ホクトベガ
ほくとべが
父はカナダ生まれのナグルスキー、母タケノファルコン、母の父がフィリップオブスペインという血統。全兄ホクトサンバーストと同じく、大きな馬体だった。
命名は馬主・森滋の奥さん。冠名「ホクト」にハ行の言葉を足すというマイルールから琴座α星「ベガ(織女星)」を選んだという。濁点は気にしたら負け。
1992年に、美浦の中野隆良厩舎に入厩。ガタイの良さに対して体力が全くなく、デビューは遅れに遅れる。
翌年、中山競馬場の新馬戦でデビューし、当初の主戦騎手・加藤和宏を鞍上に9馬身差で圧勝。次走の条件戦の朱竹賞では半馬身差で2着と惜敗するも、続くカトレア賞では3馬身差の快勝。
初重賞として、桜花賞の前哨戦であるGⅢフラワーカップへ参戦し、見事に1着(トライアルではないため、優先出走権は獲得していない)。
ちなみに、このフラワーカップが初めての芝レースであった。
その後は牝馬クラシックに挑み、桜花賞に出走するも5着。次走の優駿牝馬(オークス)でも6着。同じ織女星の名を持つベガが牝馬二冠と輝きを放つ中、ホクトベガは良いとこ無しで春シーズンを終えた。
秋になり、ホクトベガはGⅢクイーンステークス(当時はエリザベス女王杯のステップレース)へ挑戦するも2着。続くGⅡローズステークスでも3着と勝つことは出来なかったものの、GⅠエリザベス女王杯への出走権を手にする事はできた。
第18回エリザベス女王杯
ローズステークスでの優先出走権を手に、ホクトベガはエリザベス女王杯へ出走。
ベガの牝馬3冠達成なるか(当時はまだ秋華賞がなく、牝馬3冠最終戦はエリ女)が話題となっていた。
ホクトベガはそれまでの成績が振るわなかったためか、単勝オッズ30.4倍の低人気。
対するベガの単勝オッズ3.7倍の2番人気だった(一番人気はローズステークスを勝利したスターバレリーナ)。
ところが、このレースにおいてホクトベガは最内を突っ切り、2分24秒9のレコードタイムで優勝。牝馬3冠が期待されていたベガに3馬身半つけての勝利であった。
この時、実況の馬場鉄志アナ(当時関西テレビ)の叫んだ
「ベガはベガでもホクトベガです!!」
のフレーズは、競馬ファンの間ではあまりにも有名。
ちなみに、同アナは「東(美浦)の一等星ベガ、輝いたのはホクトのベガです!」とも続けている。これはベガが勝ったオークスでの三宅正治アナ(フジテレビ)の実況「西(栗東)の一等星は東の空にも輝いた!」を受けたもの。
悲願のGⅠ制覇を遂げたホクトベガだったが、次走のターコイズステークスでは、以前のクイーンステークスでも後塵を拝したユキノビジンに敗れ3着に終わった。
古馬となったホクトベガの年明け初戦は、ダート重賞のGⅢ平安ステークス。
2番人気に押されたものの、10着と大敗してしまう。
その後、GⅢ中山牝馬ステークスや、GⅡ毎日王冠などに出走するもことごとく敗退。
結局5歳時は、オープン特別の札幌日経オープン、及びGⅢ札幌記念の2戦を制しただけで終わってしまった。
5歳時の成績は9戦2勝(内重賞1勝)。
この頃は成績が伸び悩んでいたため障害競走への転向も検討されており、実際に障害飛越の調教が行われてもいた。GⅠ馬なのに。
が、ホクトベガは6歳時にGⅡアメリカジョッキークラブカップで2着と好走したため、障害への転向は白紙にされた。
3月のGⅡ中山記念で8着と敗れた後、主戦騎手を横山典弘に変更。しかしGⅡ京王杯スプリングカップ3着、GⅠ安田記念5着と、やはり勝てない。
しかし、そんなホクトベガもついに天職(?)を発見するに至るのであった。
1996年7歳となったホクトベガは、地方GⅠ川崎記念に出走した。
この年の川崎記念は、新設されたばかりの世界ダート王決定戦ドバイワールドカップに挑戦する日本のダート王者ライブリマウントの壮行レースのような扱いであり、「打倒ライブリマウント」を掲げて中央のトーヨーリファール等も出走するなど、かなりの盛り上がりを見せていた。
そんなレースで、ホクトベガは大爆走。
2着のライフアサヒに5馬身差をつけての圧勝であった。
その後も、中央の当時はGⅡフェブラリーステークス(現在はGⅠ)や、ダート王決定戦の地方GⅠ帝王賞等に出走し、サクサク勝利。この時点で同厩舎のヒシアマゾンの獲得賞金額を更新し歴代賞金女王に、牝馬で史上初の獲得賞金7億円ホースとなった。
盛岡の南部杯までで、交流重賞含めダート重賞8連勝という怒涛の快進撃を見せた。
あまりの勝ちっぷりに、盛岡のマイルCS南部杯では「女王様とお呼び!!」という迷実況まで飛び出した。
途中エリザベス女王杯や有馬記念などで敗退するも、この年ダート重賞は全勝。1996年最優秀ダート馬を殆ど満票で選出される。
翌年の川崎記念も勝利し、中央地方ダート交流重賞10連勝という大記録を達成したのであった。
1997年、ホクトベガも8歳となり、陣営はいよいよもってホクトベガを引退させる決断をした。
引退レースは、第2回ドバイワールドカップ。
前述の通り、ドバイワールドカップはダート馬の世界王者決定戦とでもいうべき競走。
「砂の女王」ホクトベガの最後のレースには絶好の舞台であった。
