イギリスの生んだ近代競馬は、僕たちに教える。
誇りとは。運命とは。
すべての世代の、牝馬の頂点へ。
英国王室公認 エリザベス女王杯
(2012年 JRA CM「The WINNER エリザベス女王杯」より)
※:メイン画像のキャラクターは2005年にモチーフ馬が本レースを制したスイープトウショウ(ウマ娘)。ちなみにイラスト内は日英国旗が半旗で掲げられ、スイープも脱帽しているが、これは本イラストが描かれた2022年に、本レースの由来となったエリザベス2世が崩御されたためである。
概要
11月2~3週目に京都競馬場で開催される。
その名の通り英国女王エリザベス2世に所縁のあるGⅠ競走である。
英語表記は「Queen Elizabeth Ⅱ Cup」。
芝・中距離の牝馬限定戦で、その年の“女王”を決めるレースという位置づけになっている。
長らく同レースの優勝馬が最優秀古馬牝馬を受賞する傾向にあったが、近年はヴィクトリアマイル・天皇賞(秋)・ジャパンカップなど牡馬混合GⅠを優勝した牝馬が受賞することも多く、同レース優勝馬が最優秀古馬牝馬を受賞することが少ない傾向にある。
2020年から2022年までは、京都競馬場大規模改修工事のため阪神競馬場で代替開催。
またエリザベス2世に由来する名を持つレースは世界各地域に存在する。
代表例
基本データ
※2023年9月現在
コース | 京都競馬場・芝2,200m |
---|---|
出走資格 | サラブレッド系3歳以上牝馬 最大18頭まで |
優先出走権 | 府中牝馬ステークス1着/レーティング上位5頭/外国調教馬(9頭まで) |
地方馬出走権 | 京都大賞典、府中牝馬ステークス、秋華賞いずれかで2着以内/中央GⅠ、国際GⅠ、指定交流競走GⅠ(JpnⅠ)いずれかの優勝馬 |
負担重量 | 3歳:54kg 4歳以上:56kg |
賞金 | 1着 1億3,000万円 2着 5,200万円 3着 3,300万円 4着 2,000万円 5着 1,300万円 |
正賞 | エリザベス女王杯 京都府知事賞 日本馬主協会連合会会長賞 |
歴史
直接の前身は1970年(昭和45年)、それまで実質的に牝馬三冠路線の最終戦の役割も担ってきた菊花賞に代わる新たな牝馬三冠路線の最終戦として創設された「ビクトリアカップ」。
このレースはフランスの3歳牝馬三冠路線の最終戦である「ヴェルメイユ賞(GⅠ、ロンシャン競馬場・芝2,400m戦)」に模範を取った京都競馬場の芝2,400m戦で、八大競走には含まれないがクラシックに準ずる扱いの4歳(現3歳)牝馬限定重賞だった。
- ちなみになぜ菊花賞が牝馬三冠路線の最終戦の役割も担っていたのかというと、日本競馬がモデルケースとしているイギリスの競馬における牝馬三冠の最終戦が牡馬三冠と同じセントレジャーステークス(菊花賞のモデルレース)となっていたためである。そのため、元々イギリス競馬に範をとる日本における三冠路線の最終戦は牡馬三冠・牝馬三冠とも菊花賞が担っていた。もっとも牡馬混合戦の上3,000mという長距離戦である菊花賞は牝馬にとっては過酷なレースであり、菊花賞を勝利した牝馬は2023年現在、クリフジとブラウニーの2頭しかいない。
1975年(昭和50年)に英国女王エリザベス2世が来日したことを受け、翌1976年、これを記念してビクトリアカップはレース名を現在の「エリザベス女王杯」に改称する。なお、距離や競走条件こそ変更されなかったが、回次はビクトリアカップを引き継がずに新たに第1回とされた。
一般的に英連邦以外では「エリザベス女王」という直接表現は許されないため、英文表記は「Queen Elizabeth Ⅱ Commemorative Cup」(「エリザベス2世来日記念」というニュアンス)としていた。
