その走りが、新たな道になる。
名馬への登竜門 府中のマイルを制覇し彼女は女王へ。
海外遠征を含む過酷な道のりを乗り越えたその陰にはチームでの戦略と努力、そして絆があった。
先祖の足跡として伝わる道 ソングライン。彼女の走りも、未来へ繋がる新たな道となる。
JRAヒーロー列伝No.94「ソングライン」より
プロフィール
生年月日 | 2018年3月4日 |
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英字表記 | Songline |
性別 | 牝 |
毛色 | 青鹿毛 |
父 | キズナ |
母 | ルミナスパレード |
母の父 | シンボリクリスエス |
生産 | ノーザンファーム(北海道安平町) |
馬主 | サンデーレーシング |
調教師 | 林徹(美浦) |
主戦騎手 | 池添謙一、クリストフ・ルメール、戸崎圭太など |
主要勝鞍 | GⅠ:安田記念('22'23)・ヴィクトリアM('23)、GⅡ:富士S('21)、GⅢ:1351ターフスプリント(サウジアラビア、'22) |
母ルミナスパレードは2011年生まれで現役時は23戦4勝。母の半妹に、デイリー杯2歳S・函館スプリントSと重賞2勝のジューヌエコール(父クロフネ)がいる。また、曾祖母ソニンクの牝系からは他に2009年のダービー馬ロジユニヴァースや、7か国海外遠征記録のディアドラが出ている。
馬名「ソングライン」はアボリジニの伝承に基づくもので、地図を作る習慣のなかった彼らが、代わりに道行く途中で出会う風景を歌に乗せて代々伝え、道案内とした「歌の道」のこと。
戦績
2歳(2020年)
2020年6月、美浦・林徹厩舎からデビュー。新馬戦(東京・芝・左・1400m)はクールキャット(のちフローラS勝ち馬)に敗れ2着も、2戦目(東京・芝・左・1600m)で勝ち上がり。2歳を2戦1勝で終える。
3歳(2021年)
2021年1月、3歳初戦の紅梅ステークス(L、中京・芝・左・1400m)を、クリストフ・ルメールの騎乗で3馬身差の快勝。牝馬クラシック初戦・桜花賞へ駒を進めた。
桜花賞
桜花賞では8枠16番を引き、池添謙一との初コンビで臨んだソングライン。スタートから中団外目につけ、機をうかがう。
……が、ここでソングラインを不利が襲った。この日、出遅れ → 掛かって先頭へ → 逆噴射で最下位という最悪のコンボを決めてしまう名古屋走り娘・メイケイエールが、前へ前へと暴走する中で進路を求めて外に膨れ、ソングラインに接触しつつ斜行して前に割り込んできたのである(映像0:27付近~)。
これによりソングラインは順位を落とし、直線でも伸びず15着惨敗を喫した。
この桜花賞が初の右回り戦。しかし、まだキャリア4戦目で左3戦・右1戦にすぎない。道中受けた大きな不利もあり、まだコースの左右適性に注目が向けられることはなかった。
3歳春~秋
桜花賞の次戦は、距離適性を鑑みてNHKマイルカップを選択。最終直線でいったんは先頭に立つも、シュネルマイスターにハナ差差し切られ2着。しかし、この2着でオープン入りを果たした。
秋初戦は10月の富士ステークス(GⅡ)。道中8番手付近から東京競馬場の長い直線での叩き合いを制し、重賞初勝利を挙げた。
阪神カップ
富士S勝利でマイルチャンピオンシップの優先出走権を得たものの、レース間隔と疲労を鑑みて回避。代わりに、有馬記念と同週開催、暮れの短距離馬向けGⅡとして重きをなす阪神カップ(阪神・芝・右・1400m)を年内最終戦に定めた。
ところで、この頃になるとソングラインの戦歴における左右回りの偏りが注目されつつあった。
ここまで7戦のうち、6戦が東京・中京・新潟と左回りのコースで、全て3着以内。一方、右回りは15着惨敗に終わったあの桜花賞1戦のみ。このデータにより、一部には右回りの阪神カップを不安視する向きもあった。
しかし「7戦で6:1の偏りくらい、よくあることだ」「桜花賞は不利を受けたせいだし、今回は関西輸送も初ではない」と、問題ではないとする見方が大半で、事実、当日オッズは単勝4.1倍の1番人気。馬体重も富士Sから±0に仕上げ、問題はないはずだった。
が、同世代のグレナディアガーズが朝日杯制覇以来1年ぶりの勝利を挙げる中、まさかの15着惨敗。
この日は8枠17番。桜花賞と同じくピンク帽を引き、池添も外外と走らされた桜花賞に対してコーナーで内に導きロスを減らすことに努めたが、直線でまったく伸びなかった。
レース後の池添は「3コーナー過ぎから一気に手ごたえがなくなりました。ちょっと敗因が分かりません」と語り、「ソングライン左回り専門説」が説得力を増してしまう一戦となった。
4歳(2022年)
4歳初戦として、2月26日(現地時間)にサウジアラビアで開催の競馬の祭典・サウジカップデーへ、他の日本勢とともに初の海外遠征。
