概要
コース上に設置された障害物を越えてゴールを目指す。順位はゴールへの到達順のみで決まり、馬術の障害飛越と違って飛越のスタイルそのものは評価対象にはならない。
極論すれば障害を飛び越さずにまたいだり、土台の上や濠の中に着地したりしてもよい。ただし、設定された障害は全てクリアすることが必要で、避けて通過すると失格となる。
障害を飛び越す際に失敗して馬が転倒したり、騎手が落馬したりすることもある。そのためスピードを抑えるべくコース長は長距離で設定され、斤量も重めに設定されている。
主催者に一定の余裕が無いと障害競走は行えず、法律上は地方競馬でも障害競走を行うことが認められているが、岸和田市にあった春木競馬場での開催を最後に地方競馬での障害競走は行われていない。
国際的に見ても国際競馬統括機関連盟に正式に加盟している59ヶ国・地域のうち、障害競走を開催しているのは11ヶ国と少ない。
下位分類
障害競走を大きく分けると、スティープルチェイス(steeplechase)とハードル(hurdle)に分類される。
ただし、スティープルチェイスには障害競走全般の総称としての用例もあり、特に下位分類を指す場合にはチェイス(chase)、または障害競走の総称としてジャンプ(jump)を用いることも多い。
スティープルチェイス
スティープルチェイスは固定障害、つまりコース上に恒久的に設置された生垣や水濠といった障害を使用する競走のことである。基本的に障害が高く奥行きもあるため、大きく確実な飛越や障害をかき分ける力が必要とされる。また、一般的にハードルよりも施行距離が長く、飛越の回数も多い。
欧州を中心に施行される形式であると同時に、欧州で中心的な地位にある形式でもあり、欧州各国で権威や人気のある競走の多くがスティープルチェイスである。
ハードル
ハードルは置き障害、つまりコース上に一時的に設置された障害を使用する競走のことである。置き障害は移動を前提としているため基本的に小規模でかき分けやすい。そのため、確実ながらも低い飛越によってスピードを維持することが重要となる。
アメリカではほとんど全ての障害競走がハードルであるが、イギリス・アイルランドやフランスといった欧州でも広く行われている。
日本において
障害競走が開催される日本の競馬場は、スティープルチェイスにおおむね相当する「固定障害コース」とハードルにおおむね相当する「置き障害コース」に大別される。
「固定障害コース」は固定障害を設置した障害競走専用の周回コースを持つ、中山・東京・京都・阪神・小倉の五場を指す。
固定障害は生垣を主とすると同時に、全てのコース設定で水濠と竹柵を少なくとも一度ずつは通過するようになっている。
これらの競馬場でも、最終直線で芝コースを使用する競走では、一部を除き芝コースにハードルが設置される。特に平地芝コースを使用する区間が長くハードルが複数設置される中山グランドジャンプとペガサスジャンプステークスは、スティープルチェイスとハードルの複合競走としての性質が強い。
一方の「置き障害コース」は福島・新潟・中京の三場で、障害競走専用の周回コースを持たない。
ただし、福島競馬場では固定障害を設置した襷コースを必ず一度通過するよう設定されており、純粋なハードルコースではない。なお、新潟・中京にもかつて同様の襷コースが存在した。
このように、日本の障害競走は単純にスティープルチェイスとハードルに二分できるものではない。
また、生垣と竹柵という性質の異なる固定障害を同じコースで使用したり、海外ではクロスカントリー競走のものである急な坂路(中山は谷型・小倉と福島は山型)や跳び上がり跳び降り台(京都の重賞専用コース)が設置されていたりする点も独特である。
日本の障害競走
略史
戦前は軍馬改良という目的に合致したこともあって、最終的には年間競走数が平地競走の半分以上となるなど発展を遂げた。
戦後になると平地競走(いわゆる競馬と聞いて想像されやすいもの。障害を飛越することなくスタートからゴールまでの速さを競う)で活躍できなかった馬がもうひと頑張りする場という傾向になり、水準・人気ともに低下していった。
重賞やOP特別競走がいくつか新設されたものの軒並み出走頭数は少なく、1980年代以降は出走登録頭数が足りずに施行されないという事例すらあった。1990年代中盤には廃止論さえささやかれるようになる。
そんななか、1999年にグレード制導入や競走体系変更など、翌年には中山グランドジャンプの国際招待競走化などの番組改革が実施された。さらに2010年代からはオジュウチョウサンの活躍などにより注目の度合いも上がっている。一方で売り上げ・賞金ともに平地競走に比べると低水準であるという問題も残っている。
また、2010年代からは障害競走に騎乗する騎手の不足が深刻化し、2014年にはそれに合わせた番組改革も行われた。
使用される障害
東京競馬場に併設されている競馬博物館では、生垣・竹柵・グリーンウォールという三種類の固定障害のサンプルが展示されている。
生垣
最も多用される固定障害。文字通り、コース状に植えられた生垣である。樹種はマサキが用いられている。
固定障害では最もかき分けやすいが、その分高さ・幅ともに大きい。
竹柵
固定障害コースには必ず一つ以上設置されている。竹の細枝を束ねた箒状のものを土台に並べ植えたもので、全体的な形状は毛先を上にして置いたブラシに近い。