1984年、グレード制導入により、4歳(現3歳)牝馬限定GⅠに格付けされる。
1996年、古馬牝馬の競走体系整備の為、レギュレーションを現在の「4歳(現3歳)以上、芝2,200m」に変更(いわゆる古馬牝馬開放)。牝馬三冠路線最終戦は新設された「秋華賞」に移行され、エリザベス女王杯の位置づけは「その年の女王決定戦」に変わった。
2012年、エリザベス2世来日記念レースという背景からエリザベス2世の女王即位60年記念行事「ダイヤモンド・ジュビリー」の実施が特別に許可(※)され、「エリザベス女王即位60年記念」という冠名をつけて実施。
(※ 英国王室のダイヤモンド・ジュビリーは、通例として英連邦外では許可されない)
翌2013年、バッキンガム宮殿の許可を得て、英文表記が「Queen Elizabeth Ⅱ Cup」に改められた。
2022年は10年前同様英国王室の特別な許可を得てエリザベス2世の女王即位70年記念行事「プラチナ・ジュビリー」に合わせて「エリザベス女王即位70年記念」という冠名をつけられる予定だったが、レース前の9月8日にエリザベス女王が崩御したため取りやめとなり追悼レースとなった。
レース当日は、競馬界においても多くの功績を残したエリザベス女王を惜しみ、追悼映像がターフに流された。
勝ち馬は、女王の愛馬ハイクレアの血を受け継ぐジェラルディーナだった。
最も「荒れる」牝馬限定戦
エリザベス女王杯は何かと馬券が荒れる大波乱が起こりやすいレースとして知られる。以下はその一例。
- 1989年 サンドピアリスが史上初の最低人気馬によるGⅠ制覇を達成。
- 1996年 ヒシアマゾンがイレ込んだ挙句ゲートに潜り込もうとして外枠発走→2着に入るも斜行で8着降着。
- 1998~99年 2年連続でエリモエクセルが最後の直線で決定的不利を受ける。
- 2001年 1~5着が「ハナハナクビクビ」の大接戦レース。
- 2006年 カワカミプリンセスが史上2頭目の「1位入線からの降着」(その後1勝も出来ずに引退。)
- 2008年 ポルトフィーノがスタート直後に落馬。しかしその後も走り続け、史上初のカラ馬1位入線(当然失格)。
- 2009年 クィーンスプマンテとテイエムプリキュアの人気薄2頭の大逃げ逃げ切り決着で3連単1,545,760円の大波乱。何かと波乱を呼ぶ関西テレビ・馬場鉄志アナ最後の実況というオマケ付き。
- 2021年 10番人気のアカイイトが勝ち、2着7番人気、3着9番人気で3連単3,393,960円の超波乱。
- 2022年 2着同着も伏兵同士で、単勝4-5-12番人気で3連単の合計が495,510円と高配当。
- 2023年 連覇がかかったジェラルディーナがゲートで立ち上がり、まさかの出遅れ。
- 2024年 1倍台の1番人気レガレイラがまさかの5着敗退。また、この日のWIN5は他場も荒れ気味で的中がたったの1票で払い戻し額も4億6496万3450円と歴代5位の高配当を記録した。
優勝馬
馬の太字はJRA賞最優秀3(4)歳牝馬ないしJRA賞最優秀4(5)歳以上牝馬受賞馬。騎手の太字は騎手顕彰者。齢の数字は古馬開放後の年齢(馬齢は現表記)。
☆:牝馬三冠達成・勝利
★:二冠達成・古馬解放後は勝利(「桜」は桜花賞、「樫」はオークス、「秋」は秋華賞との二冠を表す)
回 | 実施年 | 馬名 | 冠 | 齢 | 騎手 | 備考 |
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昭和時代 | ||||||
