ターフに咲く、大輪の花。
決してあきらめない。
自分の力を信じ、走り続けるその先には
栄光のゴールがいくつも見える。
"優美な百合"リスグラシュー。
美しさと強さの花が舞う。
≪「ヒーロー列伝」No.84≫
経歴
2014年1月18日生まれ。
父は三冠馬ディープインパクトを破った唯一の日本馬ハーツクライ、母は仏リステッド競走を3勝したリリサイド。母の父は2歳から3歳にかけて欧州G1を3勝したAmerican Post。
半姉2頭と同様にキャロットファームで募集が始まり、ダービー馬ディープブリランテなどのGⅠ馬を輩出した矢作芳人に入厩。
2歳
2016年の新馬戦では中谷雄太を背に1番人気で迎えるも、ルートディレクトリを捉えることが出来ずにクビ差2着。
続く未勝利戦では4馬身差の圧勝。
アルミテスステークスでは武豊が騎乗し、猛追するフローレスマジックを抑えて勝利。阪神JFでは香港に遠征する武豊に代わって戸崎圭太が騎乗するも欧州の怪物Frankelの娘・ソウルスターリングの2着に終わった。
(なお種牡馬Frankelにとっては、初の産駒によるG1制覇となった。)
3歳
トライアルのチューリップ賞では再びソウルスターリングに負けての3着。
桜花賞では同馬(3着)には先着するものの、レーヌミノルを捉えきることが出来ずに2着。
オークスでは展開が向かずソウルスターリングの5着。
ローズSの3着を挟み、3歳牝馬限定レース最終戦の秋華賞では後に英G1ナッソーSを勝利するディアドラに差し切られ2着。
エリザベス女王杯では負傷後の武豊に代わり福永祐一が騎乗。しかしスローで前方有利の展開について来れず、秋華賞で3着だったモズカッチャンの8着となった。
4歳
2018年の春は武豊と共にマイル路線を突き進むことになる。
初戦の東京新聞杯で3番人気に推されての勝利、約1年3か月ぶりであった。
しかし、本質的にマイルが合わなかったのかその後の阪神牝馬S、ヴィクトリアマイルでは勝ち切ることが出来ず、安田記念ではモズアスコットの8着に終わった。
そして秋、陣営は香港を見据えてか『雷神』『マジックマン』の異名を持つジョワン・モレイラを鞍上に向かえる………予定だったが、モレイラ騎手の騎乗停止により府中牝馬Sはミルコ・デムーロが騎乗。猛烈な追い上げを見せるも、それ以上の速さで追い上げてきたディアドラの2着。
そしてここから、父ハーツクライを思わせるかのような覚醒ぶりを発揮することになる。
エリザベス女王杯
「今度こそ、今度こそ、今度こそ金メダルだリスグラシュー!」
前年覇者モズカッチャン、紫苑Sで圧勝したノームコアに次ぐ3番人気に推されたリスグラシュー。道中は前年2着のクロコスミアがスローペースで逃げる展開となり、同馬の逃げ込みに他馬がついて来れない中、唯一頭追い込んでクビ差で制してのゴールイン。8度目の挑戦にしは初のGⅠ制覇、鞍上モレイラにとってもJRAのGⅠ初勝利となった。この勝利により、シルバーコレクターを返上した。
その後、クロコスミアと共に香港ヴァーズに出走。後の凱旋門賞勝ち馬ヴァルトガイストを始めとする各国の強豪が集ったが、最後の直線で地元香港勢のエグザルタントに差されての2着に終わった。しかし、エリザベス女王杯での活躍が評価されJRA賞最優秀4歳以上牝馬に選出された。
5歳
2019年、最後の年となる彼女の初戦はドイツのシュタルケ騎手を鞍上に金鯱賞、その後香港のクイーンエリザベス2世カップ(QE2世C)に挑戦するプランが発表。
金鯱賞ではゲートの中でバランスを崩しスタートで出遅れるも、メンバー中最速1位タイの上がりで2着を確保。(勝ったのは同じく最速上がりだった2歳王者・ダノンプレミアム)
QE2世Cでの鞍上はこの年英リーディングジョッキーとなるマーフィー騎手。日本勢としてディアドラ、中山巧者・ウインブライトと共に参戦。最後の直線では外でエグザルタントと並びながら追い込みを図るも、内を回ったウインブライトが前の馬を追い抜いての1着。リスグラシューはエグザルタントに次ぐ3着となった。
宝塚記念
「牡馬を一蹴!リスグラシュー!」
ファン投票9位に選ばれたリスグラシューは唯一の牝馬として参戦。鞍上はこの年、2歳レースとして世界最高の豪G1・ゴールデンスリッパーを制したダミアン・レーン。
GⅠ馬6頭を交えてのレースは予想通りキセキが先頭。しかし、リスグラシューが二番手で走るというこれまでにない展開となった。レーン騎手は「(2番手でも)大丈夫ではないかと判断した。」とのことだった。
