箱根駅伝
はこねえきでん
大学駅伝のひとつで、正式名称は東京箱根間往復大学駅伝競走である。
東京都千代田区大手町(読売新聞社本社前)から神奈川県足柄下郡箱根町(芦ノ湖湖畔)までの往復。往路(1月2日)と復路(1月3日)では少しコースが違う。1区21.3km、2区23.1km、3区21.4km、4区20.9km、5区20.8km、6区20.8km、7区21.3km、8区21.4km、9区23.1km、10区23.0kmで往路107.5km、復路109.6km、往復合計で10区間217.1km。
1920年から戦時中の中断を挟み2024年の大会を以て第100回を数える。「箱根から世界へ」をコンセプトとし、オリンピックのマラソンや長距離トラックの出場選手の数々を生み出した。
位置づけはあくまで大学駅伝のうち関東地区チャンピオンを決定する地方大会である(関東学連に所属する大学に参加資格がある)。だが開催時期が正月ということもあり、テレビでは日本テレビ系、ラジオではNHKラジオ第一や文化放送などNRNの一部局で2日間にわたってほぼ完全中継され、(裏番組はほぼ再放送しかないので)視聴率も関東では25%以上、そこ以外でも15%台とプロ野球をはるかに上回るため、知名度は全国的と呼んでも過言でないほどやたらに高い。日本全国の大学が出場し全国チャンピオンを目指す駅伝は別に「全日本大学駅伝」という競技会があるのだが(後述)。
CMに切り替わる際のBGMに『ネバーエンディングストーリー』の曲(喜びの飛行)が使われていたのも有名である(※ちなみに、現在では久石譲作曲のメインテーマに変更されている)。
知名度が高すぎるゆえ、10月に開催される「予選会」も放送されるほか、関東の大学とそれ以外の大学との実力の差が激しく(これについては後述)、出雲駅伝・全日本大学駅伝では関東勢によって上位が独占されてしまうケースが多い。
ちなみにごく一部の例外を除きコース変更が起こるたびに、それまでの総合記録・往路もしくは復路の記録・区間記録は参考記録となる。近年では、91回大会に青山学院大学が史上初となる10時間50分切りの総合記録を樹立した2年後の93回のコース変更で参考記録にされている。なお、青山学院はそれから3年後の96回大会で再び10時間50分切りの総合タイムを記録している。
全10区間で争われるが、なかでも「ごぼう抜き」が定番の『花の2区』、数々の伝説と有名選手を生んだ山登りの『5区』が大きな見所である。
1区(大手町~鶴見中継所)21.3km
箱根駅伝の最初の区間。序盤から牽制し合い、終盤までスローペースで進み、六郷橋付近からスパート合戦が繰り広げられることが多いが、一部の選手が飛び出し、それにつられてハイペースになる年もある。
2区(鶴見中継所~戸塚中継所)23.1km
『花の2区』とも呼ばれる各校のエースが集う最長区間。中盤までは平坦だが、終盤には権太坂と『戸塚の壁』の2つの急な上り坂が待ち構えているので、いかにそこまで余力を残しておくかがポイント。
3区(戸塚中継所~平塚中継所)21.4km
序盤は遊行寺の坂を下り、その後湘南海岸を走る。湘南海岸では海風の影響を受けやすい。かつてはつなぎの区間とされてきたが、現在はここに力のある選手を配置することも多い。
4区(平塚中継所~小田原中継所)20.9km
細かいアップダウンが続くコース。かつて距離が18.5kmと唯一20kmを切っていた時期があったが、元の20.9kmに戻された。現行のコースになった93回大会以降は4区の選手が小田原中継所をトップで通過した大学は全てそのまま往路優勝を飾っており、近年では4区の重要性が上がってきている。
5区(小田原中継所~芦ノ湖)20.8km
標高差864mを一気に登る難コース。小田原中継所から緩やかの登りで、箱根湯本駅から本格的な登りが始まる。国道1号最高点から5kmほど下って往路のゴールとなる。長く急な登り坂が続くため、強い脚力とスタミナ、登りへの適正が求められる。
かつては82回大会から92回大会までは全区間最長距離であったが、選手への負担や5区の総合成績に対する貢献度が大きすぎることから93回大会からは現行の20.8kmに短縮された。しかし今でも日本の全駅伝コースのなかでも間違いなく最難関レベルであることは変わりなく、活躍した選手は「山の神」として讃えられる。
