ミドルペースで前半1000mを通過し後続を4コーナー少し手前まで引き付けつつ、後半のロングスパートでピッチを上げて消耗戦で後続を引き離すレースをする。

金鯱賞のラップ比較

1ハロン毎のラップタイムタイム
サイレンススズカ(1998年)12.8 → 11.2 → 11.2 → 11.5 → 11.4 → 11.4 → 12.0 → 12.4 → 11.7 → 12.21:57.08
ジャックドール(2022年)12.5 → 11.0 → 12.2 → 11.9 → 11.7 → 11.7 → 11.6 → 11.0 → 11.3 → 12.31:57.02

またサイレンススズカは抑えが利かず、ハナを切ってレースをしなければいけなかったが、ジャックドールはそういう訳ではなく2022年札幌記念のように先団や番手からレースを運ぶことができる点も違っている。

他にジャックドールに似ている逃げ馬としては精密ラップを刻んだミホノブルボン、競馬評論家の柏木集保はタイトルホルダー、メジロパーマーやダイタクヘリオス、カツラギエースを挙げている。

パンサラッサとの競演

日高逃げ馬三銃士の仲間であるパンサラッサとは三度対決しており2勝1敗だった。三度共にパンサラッサにハナを譲っている。海外にまで一緒に居たことからパンサラッサとカップリングのイラストも多い。香港カップには共に遠征し、調教ではカメラに興味津々で立ち止まってファンサービスをしたパンサラッサに対してジャックドールは一瞥しただけと対照的な対応であった。

天王星(秋)?

2022年札幌記念から数日後、とあるネットメディアが「【JRA】ジャックドールは天王星(秋)へ、弾みは十分」と発信。もちろん天皇賞(秋)のことであろうが、返信欄では大喜利大会になり、ジャックドールがUFOに連れ去られて天王星に行ったり、ゴールドシップ(ウマ娘)と天王星(秋)で待ち合わせしようとするジャックドールとネタにしたイラストも現れた。なお、天王星は地軸が横倒しのために夏と冬しか存在せず、地球からの距離は25億8,650万〜31億5,550万km。サラブレッドの最高時速から計算しても天王星へは往路・最短でも36,950,000時間。年数換算で4,218年かかる計算である。

栗毛と大流星

尾花栗毛四白流星のジャックドールだが、母ラヴァリーノは「栗毛」と「大流星」の特徴を持つ仔を多く出している。2023年までの13頭中、ジャックドール含めて栗毛が10頭、大流星を持つ仔を6頭輩出している。

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競走馬 JRA 21世代 逃げ馬 騎手

モーリス:父。天皇賞(秋)、香港マイルなど勝ったGI6勝馬。産駒はジャックドールと同様に均等ラップを得意とし2000m以下で活躍する傾向にある。産駒中、中距離GIを勝った牡馬はジャックドールのみである。

パンサラッサ:大逃げが持ち味のドバイターフ馬。ジャックドールとは2022年札幌記念、2022年天皇賞(秋)、2022年香港カップで3度対戦し、ジャックドールが2度先着している。共に何度も走ったためかセットで描かれることも。

タイトルホルダー:幻惑逃げ、溜め逃げが持ち味の菊花賞馬。同時期同路線に活躍した同期の逃げ馬ながら対戦は一度もなかったが、2023年頭にはタイトルホルダー陣営は日経賞と大阪杯の両睨みであったため大阪杯を選択していれば対戦していたと思われる。均等ラップという点ではジャックドールと共通する。

サイレンススズカ:「異次元の逃亡者」と喩えられた逃げて差すタイプの逃げ馬。栗毛と流星からジャックドールは「令和のサイレンススズカ」とも言われている。また金鯱賞をレコード勝ち、武豊で香港カップに挑んでからGIを逃げ切り勝ちしているのも共通点である。たが逃げの走法やラップ構成、逃げに至る過程は全然違うものである。

ミホノブルボン:均等ラップを持ち味とした逃げ馬。ジャックドールと同じタイプの逃げ馬であることからジャックドールはサイレンススズカよりミホノブルボンに近いと言われている。

タップダンスシチー:こちらも金鯱賞レコード勝ちを果たした逃げ馬。ジャックドールと同じくハナに立たなくてもレース出来るのが共通点である。

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