概要
第166回天皇賞とは、2022年10月30日に開催された天皇賞(所謂天皇賞(秋))である。
データ
開催日 | 2022年10月30日 |
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開催地 | 東京競馬場 |
距離 | 芝2000m |
天気 | 晴 |
馬場 | 良 |
出走馬
枠番 | 場番 | 馬名 | 性別 | 騎手 | 人気 |
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1 | 1 | マリアエレーナ | 牝4 | 松山弘平 | 6 |
2 | 2 | カラテ | 牡6 | 菅原明良 | 9 |
2 | 3 | パンサラッサ | 牡5 | 吉田豊 | 7 |
3 | 4 | ポタジェ | 牡5 | 吉田隼人 | 8 |
3 | 5 | ダノンベルーガ | 牡3 | 川田将雅 | 4 |
4 | 6 | ジオグリフ | 牡3 | 福永祐一 | 5 |
4 | 7 | イクイノックス | 牡3 | クリストフ・ルメール | 1 |
5 | 8 | シャフリヤール | 牡4 | クリスチャン・デムーロ | 2 |
5 | 9 | ジャックドール | 牡4 | 藤岡佑介 | 3 |
6 | 10 | レッドガラン | 牡7 | 横山和生 | 14 |
6 | 11 | ノースブリッジ | 牡4 | 岩田康誠 | 11 |
7 | 12 | バビット | 牡5 | 横山典弘 | 12 |
7 | 13 | アブレイズ | 牝5 | トム・マーカンド | 13 |
8 | 14 | ユーバーレーベン | 牝4 | ミルコ・デムーロ | 10 |
8 | 15 | カデナ | 牡8 | 三浦皇成 | 15 |
レース前の動向
前年覇者のエフフォーリアは故障による出走回避、上半期のG1戦線を沸かせたタイトルホルダーとダービー馬ドウデュースが凱旋門賞へ出走となり、直近のスターホースの姿が見えないレースとなった。
だが下は3歳から上は8歳まで揃ってその出走馬全てが重賞勝利馬、その内G1勝利馬はジオグリフ、シャフリヤール、ユーバーレーベン、パンサラッサ、ポタジェの5頭という強豪揃いとなった。
また、パンサラッサ、ジャックドール、バビット、ノースブリッジと逃げを得意とする馬が多く並んだ。特に逃げ馬の中では同年の福島記念で派手な大逃げを見せドバイターフで見事G1馬となったパンサラッサ、金鯱賞勝利で「令和のサイレンススズカ」と呼ばれ札幌記念でパンサラッサと叩き合いを制したジャックドールに注目が集まり、特にジャックドールは直前の札幌記念でパンサラッサを下した実績が見込まれたのか3番人気となった。
長い最終直線と登り坂がラストに待ち受ける府中2000mは脚を溜められない逃げ馬に不利とされており、例年もミドル~スローペースの展開が続いていた。しかしここまで逃げ馬が揃えば2011年開催(トーセンジョーダンによるレコード樹立)でシルポートが見せたようなハイペースでグイグイと引っ張っていく展開も起こりえるか、という期待もされていた。
レース展開
スタートと共にパンサラッサとノースブリッジが先頭争いを開始、大外カデナは最後方に位置する形に。
向こう正面に入ると先頭は大方の予想通りパンサラッサ、バビット、ノースブリッジ、ジャックドールが上位集団となったが、ペースを落とした事で最後方のレッドガラン、ユーバーレーベン、カデナも含めて徐々に距離が詰まって集団が固まってゆく。
たった1頭を除いて。
ハナを奪ったパンサラッサが、後方がスローペースになったことなどお構いなしにハイペースを維持、実況が順位を読み上げていく中もどんどんと距離を離す。
気が付けばパンサラッサがたった1頭で大逃げを披露する展開となった。
観客の間でもどよめきが大きくなる中、1000mのラップタイムが出たその瞬間、驚愕と歓声が観客席で爆発した。
「大歓声が沸き起こっている。最初の1000m、57秒4!!」
(NHK 小宮山晃義局員による実況)
それはただのハイペースではない。大逃げ馬の代名詞、サイレンススズカが秋天に出走した際に出したラップタイムと完全に一致していたのだ。
パンサラッサの強みはド派手なハイペース逃げなのは周知の事実であり、実際大逃げをかますまでは多くの人々が予想した展開だろう。
だがその状況で、ラップタイムまであの時と一致するとは誰が予想しただろうか?