生垣よりもかき分けづらく、より確実な飛越が求められる。
グリーンウォール
合成樹脂素材でできた竹柵。福島・東京・阪神に一カ所ずつ設置されている。
竹柵よりもさらにかき分けづらく、さらに確実な飛越が求められる。高さや幅は竹柵とほぼ同じ。
水濠
水を張った濠と、その手前にある小ぶりな生垣で構成される。
全体の幅は約4mと、幅の大きな飛越が必要となる。飛越の幅が足りないと後肢だけが濠の中に着地し、体勢が大きく崩れてしまう。
競馬実況でよく言われる『トモを落とす』というのは飛越に失敗して水壕に着地したという意味。
置き障害
牽引車による移動や、分割して人力での移動が可能な小型の竹柵障害。
高さは固定障害の竹柵と変わらないが、竹柵部分の厚みが小さくかき分けやすい。
バンケット
本来は跳び上がり跳び降り台を指す。現在は京都競馬場の重賞でのみ用いられる。
その名の通り上に跳び乗って数完歩走り、跳び降りる土壇である。一般的に遠近感に乏しい馬という動物にとっては難易度が高く、エスコートする騎手にとっても難所である。
坂路
こちらも慣習的に「バンケット」と呼ばれる。
福島・小倉では襷コース上に築かれた山型坂路で、ともに平均斜度は上り下りとも約7%。
中山では自然地形を利用した谷型坂路で、障害コースの2・3コーナーと大障害コースへの入り口に存在する。大障害コースでは深さ5.3m、3コーナーでは上りの平均斜度が12.5%となる難所である。
主な障害重賞
平地と同様に主要国ではグレード制が導入されている。
ただし国際的に統一された基準はなく、各国が独自の基準で格付けを行っている。
日本国内(JRA)の現行障害重賞
※J・GはJump・Grade(ジャンプ・グレード)の略
※GⅠ競走と、中山グランドジャンプの前哨戦であるペガサスジャンプステークス(OP特別)が国際競走に指定されている。
J・GⅠ
J・GⅡ
J・GⅢ
海外の障害競走
イギリス・アイルランドを例に挙げると、障害レースは『ナショナルハント競走』と呼ばれ、大きくハードル・チェイス・バンパーの3種類に分かれている。
ハードル
ハードルは、チェイスに比べて障害の高さも低めで、スピードに乗ったまま飛越していくのが特徴。また、日本と違って障害レース専用の競馬場もある欧州では、必ずしも置き障害の障害レースを指すものではないこともある。
ハードルで実績を積んだ馬は、チェイスへと転向していくのが普通だが、1997年~1999年にチャンピオンハードル(英G1)を三連覇したイスタブラクのように、ハードルに残り輝かしい成績を挙げた馬もいる。
チェイス(スティープルチェイス)
設置されている障害が、コース上に整備された高い固定障害で、飛越が難しいのがチェイス(スティープルチェイス)である。
ハードルで実績を積んだ馬が活躍の場を移すのがチェイスであり、ハードルに比べて障害の高さが段違いのため、飛越のセンスと騎手の技量が問われる難しい障害を飛ばなくてはならない。
チェイスの最高峰は、グランドナショナル(英プレミアムハンデキャップ)とチェルトナムゴールドカップ(英G1)である。
バンパー
バンパーは障害レースの言わば平地戦で、障害は飛ばないが距離は最低でも2マイル以上(約3,200m)と、障害レースの規則と条件で施行される長距離レースである。
出走馬は、3歳以降に平地レースに出走したことがなく、イギリスまたはアイルランドの障害レースで3着以内に入着した実績がある、7歳以下の馬が条件となっている。
最高峰はチェルトナムフェスティバルで開催されるチャンピオンバンパー(英G1)である。
このほかに「ノービス」という施行条件があるが、ノービスは障害レースの経験が浅い馬に限定して施行されている、言わば条件戦である。
しかし、重賞レースもあり、シュプリームノービスハードル(英G1)やゴールデンミラーノービスチェイス(英G1)のようなG1レースもあるため、日本の条件戦とはかなりニュアンスが異なる。
登竜門のような位置づけと言ってもいいだろう。
イギリス・アイルランドでは、障害レース用の競走馬は2歳でデビューするようなことはなく、3歳になってからデビューすることが多く、4~6歳でデビューすることも珍しくない。
このように日本の競馬と欧州の競馬とでは、文化的背景の違いもあってレース体系も施行条件も全く異なるので、一概に比較するのは難しい。
そもそもの話、目の前の障害を避けるのでなく飛越するという選択は生物学的に遠近を識別しづらいウマにとっては難易度が高い芸当なので、まずは騎手が御せるだけの調教を行ってから障害に転向できそうならその訓練するという形式なので、若馬から障害直行というのは日本ではまずもってありえないのである。
日本の障害未勝利戦もその理由で馬齢制限がある。
海外の主な障害重賞
チェイス
- チェルトナムゴールドカップ(英国)
- グランドナショナル(英国)
- パリ大障害(フランス)
- ラ・エ・ジュスラン賞(フランス)
- アイリッシュ・ゴールドカップ(アイルランド(共和国))
- アイリッシュ・グランドナショナル(アイルランド)
ハードル
- チャンピオンハードル(英国)
- オートゥイユ大ハードル(フランス)
- アイリッシュ・チャンピオンハードル(アイルランド)
- グランドナショナルハードル(アメリカ合衆国)