美しき、速さ。
史上初となる古馬マイルGI完全制覇の偉業を達成。
スペイン語で「大歓声」を意味する名前は、
その美しさとともに、いつまでも記憶されることだろう。
JRAヒーロー列伝No.89「グランアレグリア」より
経歴
父はディープインパクト、母はタピッツフライ、母の父はタピッツ。
馬名はスペイン語で「大歓声」(Gran Alegria)を意味する。
美浦・藤沢和雄厩舎所属。
2018年(2歳)
2018年6月3日に、東京競馬場の新馬戦でクリストフ・ルメールを背にデビュー戦勝利。
秋の初戦はGⅢサウジアラビアロイヤルカップ。
新馬戦でのレコード勝ちから単勝1.3倍の1番人気に推されて重賞初勝利を挙げる。
ルメールが香港国際競走に出走するため、阪神ジュベナイルフィリーズは回避し、朝日杯フューチュリティステークスに参戦。
朝日杯は1980年のテンモンを最後に牝馬の優勝がなく、38年ぶりの牝馬による朝日杯制覇を期待されて1.5倍に推されたが、アドマイヤマーズに敗れて3着。(2着はクリノガウディー)
最優秀2歳牝馬は阪神JFを優勝したダノンファンタジーが受賞した。
2019年(3歳)
クラシックシーズンとなる3歳は、トライアルレースを挟まずに桜花賞へ直行した。
1番人気こそダノンファンタジーに譲るも、最後の直線で後続を置き去りにしてGⅠ初勝利。
前年にアーモンドアイが記録したタイム(1:33.1)を破り、(1:32.7)での当時のレコード勝ちとなった。
次走は優駿牝馬(オークス)ではなくNHKマイルカップを選択。
桜花賞馬が勝てば2005年のラインクラフト以来14年ぶりの変則二冠となることから、単勝オッズは1.5倍だった。
しかし、最後の直線で5着入線のダノンチェイサー(川田将雅)の進路を狭めたとして、4着入線から5着へ降着となってしまった。1着は朝日杯に続いてアドマイヤマーズ。
また、ルメールはこのレースで騎乗停止処分となり、東京優駿(日本ダービー)には出られなくなり、ダービーで乗る予定だったサートゥルナーリアはダミアン・レーンに代わった。
秋初戦はスプリンターズステークスを予定していたが、脚に溜まった膿が引かず回避。
その後マイルチャンピオンシップも回避し、阪神カップ(GⅡ)へ出走。
約7か月のブランクの上に初体験の1400mという不安要素もあったが、2着のフィアーノロマーノに5馬身差を付ける圧勝。3歳牝馬による阪神カップ勝利は史上初であった。
当年のJRA賞では、オークス馬ラヴズオンリーユーや秋華賞馬クロノジェネシスを抑えて最優秀3歳牝馬に輝いた。
2020年(4歳)
4歳初戦は高松宮記念に出走。
ルメールがドバイ国際競走に出場するため、(しかし新型コロナウイルス感染拡大により中止となった)池添謙一が代役となった。
1着入線のクリノガウディーが4着に降着となったが、自身はモズスーパーフレアに届かず2着(繰り上がり)に敗れた。
ヴィクトリアマイルに出走する予定だったが回避し、春の最大目標である安田記念に出走した。
ルメールは、これが初対決となるアーモンドアイに騎乗するため、再び池添とコンビを組んだ。
アーモンドアイや前年優勝馬のインディチャンプを退け、桜花賞以来のGⅠ2勝目を挙げた。
池添はレースの途中で土の塊が顔面にぶつかり流血を負ったが、インタビュー中にルメールがアイシングを手渡していた。
秋初戦は前年回避していたスプリンターズステークス。
春秋スプリント制覇を狙うモズスーパーフレアやダノンスマッシュなどの強豪が揃う中で1番人気に応えて勝利。これがディープインパクト産駒で初のスプリントGⅠ勝利であった。
続いてマイルチャンピオンシップに出走。
インディチャンプやサリオスなどの実力馬が揃う中で単勝1.6倍の圧倒的1番人気に推されGⅠ3連勝。
前年のインディチャンプに続いて史上8頭目、牝馬では1994年のノースフライト以来26年ぶり2頭目の春秋マイル制覇を達成した。
一年を通した活躍が評価され、JRA賞の最優秀短距離馬を受賞した。
2021年(5歳)
5歳シーズンの初戦は2000mの大阪杯。