その後直線で先頭に立つと、スワーヴリチャードを始めとする後方勢の追撃を許さずの1着。マリアライト以来史上4頭目の牝馬による宝塚記念制覇となった。
コックスプレート
宝塚記念優勝馬には海外遠征に対する優遇措置として、米ブリーダーズカップターフ(BCターフ)と豪コックスプレートへの優先出走権が付与され、遠征面でも一部費用を主催者負担となっていた。
しかし、リスグラシューが春に香港遠征していたことにより、オーストラリアの検疫規定によりコックスプレートへの出走が不可能と判明(オーストラリアは香港に対する検疫で180日ルールを設けるなど、対立していた経緯がある)。一時はオールカマーからのスタートを考えていたが、『オーストラリア農務省をはじめとする関係各位の努力により検疫規定の改定が間に合って、遠征が可能になったのだった。』ということで、コックスプレートへの直行が決まった。
鞍上は引き続きD.レーン。ブックメーカーは各社ともに1番人気、国内でも馬券発売がされ単勝1.7倍という高い支持を受けた。外枠からスタートしたリスグラシューは最終コーナーで押し上げると、173mという短い直線で先頭を差し切り、2着のマジックワンドに1馬身半の差をつけて優勝。
GⅠ3勝目を海外で制し賞金300万豪ドルに加え褒賞金200万豪ドル、合わせて500万豪ドル(約3.5億円)を獲得。日本勢としても2週連続豪G1勝利(メールドグラースのコーフィールドカップ制覇、こちらも鞍上はD.レーン)となった。
有馬記念
帰国後、陣営は有馬記念を引退レースとすることを発表。鞍上のレーン騎手は既に2か月の短期免許の交付期間を終えていたが、「同一馬で本会GⅠ競走で2勝以上」という条件を満たした騎手には1日限定の免許交付が認められていた。この『本会』にはコックスプレートを始めとした、JRAが馬券発売をした海外競走も含まれている。リスグラシューで宝塚記念とコックスプレートの2勝で達成したレーン騎手にはミルコ・デムーロ騎手(ネオユニヴァースで二冠を達成した2003年の菊花賞)以来の特例で、1日限定の短期免許が交付された。
この有馬記念にレース史上最多11頭のGⅠ馬(リスグラシュー・キセキ・レイデオロ・シュヴァルグラン・アーモンドアイ・サートゥルナーリア・アエロリット・フィエールマン・ワールドプレミア・スワーヴリチャード・アルアイン)が集結する豪華メンバーとなった。中でも1番人気だったのが香港カップを回避したアーモンドアイ。同馬は前年、牝馬三冠を達成すると続くジャパンカップで2:20:6の2400mワールドレコードを叩き出した。今年と合わせてGⅠを6勝するなど最強女王として注目を受けていた。GⅠを連勝したリスグラシューはアーモンドアイに次ぐ単勝2番人気に支持された。
レースはアエロリットが1000m通過58秒5というハイペースで逃げ、中団のアーモンドアイの後ろで走るリスグラシュー。コーナーでは馬なりで外に持ち出し進路を確保すると、でアーモンドアイら先頭を走る馬達に並ぶと。最後の直線で圧倒的な伸びを見せて他馬を一蹴。2着のサートゥルナーリアにレース史上4位タイの着差である5馬身差をつけての圧勝。
ドリームジャーニー以来の史上10頭目の同一年春秋グランプリを制覇、牝馬としては初の偉業である。矢作師も管理場の有馬記念初出走初制覇となった。
この年、GⅠを3勝した彼女はJRA賞の記者投票で274票中271票という圧倒的支持で年度代表馬に選出。最優秀4歳以上牝馬も2年連続での選出となった。
エピソード
- 2歳の頃に開かれたノーザンホースパークのマラソンで、リスグラシューの一口馬主権が女子優勝者に景品として贈呈された。
- GⅠで2着を繰り返していたことから、例によって馬なり1ハロン劇場のブロコレ倶楽部会員となる。
- 父・ハーツクライは有馬記念で無敗の三冠馬・ディープインパクトを破っており、同産駒のジャスタウェイもレースこそ違えど4歳秋でジェンティルドンナに勝利した。娘がアーモンドアイを倒したのも、父の血の運命と言えるかもしれない。
- 有馬記念の父娘制覇は、ディープインパクト・ジェンティルドンナ以来2例目となる。
- オーストラリアでは、外国馬として2020年度ヴィクトリア州の年度代表馬にノミネートされた。(受賞こそ逃したが、年度代表馬ネイチャーストリップとの差は僅か5票であった。)