概要
日本競馬史の中で90年代以来の逃げ馬の時代をもたらした3頭の逃げ馬。
近年、サンデーサイレンス産駒やディープインパクト産駒がキレを武器に勝ちを積み重ねてきた中で、時折ダイワスカーレットやキタサンブラックのような強い逃げ馬は単独で出てくるものの、芝中長距離路線で複数頭の逃げ馬が活躍することはなくなっていた。しかしこの3頭はどれも非SS・DI産駒の逃げ馬ながら、違う形でいずれもGIを逃げ切りレコード勝ちや史上初の海外芝ダート両GI勝利を果たすなど記憶にも記録にも残る偉業を成し遂げている。また近年の中長距離路線では見るのが叶わなかったGI逃げ馬同士の競演も見所である。(タイトルホルダーとジャックドールは対戦経験なし)
この3頭の共通点として、以下が挙げられる。
- 生産は非社台系列かつ北海道日高地方生まれ(タイトルホルダー:岡田スタッド、パンサラッサ:木村秀則牧場、ジャックドール:クラウン日高牧場)
- 馬主も非社台系列の個人やクラブ(タイトルホルダー:山田弘、パンサラッサ:広尾レース株式会社、ジャックドール:前原敏行)
- 血統面では、父が非サンデーサイレンス・ディープインパクト系、母父が外国馬(タイトルホルダー:父ドゥラメンテ 母父Motivator、パンサラッサ:父ロードカナロア 母父Montjeu、ジャックドール:父モーリス 母父Unbridled's Song)
- 2021年秋以降、同時期に逃げ馬として活躍し始める(タイトルホルダー:菊花賞、パンサラッサ:オクトーバーS、ジャックドール:浜名湖特別(2勝クラス))
- 同じ王道路線ながらGIを逃げ切り勝ち(タイトルホルダー:菊花賞、天皇賞(春)、パンサラッサ:ドバイターフ、サウジカップ、ジャックドール:大阪杯)
- 逃げ方、勝ち方から往年の逃げ馬に喩えられる(タイトルホルダー:令和のセイウンスカイ、パンサラッサ:令和のツインターボ、令和のサイレンススズカ、ジャックドール:令和のサイレンススズカ)
- 2023年秋古馬三冠でそれぞれハナを取って逃げを実行(タイトルホルダー:有馬記念、パンサラッサ:ジャパンカップ、ジャックドール:天皇賞(秋))
逆に3頭ともに、逃げのタイプが違う、勝負服の色柄が被っていない(タイトルホルダー:緑、黒袖、黄鋸歯形、パンサラッサ:青、袖緑一本輪、ジャックドール:赤、黒十字襷、袖黒一本輪)のがそれぞれの個性を際立たせていると言える。
3頭一まとめの呼称は日高逃げ馬○○(~三強、~三傑、~三連星、~ブラザーズ、~ズ etc)と固定されていないが、当記事上では検索やSNSで最も使用回数が多かった「三銃士」を採用している。
当記事の逃げのタイプ別に関しては、「Sports Graphic Number 1061 2022/11/2号」内記事「当代逃げ馬考」に準拠して分類する。
その名は、タイトルホルダー、タイトルホルダー
重賞勝ち鞍:菊花賞(2021)、天皇賞(春)(2022)、宝塚記念(2022)、弥生賞(2021)、日経賞(2022・23)
生涯戦績:19戦7勝
父:ドゥラメンテ、母:メーヴェ、母父:Motivator
ドゥラメンテの初年度産駒で父の無念を晴らした孝行息子。菊花賞では横山武史鞍上で武史の父典弘鞍上のセイウンスカイ以来23年ぶりとなる逃げ切り勝ち、翌年、武史の兄和生に乗り替わった後に挑んだ天皇賞(春)ではこちらも父典弘鞍上のイングランディーレに並ぶグレード制導入後春天最大着差タイの逃げ切り勝ち、次戦の宝塚記念ではパンサラッサとハナ争いしながらアーネストリーのレコードを11年ぶりに塗り替えるレコード勝ちで2022年上半期日本最強馬に上り詰めた。
引退後はレックススタッド史上最高額で種牡馬入りしている。
逃げのタイプとしては、セイウンスカイのような緩急の逃げやスローやハイペース逃げ、番手での競馬も出来る「自在型」である。
世界のパンサラッサ、パンサラッサ
重賞勝ち鞍:ドバイターフ(2022)、サウジカップ(2023)、福島記念(2021)、中山記念(2022)
生涯戦績:28戦7勝
父:ロードカナロア、母:ミスペンバリー、母父:Montjeu