なお、函嶺洞門の老朽化に伴い、2つの橋を使って洞門を迂回するバイパス路「函嶺洞門バイパス」が開通し洞門の供用が終了した事や、洞門内は前後区間より気温が低くなり選手に負担を与える問題もあったため、折からの「選手ファースト」の機運も手伝い、91回大会からは函嶺洞門バイパス経由のコースに変更されている。但し函嶺洞門バイパスはシケイン状になっている為、5~10秒程度タイムロスしている(下りも同様)。
6区(芦ノ湖~小田原中継所)20.8km
復路の最初の区間。前日の5区終了時点での各校の時間差をつけてスタートするが、先頭から10分以上遅れて往路を終えたチームは、道路の規制時間短縮のため先頭のスタートから10分後に一斉にスタートする。そのため、これ以降見た目の順位と実際の順位が異なり、中継所と定点でしか実際の順位が分からなくなる。5区の真逆となる山下りの6区は、最高点までの約5kmを上り、国道1号最高点から標高差864mを一気に下る。陸上競技の知識の少ない者には『楽』なコースと思われがちだが、この急激な下り勾配のコースは膝への負担が半端なく大きく、下り終わった後の平坦なコースは上りと錯覚するほどに過酷と言われ、6区を走った選手はしばらく休養を余儀なくされるので、5区以上に走りたくないという選手は多いそうである。
途中、函嶺洞門バイパスにはリラックマが出没する。
7区(小田原中継所~平塚中継所)21.3km
基本的に4区の逆走だが、一部異なるコースを走るため、4区より若干長くなっている。二宮の定点のフリーザ軍団が有名。
9区(戸塚中継所~鶴見中継所)23.1km
2区を逆走する区間で、復路のエース区間。順位変動が激しく、先頭が入れ替わることも度々あり、98回では8位だった青山学院大の岸本が区間賞の走りで集団で走っていた5チームをまとめて抜き、3位に順位を回復した。
10区(鶴見中継所~大手町)23.0km
箱根駅伝の最終区間。1区とは異なり、日本橋を経由するため、2区、9区に続き3番目に長い区間である。ゴール直前の交差点で中継車や先導の白バイはゴールをよけるために右折するが、第87回では、4校がシード権争いをしている中、集団の一番前にいた國學院大の寺田夏生が中継車につられてこの交差点を右折する事件が起きた。これにちなんでこの交差点は『寺田交差点』と呼ばれるようになった。ちなみにそれから約10年後にも法政大学の選手が同様にコースを間違えかけた。
また、復路の戸塚、鶴見中継所では駅伝におけるみんなのトラウマでもある無念の繰り上げが毎年起きているのが(悪い意味で)恒例である。特に鶴見中継所は、側道の入り口から中継ラインまでの距離が約160mと長いため、9区の選手の目の前で繰り上げタスキ(10区は各校が学連に提出した2本目の自校の襷)をかけた10区の選手がスタートするということが度々起こる。
ちなみに、沿道には各大学の応援、駅伝にはよくある沿道住民の歓声や併走しようとする人のほか、知名度の高さから、全国からファンが集まってきたり、テレビ中継に出たいがために目立つ看板や格好をした人が出没したりすることでも有名(特に有名なのは、6区のリラックマと7区のフリーザ様と2018年のアンパンマン号)。ただ、目立つ看板の中には意味のあるものもある。(例として、復路遊行寺チェックポイントの「○_○」の看板はVHSやカセットテープの形から来ており、「巻き返せ!」という意味らしい)
高校野球にも言えることだが、近年ではその知名度の高さゆえ大学の宣伝代わりになってしまう部分もあり、それに伴う「負」の部分も浮上している。実際、東京国際大学など偏差値基準では人気を得られない大学が箱根本戦に出場したことで志願者数が増えていたりする。
また、陸上競技のひとつに過ぎない駅伝の出場に特化し過ぎた「駅伝偏重」部の存在、上記の通り、関東限定の地方大会ゆえに他地域からは出場できない仕組みになっているため、全国の長距離有力選手が関東に集まってしまい若手選手層の国内格差が拡大している。駅伝偏重問題においては全国大会である出雲駅伝および全日本大学駅伝の開催により、解決を目指そうとしてはいるものの、箱根駅伝の前哨戦として捉えられてしまい、未だに問題解消に至っていない。
オリンピックにおける日本の長距離走競技の成績に関しても、メダリスト候補と目される有望な日本人選手が女子選手に比べ男子にはなかなか現れないという現実についても、しばしば箱根駅伝の高人気が原因のひとつとして挙げられ、各所で議論になることも珍しくない。
曰く、「駅伝とマラソンではトップレベルで競うための練習方法が異なり、転向が簡単ではないから」、「学生の長距離走選手は箱根が最大の目標になっている者が多く、箱根後は気力や体力が燃え尽きてしまうから」などなど。