「さぁパンサラッサ、欅の向こうをもう通過して、これだけの逃げ!これだけの逃げ!!」
「"令和のツインターボ”が!逃げに逃げまくっている!!」
(CX 立本信吾アナウンサーによる実況)
かつて秋天で大逃げを披露した馬は悲劇に散るか、力尽きて逆噴射するかのどちらかだった。
だがパンサラッサは大欅の向こうを駆け抜け、最終直線でも全力疾走を続ける。それもそのはず、これまでもパンサラッサはこのペースで走り続け、ついにGⅠまで勝ち取った。彼にとってはいつも通りなのだから、逆噴射など起こるはずがない。
最終コーナーを曲がり切る姿を捉えたパトロールカメラにたった1頭だけ映ったまま最終直線に入る。そのリードは最大で20馬身以上とさえ言われた。
「後ろは届くのか!?後ろは届くのか!!?このまま、逃げ切るのか?!"ロードカナロア産駒"パンサラッサ!"世界のパンサラッサ"の逃げ!!」
「残り400mを通過しています。さあバビットが居て、さらにその後ろからは、カラテも居て!ダノンベルーガも上がって来る!さらには9番のジャックドール!!さらに外からはイクイノックスも上がって来るが、残り200mを通過している!!」
「さあ、届くのか!届くのか!?逃げ切るのかパンサラッサ!!?外からイクイノックス、イクイノックス届くか!そして、ダノンベルーガ届くのか!」
(CX 立本信吾アナウンサーによる実況)
足を溜めた方が有利とされる府中2000mだが、これだけのリードとなれば話は別だ。
後方でスローペースを続けていた他の馬たちも最終直線に入ってそのあまりにも大きなリードに慌ててスパートを駆ける。
そしてこの状況でこの圧倒的リードに挑める馬自体も限られていた。
先頭集団からジャックドール、中団外側からイクイノックス、内側からダノンベルーガの3頭が集団から抜け出し、パンサラッサに猛追を掛ける。
一方残り100mを切っても首位を死守するパンサラッサ。スタミナが尽きたのか徐々に失速し後方との距離がどんどん詰まるが、それでも持ち前の勝負根性を生かして粘り続けていた。パンサラッサの逃げ切りと後方集団差し切り、どちらが起きてもおかしくない状況。
その結果は――。
「パンサラッサ逃げる逃げる!」
「イクイノックス迫る!迫る!迫る!縮まる!並んだ!!届いた!!!捉えた!!!」
(NHK 小宮山晃義局員による実況)
レース結果
「イクイノックス、届いた届いた!最後は、『天才の一撃』!!」
「大逃げパンサラッサを、ここで捉えた!クラシックの悔しさは、ここで晴らした天才の一撃!!」
(CX 立本信吾アナウンサーによる実況)
ゴールの約1秒前、残り約50mの地点で上がり3ハロン最速の豪脚を叩き出していたイクイノックスが遂にパンサラッサを差し切り、ゴール板前を駆け抜けた。一方で失速が目に見えていたパンサラッサも根性をもって粘り続け、同じく猛追するダノンベルーガをクビ差で下して2着でゴール板に飛び込んだ。
着順 | 馬名 | 着差 | 単勝 | 上り3F |
1 | イクイノックス | 1:57.5 | 2.6 | 32.7 |
2 | パンサラッサ | 1 | 22.8 | 36.8 |
3 | ダノンベルーガ | クビ | 7.3 | 32.8 |
4 | ジャックドール | 1/2 | 5.0 | 33.5 |
5 | シャフリヤール | 2 | 4.4 | 33.6 |
その他詳細はこちら(競馬ブックwebの記事より)
上がり3ハロンのタイムは大逃げしたパンサラッサの36秒8はともかく力尽きたバビットとノースブリッジが34秒台で他が軒並み33秒台。そしてパンサラッサに食らいつけたイクイノックスが32秒7、ギリギリまで迫ったダノンベルーガが32秒8。0.1秒の差が勝敗に、着順・着差も33秒の壁を超えたものとそれ以外で明暗が分かれる形となった。
ほんのわずかな、あと数十mの差、0.1秒の差で決着が変わっていたであろう大接戦。
それもたたき合いなどではなく1着と2着の上がり3ハロンのタイム差が4秒1(約20馬身)という類を見ない結果となった。
年齢による斤量差が無ければ、走り方とコース相性の差が無ければ。たらればを挙げればキリがなくなる年内トップクラスの名レースとして語り継がれるだろう一戦となった。
動画
NHK(実況:小宮山晃義(協会本部・メディア総局アナウンス室))
ラジオNIKKEI(JRA公式、実況:大関隼)
フジテレビ(実況:立本信吾)
レース後の状況
- イクイノックス勝利により前年ホープフルステークスから続く1番人気の中央平地G1連敗記録、所謂「一番人気の呪い」が16連敗でストップとなった。