第1回 | 1976年 | ディアマンテ | 4 | 松田幸春 | テイタニヤの牝馬三冠阻止 単勝8番人気での制覇 | |
第2回 | 1977年 | インターグロリア | ★(桜) | 4 | 福永洋一 | |
第3回 | 1978年 | リードスワロー | 4 | 武邦彦 | キタノカチドキの半妹。 | |
第4回 | 1979年 | ミスカブラヤ | 4 | 岡部幸雄 | カブラヤオーの全妹 | |
第5回 | 1980年 | ハギノトップレディ | ★(桜) | 4 | 伊藤清章 | 華麗なる一族。ダイイチルビーの母。 |
第6回 | 1981年 | アグネステスコ | 4 | 西浦勝一 | ||
第7回 | 1982年 | ビクトリアクラウン | 4 | 嶋田功 | ||
第8回 | 1983年 | ロンググレイス | 4 | 河内洋 | ||
グレード制導入 | ||||||
第9回 | 1984年 | キョウワサンダー | 4 | 樋口弘 | サラ系馬で唯一のGⅠ優勝馬。 | |
第10回 | 1985年 | リワードウイング | 4 | 内田国夫 | ||
第11回 | 1986年 | メジロラモーヌ | ☆ | 4 | 河内洋 | 史上初の牝馬三冠達成 |
第12回 | 1987年 | タレンティドガール | 4 | 蛯沢誠治 | マックスビューティの牝馬三冠を阻止 | |
第13回 | 1988年 | ミヤマポピー | 4 | 松田幸春 | タマモクロスの半妹 | |
平成時代 | ||||||
第14回 | 1989年 | サンドピアリス | 4 | 岸滋彦 | 最下位20番人気で優勝。GⅠ史上最高額の単勝配当43060円。1番人気の桜花賞馬シャダイカグラはレース中に故障。 | |
第15回 | 1990年 | キョウエイタップ | 4 | 横山典弘 | 横山典弘GⅠ初勝利 | |
第16回 | 1991年 | リンデンリリー | 4 | 岡潤一郎 | 岡潤一郎唯一のGⅠ勝利。レース中に故障・ラストラン。 | |
第17回 | 1992年 | タケノベルベット | 4 | 藤田伸二 | 1982年桜花賞馬リーゼングロスの半妹。藤田伸二初のGⅠ勝利は16頭立て15番人気での大金星だった。 | |
第18回 | 1993年 | ホクトベガ | 4 | 加藤和宏 | ベガの牝馬三冠阻止「ベガはベガでもホクトベガです!」 | |
第19回 | 1994年 | ヒシアマゾン | 4 | 中舘英二 | 史上初の外国産馬勝利。オークス馬チョウカイキャロルとハナ差の接戦勝ち。 | |
第20回 | 1995年 | サクラキャンドル | 4 | 小島太 | 天皇賞(秋)馬サクラチトセオー半妹。小島太最後のGⅠ勝利 | |
古馬開放 | ||||||
第21回 | 1996年 | ダンスパートナー | 4 | 四位洋文 | ||
第22回 | 1997年 | エリモシック | 4 | 的場均 | ダンスパートナーの連覇を阻む。「京都は的場均!!」 | |
第23回 | 1998年 | メジロドーベル | ★(樫・秋) | 4 | 吉田豊 | 前年二冠牝馬初勝利 |
第24回 | 1999年 | メジロドーベル | ★(樫・秋) | 5 | 吉田豊 | ラストランで史上初の連覇達成、鞍上の吉田も初の騎手連覇。 |
第25回 | 2000年 | ファレノプシス | ★(桜・秋) | 5 | 松永幹夫 | ラストランで優勝 |
第26回 | 2001年 | トゥザヴィクトリー | 5 | 武豊 | 鞍上の武豊、初の父子エリ女制覇。 | |
第27回 | 2002年 | ファインモーション | 3 | 武豊 | 古馬開放後初の3歳牝馬勝利。2人目の騎手連覇。 | |