その後はヨーロッパへ渡り、欧州の一流種牡馬たちと交配させる計画も立てられていた。
しかし、ここでホクトベガを突然の不幸が襲った。
ドバイワールドカップの最終コーナーで、ホクトベガは「馬場のわずかなくぼみに左前脚をとられて」転倒。
左前腕節部複雑骨折を発症し、予後不良の診断が下されてしまったのである。
ホクトベガは、そのままドバイで安楽死の処置を受ける。
砂の女王は、遠きドバイの地で散った。
この事故の明確な原因は、未だにわかっていない。
生涯獲得賞金は、8億8812万6000円。
2009年にウオッカが記録を塗り替えるまで、牝馬の獲得賞金では歴代最高額であった。
日本馬によるドバイワールドカップ制覇は、ホクトベガの死から14年後の2011年、ヴィクトワールピサが成し遂げた。
奇しくも、ヴィクトワールピサが勝利した3月26日は、ホクトベガの誕生日であった。
ゴールイン後のその姿で、ホクトベガを思い出した競馬ファンも多いのではないだろうか。
- ホクトベガを扱っていた中野調教師がホクトベガの強さについて問われた際に答えた「彼女はモナリザ。その強さは永遠の謎です。」という一言は、ホクトベガを象徴する言葉として語り継がれている。
- ホクトベガが勝利したエリザベス女王杯では、生産者の酒井公平氏は競馬場へ行かなかった。まさか勝つ事は無いだろうと思っていたためであり、その後「折角の晴れ舞台なのに、彼女には申し訳ないことをした。馬を見る目が無いことを思い知らされた。あの馬の強さを見抜くことができなかったなんて、プロのホースマン失格」と話している。
- ダート路線での大活躍の一因には、一時期行われていた障害競走用の調教が功を奏したとも言われている。「障害飛越の調教を重ねるにつれて足腰が鍛えられ、よりダート向きの馬体になった」という説である。2年前にメジロパーマーが障害競走から平地GⅠを勝利した事も手伝い、現在では平地競走専門の馬にも障害調教が行われる事がある。
- ホクトベガの遺体は、検疫の関係で日本に持ち帰る事が出来なかった。そのため、故郷の酒井牧場にある墓には、彼女のタテガミのみが埋まっている。
- ホクトベガは川崎競馬場でのレースは4戦4勝の無敗を誇り、川崎記念とエンプレス杯の2重賞を連覇している。そのため、現在川崎競馬場で行われているダートグレード競走のスパーキングレディーカップ(jpnⅢ)には、彼女を記念し「ホクトベガメモリアル」の副題が付けられている。
- ホクトベガ最期のレースから四半世紀後の2023年、芝からダートに転向して連勝街道をひた走るウシュバテソーロが川崎記念を制すると、その勢いのままドバイワールドカップに乗り込み、見事これを制して日本馬として史上2頭目の偉業を成し遂げた。実は2024年より川崎記念は開催時期を4月上旬に変更することが発表されており、ホクトベガが辿った「川崎記念→ドバイワールドカップ」の出走ローテーションはこの年が最後のものとなっていた。かくしてウシュバテソーロは、ホクトベガの雪辱を晴らす最後のチャンスを生かし、見事それを実現したのである。
ホクトベガのあり得ないほどの強さは、フェブラリーSを勝った史上唯一の牝馬というだけでも分かる程。フェブラリーSというレースにおいては連対したのもゴールドティアラだけ、ドバイワールドカップで日本の牝馬として史上初の連対を果たしたトゥザヴィクトリーもフェブラリーSでは3着と連対出きていない。
ダートレース自体パワーが重要なので、牝馬=切れ、とは真逆の要素が必要となるためだと思われる。中央ダートGIではチャンピオンズカップの方も勝ったのはサンビスタだけしかいないように、本来ダートは牝馬には向いていないレースといえる。
4歳
4歳新馬 1着
朱竹賞 2着
カトレア賞 1着
フラワーカップ(GⅢ) 1着
桜花賞(GⅠ) 5着
優駿牝馬(GⅠ) 6着
クイーンステークス(GⅢ) 2着
ローズステークス(GⅡ) 3着
エリザベス女王杯(GⅠ) 1着
ターコイズステークス 3着
5歳
平安ステークス(GⅢ) 10着
中山牝馬ステークス(GⅢ) 4着
京王杯スプリングカップ(GⅡ) 5着
札幌日経オープン 1着R
札幌記念(GⅢ) 1着
函館記念(GⅢ) 3着
毎日王冠(GⅡ) 9着
富士ステークス 6着
阪神牝馬特別(GⅡ) 5着
6歳
アメリカジョッキークラブカップ(GⅡ) 2着
中山牝馬ステークス(GⅢ) 2着
中山記念(GⅡ) 8着
京王杯スプリングカップ(GⅡ) 3着
安田記念(GⅠ) 5着
エンプレス杯(交流GⅠ) 1着
函館記念(GⅢ) 11着
毎日王冠(GⅡ) 7着
天皇賞(秋)(GⅠ) 16着
福島記念(GⅢ) 2着
阪神牝馬特別(GⅡ) 5着
7歳
川崎記念(交流GⅠ) 1着
フェブラリーステークス(GⅡ) 1着
ダイオライト記念(交流GⅠ) 1着
群馬記念(交流競走) 1着R
帝王賞(交流GⅠ) 1着
エンプレス杯(交流GⅡ) 1着
マイルチャンピオンシップ南部杯(交流競走) 1着
エリザベス女王杯(GⅠ) 4着
浦和記念(交流GⅠ) 1着
有馬記念(GⅠ) 9着
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