世界に名を刻んだ稀代の大逃げ馬。晩成だったが4歳秋のオクトーバーSで逃げ馬として覚醒。続く福島記念では前半1000m57.3を刻みながら4馬身差の圧勝。年明けて挑んだドバイターフで粘りこみながら同着で優勝、宝塚記念はレースレコードを演出し、天皇賞(秋)では大逃げでよもやの逃げ切りかと思わせる2着の大激走。このレースでは大欅を過ぎた後故障してしまったサイレンススズカと同タイムで1000mを通過したため、彼の異名にサイレンススズカの名も上がるようになった。
翌年には1着賞金1000万米ドルのダートGIレースサウジカップに挑み逃げ切り勝ち。日本競馬史上初の海外芝ダート両GI勝利を果たした。
引退後はアロースタッドにて種牡馬入り。南半球でシャトル種牡馬としても活躍予定である。
逃げのタイプとしては、ツインターボのようなスタートからハイラップを刻みゴールまで粘りこむ「大逃げ型」。だが普通の大逃げ馬にはない強いスタミナでスピードをゴールまで持続させ、大逃げだと分かっていても粘りこんで逃げきってしまうのが彼の特性である。
金色の春風、ジャックドール
重賞勝ち鞍:大阪杯(2023)、金鯱賞(2022)、札幌記念(2022)
生涯戦績:17戦8勝 (2024年4月現在)
父:モーリス、母:ラヴァリーノ、母父:Unbridled's Song
尾花栗毛四白流星を持つグッドルッキングホース。栗毛の逃亡者・金鯱賞レコード勝ちということでサイレンススズカに喩えられることがある。(等速ラップを刻める逃げなのでミホノブルボンにも近いとも。)
クラシックには間に合わなかったが、浜名湖特別で逃げ切ると続く条件戦やリステッド戦で逃げ切り連勝。4連勝で挑んだ金鯱賞ではGI馬2頭相手にレースレコードを1秒1更新する逃げ切り勝ちを果たす。パンサラッサとの逃げ馬対決となった札幌記念では先行からパンサラッサを競り落として勝利。GI戦線は苦戦が続いたが、鞍上が武豊に代わって2戦目の2023年大阪杯ではハナを取って中盤前から11秒半の均等ラップでロングスパート。後続馬をハナ差抑えてGII時代のヒルノダムールの記録を12年ぶりに更新するレースレコードでの勝利を果たした。
2024年4月現在、同年1月に右前浅屈腱炎で全治9ヶ月以上との診断を受け休養中。
逃げのタイプとしては、サイレンススズカ、ミホノブルボンのようなスタートからハナを取り後半もペースを落とさない「快速型」。
レース歴
・TH=タイトルホルダー PA=パンサラッサ JD=ジャックドール
・☆は最初からハナを取って逃げたレース
・C=クラス、L=リステッド、OP=オープン
・太文字は勝利したGI
日付 | レース名 | グレード | コース | TH | PA | JD | 他の勝者 |
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2019.09.21 | 2歳新馬 | 芝1600 | 6着(4人) | ロータスランド | |||
2019.09.28 | 2歳未勝利 | 芝2000 | 2着(4人) | アカイイト | |||
2019.10.12 | 2歳未勝利 | 芝2000 | 1着(2人) | ||||
2019.12.07 | エリカ賞 | 1勝C | 芝2000 | 6着(6人) | ヒュッゲ | ||
2019.12.28 | ホープフルステークス | GI | 芝2000 | 6着(12人)☆ | コントレイル | ||
2020.01.26 | 若駒ステークス | L | 芝2000 | 4着(5人)☆ | ケヴィン | ||
2020.03.08 | 弥生賞 | GⅡ | 芝2000 | 9着(5人) | サトノフラッグ | ||
2020.06.20 | 3歳以上1勝クラス | 芝2000 | 1着(3人)☆ | ||||
2020.07.05 | ラジオNIKKEI賞 | GⅢ | 芝1800 | 2着(7人) | バビット | ||
2020.09.27 | 神戸新聞杯 | GⅡ | 芝2200 | 12着(10人)☆ | コントレイル | ||
2020.10.04 | 2歳新馬 | 芝1800 | 1着(1人)☆ | ||||
2020.10.18 | オクトーバーステークス | L | 芝2000 | 2着(4人)☆ | テリトーリアル | ||
2020.11.21 | アンドロメダステークス | L | 芝2000 | 4着(3人) | アドマイヤビルゴ | ||