使用シューズについてもNIKE製ヴェイパーフライが登場した2010年代後半以来、過去に類を見ないほどのハイスピードレースと化している。現に96回大会では10区間中7区間が区間新が出るなど前人未踏の好記録ラッシュが続き、優勝した青学が10時間45分23秒と過去最速タイムを叩き出している。また、その2年後の98回大会でもさらに2分近く縮める10時間43分42秒で制覇した。気象条件さえよければ今後優勝タイムが10時間40分台が当たり前の世界になってしまうだろう。なお、98回大会で1区、9区の区間記録が更新され、8区を除く9区間が2020年代の区間記録となった。
区間記録
1区 1時間0分40秒 (98回 吉居大和 中央大)
2区 1時間5分49秒 (97回 Y.ヴィンセント 東京国際大)※1
3区 59分25秒 (96回 Y.ヴィンセント 東京国際大)※2
4区 1時間0分00秒 (99回 Y.ヴィンセント 東京国際大)※3
5区 1時間9分14秒 (100回 山本唯翔 城西大)※4
6区 57分17秒 (96回 舘澤享次 東海大)
7区 1時間1分40秒 (96回 阿部弘輝 明治大)
8区 1時間3分49秒 (95回 小松陽平 東海大)
9区 1時間7分15秒 (98回 中村唯翔 青山学院大)
10区 1時間7分50秒 (98回 中倉啓敦 青山学院大)
※1 2区日本人最高記録は96回大会の相澤晃(東洋大)の1時間5分57秒
※2 3区日本人最高記録は100回大会の太田蒼生(青山学院大)の59分47秒
※3 4区日本人最高記録は98回大会の吉田祐也(青山学院大)の1時間0分30秒
※4 函嶺洞門通過による若干のコース・距離の違いがあるものの、81回大会の今井正人(順天堂大)の1時間9分12秒という記録が残っている。
ここ数年、出場選手のオタク化が激しいことも取り上げられるようになってきた。
長距離持久走という競技の特性上、各練習種目に常に競技場が必要というわけではないのが遠因といえる。つまり、選手たちは専用の練習用トラックでの練習が終わり、施設が閉まった後でもロード練習に切り替える長い練習を行う。練習が終了し、夕食や入浴、洗濯などが重なると自由時間が深夜になり、寮生活唯一の娯楽であるテレビでは、一般的なアイドルや女優が出演する番組が少なく、深夜アニメの放送時間に直撃してしまったという経緯がある。
ほかの競技の選手は雑誌などで取材される際、好きな女性などを尋ねられると、女優やグラビアアイドルなどを答えることがほとんどであるが、箱根駅伝出場選手の多くは声優やネットアイドル、そしてアニメキャラクターそのものと答えている。
挙句の果てにはとあるアニメキャラと結婚し娘まで生まれたと宣言した選手まで現れている...その名前は...
そして山の神の一人である柏原竜二が、大好きな声優と共演まで果たしたことで多くの選手に夢を与えて、以降自重することが無くなった模様。
シード校
- 青山学院大学 (17年連続30回目)
- 駒澤大学 (59年連続59回目)
- 城西大学 (3年連続19回目)
- 東洋大学 (23年連続83回目)
- 國學院大學 (8年連続18回目)
- 法政大学 (10年連続85回目)
- 早稲田大学 (49年連続94回目)
- 創価大学 (6年連続8回目)
- 帝京大学 (18年連続26回目)
- 大東文化大学 (3年連続53回目)
予選会通過校
- 立教大学 (3年連続30回目)
- 専修大学 (2年ぶり72回目)
- 山梨学院大学 (5年連続38回目)
- 日本体育大学 (77年連続77回目)
- 中央学院大学 (2年連続24回目)
- 中央大学 (8年連続98回目)
- 日本大学 (2年連続91回目)
- 東京国際大学 (2年ぶり8回目)
- 神奈川大学 (2年連続55回目)
- 順天堂大学 (14年連続66回目)
2024年1月2~3日に開催される第100回大会は、記念大会ということで、予選会の参加資格が関東学生連合に加盟する大学だけでなく全日本学生連合に加盟する全国の大学に開放され、立命館大学をはじめとする関東以外の11大学が参加したが、残念ながら本戦出場権を得た大学はなかった。これを機に予選会の参加資格を毎年全国に拡大すべきという意見もある。
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