第28回 | 2003年 | アドマイヤグルーヴ | 3 | 武豊 | 三冠牝馬スティルインラブの4冠阻止。武豊三連覇。 | |
第29回 | 2004年 | アドマイヤグルーヴ | 4 | 武豊 | 史上2頭目の連覇。武豊史上唯一のエリ女四連覇 | |
第30回 | 2005年 | スイープトウショウ | 4 | 池添謙一 | ||
第31回 | 2006年 | フサイチパンドラ | 3 | 福永祐一 | カワカミプリンセス降着で繰り上がり。鞍上の福永、2人目の父子エリ女制覇。 | |
第32回 | 2007年 | ダイワスカーレット | ★(桜・秋) | 3 | 安藤勝己 | 同年の二冠牝馬初勝利。「ウオッカのためにも負けられない!」 |
第33回 | 2008年 | リトルアマポーラ | 3 | C.ルメール | ポルトフィーノが落馬・空馬で1着入線 | |
第34回 | 2009年 | クィーンスプマンテ | 5 | 田中博康 | 田中博康騎手唯一のGⅠ勝利。2着テイエムプリキュア と大逃げ、ブエナビスタ猛追するも3着。「これが競馬の恐ろしさ!」 | |
第35回 | 2010年 | スノーフェアリー | 3 | R.ムーア | 英オークス馬。史上初かつ現在まで唯一の外国馬(英国)が制覇 | |
第36回 | 2011年 | スノーフェアリー | 4 | R.ムーア | 史上3頭目の連覇。外国馬の連覇も現在まで唯一。鞍上のムーアは3人目の騎手連覇。 | |
第37回 | 2012年 | レインボーダリア | 5 | 柴田善臣 | ブライアンズタイム産駒最後のGⅠ勝利。 | |
第38回 | 2013年 | メイショウマンボ | ★(樫・秋) | 3 | 武幸四郎 | 2頭目の同年の二冠牝馬勝利だが、同時に最後の勝利となった。 |
第39回 | 2014年 | ラキシス | 4 | 川田将雅 | 初重賞・GⅠ制覇 | |
第40回 | 2015年 | マリアライト | 4 | 蛯名正義 | 6番人気で悲願の初重賞・GⅠ制覇 | |
第41回 | 2016年 | クイーンズリング | 4 | M.デムーロ | 府中牝馬Sから連勝でGⅠ制覇 | |
第42回 | 2017年 | モズカッチャン | 3 | M.デムーロ | 鞍上のデムーロ、4人目の騎手連覇。 | |
第43回 | 2018年 | リスグラシュー | 4 | J.モレイラ | 鞍上は初GⅠ制覇 | |
令和時代 | ||||||
第44回 | 2019年 | ラッキーライラック | 4 | C.スミヨン | 「2歳女王が蘇る!2歳女王が蘇る!」 | |
第45回 | 2020年 | ラッキーライラック | 5 | C.ルメール | 史上4頭目の連覇。阪神での代替開催。 | |
第46回 | 2021年 | アカイイト | 4 | 幸英明 | 古馬GⅠ初「掲示板が全員重賞未勝利」の大波乱。昨年に続き阪神開催。 | |
第47回 | 2022年 | ジェラルディーナ | 4 | C.デムーロ | 国内GⅠで初めて2着同着(ウインマリリンとライラック)。阪神開催。 | |
第48回 | 2023年 | ブレイディヴェーグ | 3 | C.ルメール | 4年ぶりの京都競馬場開催。鞍上のルメールは5人目の騎手連覇。 | |
第49回 | 2024年 | スタニングローズ | 5 | C.デムーロ | レースレコード(2分11秒1)。一昨年の秋華賞馬復活勝利。 |
関連項目
クイーンステークス…GⅢ。こちらも3歳牝馬限定戦から古馬牝馬混合戦に変更された重賞。