2020.11.23 | 東スポ杯2歳S | GⅢ | 芝1800 | 2着(5人) | ダノンザキッド | ||
2020.12.06 | 2歳新馬 | 芝2000 | 2着(1人) | アオイショー | |||
2020.12.12 | 師走ステークス | L | ダ1800 | 11着(1人) | タイキフェルヴール | ||
2020.12.26 | ホープフルステークス | GI | 芝2000 | 4着(7人) | ダノンザキッド | ||
2020.12.27 | 2歳未勝利 | 芝2000 | 2着(1人) | ハッピーオーサム | |||
2021.02.07 | 関門橋ステークス | OP | 芝2000 | 2着(3人) | ワールドウインズ | ||
2021.02.28 | 中山記念 | GⅡ | 芝1800 | 7着(9人) | ヒシイグアス | ||
2021.03.07 | 弥生賞 | GⅡ | 芝2000 | 1着(4人)☆ | |||
2021.04.18 | 皐月賞 | GI | 芝2000 | 2着(8人) | エフフォーリア | ||
2021.04.25 | 3歳未勝利 | 芝2000 | 1着(1人) | ||||
2021.04.25 | 読売マイラーズC | GⅡ | 芝1600 | 競走除外 | ケイデンスコール | ||
2021.05.08 | プリンシパルS | L | 芝2000 | 5着(4人)☆ | バジオウ | ||
2021.05.30 | 日本ダービー | GI | 芝2400 | 6着(8人) | シャフリヤール | ||
2021.09.11 | 3歳以上1勝クラス | 芝2000 | 1着(1人) | ||||
2021.09.20 | セントライト記念 | GⅡ | 芝2200 | 13着(1人) | アサマノイタズラ | ||
2021.10.03 | 浜名湖特別 | 2勝C | 芝2000 | 1着(1人)☆ | |||
2021.10.17 | オクトーバーステークス | L | 芝2000 | 1着(5人)☆ | |||
2021.10.24 | 菊花賞 | GI | 芝3000 | 1着(4人)☆ | |||
2021.11.14 | 福島記念 | GⅢ | 芝2000 | 1着(5人)☆ | |||
2021.11.28 | ウェルカムステークス | 3勝C | 芝2000 | 1着(3人)☆ | |||
2021.12.26 | 有馬記念 | GI | 芝2500 | 5着(4人) | 13着(8人)☆ | エフフォーリア | |
2022.01.29 | 白富士ステークス | L | 芝2000 | 1着(1人)☆ | |||
2022.02.27 | 中山記念 | GⅡ | 芝1800 | 1着(2人)☆ | |||
2022.03.13 | 金鯱賞 | GⅡ | 芝2000 | 1着(1人)☆ | |||
2022.03.26 | ドバイターフ | GI | 芝1800 | 1着同着(2人)☆ | Lord North | ||
2022.03.26 | 日経賞 | GⅡ | 芝2500 | 1着(1人)☆ | |||
2022.04.03 | 大阪杯 | GI | 芝2000 | 5着(2人)☆ | ポタジェ | ||
2022.05.01 | 天皇賞(春) | GI | 芝3200 | 1着(2人)☆ | |||
2022.06.26 | 宝塚記念 | GI | 芝2200 | 1着(2人) | 8着(6人)☆ | ||
2022.08.21 | 札幌記念 | GⅡ | 芝2000 | 2着(2人)☆ | 1着(3人) | ||
2022.10.02 | 凱旋門賞 | GI | 芝2400 | 11着(1人)☆ | Alpinista | ||
2022.10.30 | 天皇賞(秋) | GI | 芝2000 | 2着(7人)☆ | 4着(3人) | イクイノックス | |
2022.12.11 | 香港カップ | GI | 芝2000 | 10着(3人)☆ | 7着(2人) | Romantic Warrior | |