鞍上はクリストフ・ルメール、開催地のキングアブドゥルアジーズ競馬場は……左回りである。
第2レースの1351ターフスプリント(芝1351m)に出走したソングライン。2番ゲートからスタートし、コーナーで内に包まれる展開となるが、最終直線手前で外に脱出。富士ステークス同様に直線の叩き合いで脚を伸ばして差し切り、2着カサクリードにクビ差勝利。
レース格としてはGⅢながら、賞金150万米ドルと、日本のGⅠ並の賞金をゲットした。
(レース映像はこちらから)
帰国初戦は池添が鞍上に戻ってヴィクトリアマイル……得意とする東京1600mである。ソダシとは桜花賞以来の再戦、さらに復帰戦の三冠牝馬デアリングタクトや、レイパパレ・レシステンシア・アカイイトと豪華メンバーの中、GⅠ獲りに挑んだ。
中団で道中を運び、直線での差しに懸けたものの、大逃げを図ったシンガリ人気のローザノワールが4着に逃げ粘るなどこの日は前残り気味の展開。2~5着は大接戦となったが、先に抜け出したソダシの5着に敗れた。今まで左回りでは3着内を堅持していたが初めて馬券圏内を外す結果となった。
安田記念
次走は中2週で安田記念へ。強豪4歳勢中心の人気の中、当馬も4番人気の好位で本番を迎えることになった。今回も道中を中団やや後ろめで構え、直線で外に持ち出され伸び上がると、抜け出しをはかったダノンザキッド、サリオスらをかわし、真ん中から突っ込んできたシュネルマイスターを首差抑え切りゴール。去年同じ舞台のNHKマイルCで敗れた相手に雪辱を果たし、待望のGⅠ初制覇を挙げた。牝馬が安田記念を制するのは5度目、ウオッカがヴィクトリアマイルからの転戦で制していたが、ここ2年はアーモンドアイ、グランアレグリアがこのローテで惜敗していたため、勝利の価値は大きいと言えるだろう。
安田記念を終えた後は得た優先出走権を行使してブリーダーズカップ・マイルへの挑戦が決まった。自身に有利な左回りの条件にあったレースであり、かなり現実的な選択肢であろう。
それに先んじて秋初戦は中京開催のセントウルステークスを叩きに使うことが決まった。米国競馬はスタートからハイスピードで飛ばしてゆく展開がほとんどのため、それに慣れさせるべく短距離戦を選んだものと考えられる。
セントウルSでは遠征を見据えてルメールが騎乗したが、池添騎乗のメイケイエールが快勝する中5着に敗退。その後の10月、のどの腫れが見つかったためにアメリカ遠征を取りやめ、年内を休養することになった。
5歳(2023年)
2023年は2連覇をかけてサウジアラビア・1351ターフスプリントから始動したが、なんと10着の大敗。左周りコースで掲示板を外すのは初となった。
ヴィクトリアマイル2023
帰国後は2年連続出走となるヴィクトリアマイルへ向かった。池添はメイケイエールを選択(ただしフレグモーネにより出走とりやめ)、ルメールもスターズオンアースを選択したため、戸崎圭太との初コンビで挑むことになった。
3枠6番のソングラインは前年の安田記念を勝利したとはいえ、これまでの不調、さらに戸崎騎手とのテン乗りもあってか、単勝7.6倍の4番人気だった。レースは最内枠のロータスランドがハナを切り、大外枠から2番手に押し上げたソダシが直線でこれを捉え先頭に立つ。内からソングライン、外からスターズオンアースがソダシを追う末脚勝負となったが、最後アタマ差ソダシを捉えきったソングラインが、11ヶ月振りの勝利となるGⅠ2勝目を挙げた。
安田記念2023
昨年と同じローテで連覇を狙う形となる。昨年のコンビ池添騎手がメイケイエール、ルメール騎手がシュネルマイスターを選択したため、戸崎騎手続投となった。枠は東京で不利と言われる大外であり「前走の疲れ」「大外」「連覇は10年以上前」という不安要素が嫌われたのか4番人気だった。
しかし、本番では大外から真ん中に移動して一気に突き抜け2着のセリフォスに1馬身と4分の1の差で差し切って勝利。
安田記念の連覇はソングラインで3度目(前身の安田賞を含むと4度目)、VM→安田の勝利はウオッカ以来14年ぶりとなる。
また、大外での勝利は2002年に制覇したアドマイヤコジーン以来となった。
この後は自身初の1800m戦となる毎日王冠をステップに昨年遠征出来なかったブリーダーズカップ・マイルに遠征することとなった。
そして迎えた毎日王冠では道中前が壁になる不利もありエルトンバローズに敗れて惜しくも2着、そして2年越しの参戦となったブリーダーズカップ・マイルでは5着に敗れた。
ブリーダーズカップ・マイルのレース後歩様に乱れがあったことやクラブにおける牝馬の引退規定が近い(翌年3月)こともあり、2023年11月22日に引退が発表された(同日には通算で4度直接対決したシュネルマイスターの引退も発表されている)。今後は繁殖入りする予定。