- イクイノックスは自身に加えてキタサンブラック産駒初の、しかも初年度産駒でG1制覇を達成。この結果も踏まえてキタサンブラックを管理している社台スタリオンステーションはキタサンブラックの種付料を翌年から500万から1000万へ倍増することを発表した。
- 惜敗となったパンサラッサだが1000mラップタイムや最終コーナー以降の展開からサイレンススズカを重ねるファンが少なからず発生。Twitterトレンドに勝ち馬のイクイノックスだけでなくパンサラッサとサイレンススズカの名までトレンド入りする事態となった。というかそっちの方が盛り上がっていた節すら見られる。
- 動画投稿サイトやSNSではサイレンススズカの走りとパンサラッサを比較・ないしオーバーラップさせるようなも作品が少なからず投稿された。冗談交じりなネタとして「実はパンサラッサがジャックドールと見間違えて『何か』と先頭争いをしていたのでは?」などという感想も挙がる程。
- これまでも大逃げスタイルや勝ち鞍から「令和のツインターボ」や「令和のサイレンススズカ」などと呼ばれる事があったが、ドバイターフの勝利や今回覚醒したイクイノックスの激闘と合わせて、「世界のパンサラッサ」という大逃げ馬を代表する己自身の二つ名も確固たるものにした。
- このレースで掲示板で入った5頭は後に別のGⅠを勝利、もしくは連対している(イクイノックス(有馬1着、ドバイSC1着)、パンサラッサ(サウジカップ1着)、ダノンベルーガ(ドバイターフ2着)、ジャックドール(大阪杯1着)、シャフリヤール(ジャパンカップ2着))。
余談
- 元々パンサラッサ陣営の矢作芳人調教師は府中なら大逃げを仕掛けても放置される(後に語ったところによると「前半1000mを57秒台半ばで行って後半1000mを1分切って上がってくれば勝てる」)と読んでおり、鞍上を務めた吉田豊騎手も向こう正面で馬なりに走らせた。結果、見事に作戦がハマる形となった。また、矢作調教師によると「競馬全体の盛り上がりを考えても、ああいう競馬ができればいいなっていう思いがあった」という。
- なお、パンサラッサが最後の最後で負けた際には矢作調教師は相当悔しかったようで、負けた瞬間に思いっきり椅子を蹴っ飛ばしたという(矢作調教師曰くそれをファンに見られたらしい)。それでもすぐさまパンサラッサの無事を信じ、そしてパンサラッサについて改めてすごい馬であると思ったという。
- イクイノックスに乗っていたルメールは馬群の中に居たため、最終直線で外に出るまでパンサラッサが大逃げを打っていた事に気付いてなかったと後にコメントしている。
- 前述の通りパンサラッサの話題が異常なまでに盛り上がったため、ルメール騎手は吉田騎手に「勝ったはずなのになんでみんなパンサラッサ、パンサラッサっていうんだ」と漏らしていた事が後に明かされた。あれだけギリギリでなんとか勝ったのだからそう思うのは仕方がない。
- 翌年2023年1月2日、毎年恒例の箱根駅伝の1区にて、学生連合から出場した育英大学・新田楓選手が一人だけ独走状態となり、終盤ラスト1㎞ほど程まで粘って3着でタスキをつないだ。他が団子状態の中で一人だけ独走、終盤で追い抜かれたが上位順位でゴールと言う流れを当レースのパンサラッサらと重ねる声がTwitter上で数多く上がり、パンサラッサの名前がトレンド入りする事態となった。
- そんな状態から新田選手の事を「パンサラッサ新田」と呼んだり、学生連合は順位が付かない参考記録の為「カラ馬」などと評するなどの珍事も発生している。(ただし後者は必死に走る当人たちにとって失礼なので扱いに注意)
- 2023年2月24日にウマ娘 プリティーダービーで追加されたツインターボの育成ストーリーでは、ツインターボみたいなウマ娘が出走する天皇賞秋のレースをキタサンブラックと一緒に観戦するシーンが挿入されて話題になった。
- そのストーリーの名前は「○○のツインターボ」であり、これもまたパンサラッサの異名の一つである「令和のツインターボ」を彷彿とさせる…というか意識したであろうストーリーになっている。
- そしてその翌日深夜には前述のサウジカップということであっという間にTwitterのトレンド入りを果たした。
- レース後、netkeiba公式はパンサラッサがまさかの逃げ切り勝ちを果たした場合のコメントとして「24年越し大逃げ成就」という文言を準備していたことを明かしていた(外部リンク)。
関連画像
関連項目
サイレンススズカ:一緒にトレンド入りした秋天の大逃げ馬の代名詞。
沈黙の日曜日:レース展開や前半1000mのタイムの一致などから話題に挙がった。