2022.12.25 | 有馬記念 | GI | 芝2500 | 9着(2人)☆ | イクイノックス | ||
2023.02.25 | サウジカップ | GI | ダ1800 | 1着(6人)☆ | |||
2023.03.25 | ドバイWC | GI | ダ2000 | 10着(2人) | ウシュバテソーロ | ||
2023.03.25 | 日経賞 | GⅡ | 芝2500 | 1着(2人)☆ | |||
2023.04.02 | 大阪杯 | GI | 芝2000 | 1着(2人)☆ | |||
2023.04.30 | 天皇賞(春) | GI | 芝3200 | 競走中止(1人)☆ | ジャスティンパレス | ||
2023.06.04 | 安田記念 | GI | 芝1600 | 5着(5人) | ソングライン | ||
2023.08.20 | 札幌記念 | GⅡ | 芝2000 | 6着(1人) | プログノーシス | ||
2023.09.24 | オールカマー | GⅡ | 芝2500 | 1着(2人)☆ | ローシャムパーク | ||
2023.10.29 | 天皇賞(秋) | GI | 芝2000 | 11着(5人)☆ | イクイノックス | ||
2023.11.26 | ジャパンカップ | GI | 芝2400 | 5着(4人) | 12着(7人)☆ | イクイノックス | |
2023.12.24 | 有馬記念 | GI | 芝2500 | 3着(6人)☆ | ドウデュース |
同時期の逃げ馬
重賞勝ち鞍:菊花賞(2017)
2014年5月13日生まれの牡馬。日高逃げ馬三銃士と同じく日高生まれ。
生産は下河辺牧場、馬主は石川達絵。
勝った菊花賞は差し切り勝ちだが、翌年の秋天から逃げ始める。分類は「大逃げ型」。
2018年のジャパンカップでは逃げてアーモンドアイが世界レコードを樹立した立役者に、2020年のジャパンカップは三冠馬三頭の対決の舞台でも大逃げ。翌年のジャパンカップは出遅れながらも最後方からの「捲り逃げ」を披露するなどレースを盛り上げた名脇役である。
日高逃げ馬三銃士とはラストランとなった2021年有馬記念でタイトルホルダー、パンサラッサと対戦。この時は中団待機策を採りタイトルホルダーやパンサラッサとのハナ争いとはならなかった。
重賞勝ち鞍:京都記念(2022)
2015年3月26日生まれの騸馬。こちらも日高生まれ。
生産ダーレー・ジャパン・ファーム。馬主はゴドルフィン。
ツインターボのような「大逃げ型」の逃げ馬。GIで掲示板入りすることはなかったが、何度も重賞で複勝圏内に入り、2022年の京都記念では人気薄からの大激走で重賞をもぎ取った。
X(旧:Twitter)では本馬を自称するアカウントが人気を集め一躍アイドルホースとなっている。
日高逃げ馬三銃士とは五度対戦した。(タイトルホルダー:2回、パンサラッサ:2回、ジャックドール:2回)
重賞勝ち鞍:ラジオNIKKEI賞(2020)、セントライト記念(2020)
2017年5月1日生まれの牡馬。こちらも日高生まれ。パンサラッサと同期にあたる。
生産は大北牧場。馬主は宮田直也。
ジャックドールと同じ尾花栗毛だが、あちらが赤みがかっているのに対して、こちらの方が金髪に近い。
分類で言えば「快速型」ではあるが、前半を超スローに落としての逃げ切りが特徴。
ラジオNIKKEI賞では覚醒前のパンサラッサに対して逃げ切り勝ちを決めた。パンサラッサと走った2021年中山記念後、1年半以上の長期休養の後にオールカマーで復帰。秋天でパンサラッサ、ジャックドールと対決後は番手での競馬が多くなっている。
ゲーム等における日高逃げ馬三銃士
ウマ娘においては、20世代、21世代といった新しい世代ということもあってかいずれもまだ登場してはいない。(パンサラッサと同期のデアリングタクトはウマ娘として登場している。)
だが匂わせとして、ツインターボのシナリオ内イベント「○○のツインターボ」に3頭を連想させるような表現演出がされていたり、ドゥラメンテのシナリオエンディングでもタイトルホルダーと思われるウマ娘が登場していたりする。
関連イラスト
日高逃げ馬三銃士に関するイラストを紹介してください。
別名・表記ゆれ
日高逃げ馬三銃士に関する別名や、表記ゆれがありましたら、紹介してください。