未経験の中距離戦への挑戦に誰もが驚いたが、前年三冠馬コントレイルの参戦により、「マイルの絶対女王 VS 三冠馬」の構図が出来上がり注目を集めた。
本番ではコントレイルに次ぐ2番人気に推されるが、大雨に寄る重馬場の影響か最後の直線で伸びきれず、コントレイル共々レイパパレの快速について行くことが出来ず4着に終わる。
次走は昨年回避したヴィクトリアマイルへと出走。
出走馬には高松宮記念2着のレシステンシアや連勝中のテルツェット、トライアルレースの勝ち馬たちと強豪が出揃う。本番では1番人気に推されるが、大阪杯の疲労が抜けきらないことが不安視されていた。レースでは中団で構え、終盤で上がり3ハロン32.6の凄まじい末脚を繰り出して見事に1着を勝ち取り、事前の不安を払拭してみせた。
続いては2連覇をかけて安田記念に出走。
中2週間という短めのローテーションでの参戦で疲労が心配されたが、そんな中でも単勝1.5倍の一番人気に推された。
本番では後ろから4番手でレースを進めるが、第4コーナー付近で前と左右を囲まれてしまい位置が取れず、直線に入っても馬群の中。
鞍上のルメール騎手は焦ったか、グランアレグリアはやや強引に馬群を割って追い込みをかける。しかし、大外から脚を延ばしたダノンキングリーが猛追。ゴール寸前で差し切られてアタマ差で2着に終わった。なお、古馬になってから唯一のマイル戦敗北だった。
夏は休暇に充て、休暇中に喉頭蓋エントラップメント(ノド鳴りの一種)が見つかるも手術で除去。万全の状態で秋を迎える。
秋初戦は天皇賞(秋)より始動。
中距離戦タイトルへのリベンジとして挑む。出走馬には昨年度の無敗三冠馬コントレイル、今年の皐月賞馬エフフォーリアがおり、人気を3頭で分け合う形となった。
本番ではスムースにスタートを切り、カイザーミノルを見据える2番手でレースを進める。そのままゆっくりとしたペースでレースは進み、最後の直線でスパートを掛ける。
だが、押し切ることが出来ず、後ろからやってきたコントレイルとエフフォーリアに差し切られ3着に終わった。やはり中距離戦は厳しかったようだ…
その後は香港マイルへの挑戦が予定されていたが日本よりも厳しい歩様チェックへの不安から回避し、中2週でマイルチャンピオンシップに挑戦すると表明。
また、このレースを最後に現役を引退することが馬主のサンデーレーシングから発表された。
本番では今年の毎日王冠でダノンキングリーを破ったシュネルマイスター、最大のライバルインディチャンプ、サリオス、ダノンザキッド、グレナディアガーズなどG1や重賞を勝ち抜いた優駿が多数出走した。
レースはホウオウアマゾンが逃げ、グランアレグリアは大外にポジションを取りつつ中団後方でレースを進める。終盤、直線に差し掛かったところで粘るインディチャンプ、追いすがるシュネルマイスターやダノンザキッドらを上がり3ハロン32.7の豪脚を繰り出して差し切り一着。
見事に有終の美を飾り、ダイワメジャー以来のマイルCS連覇、史上6頭目の獲得賞金10億超えの牝馬(短距離牝馬としては初の10億超え)となった。
余談
ラジオを聞ける馬…?
グランアレグリアが入厩している藤沢厩舎では、馬を音に慣れされる目的で、馬房の側にAMラジオを設置している。グランアレグリアはこのラジオが大のお気に入りで、馬房にいるときは大体ラジオに顔を近づけて聞き入っているという。一番よく聞くのは何故か国会中継で、他にトーク番組なども好み。一方野球や相撲などのスポーツ中継は苦手な様子で、始まるとラジオから離れてしまうとのこと。
「グランアレグリアはまだ気づいていない」
グランアレグリア初の2000m挑戦となる2021年大阪杯に向けて、藤沢調教師が発した伝説のとんでもコメント。
藤沢師は元々タイキシャトルで3階級制覇を狙っていたが、当時の天皇賞は外国産馬が出走出来なかった為にリベンジの意味も込めてグランを2000mに挑戦させようとしており、「(距離延長に)まだ気づいていないので頑張ってくれると思う」と騙し騙しで挑戦させていたようだ。
結局グランもマイルでない事に気づいたのか大阪杯4着、天皇賞(秋)3着と勝てはしなかったが好走しており、能力の高さが窺える結果となった。
なお、引退時に藤沢師は「天皇賞使ってごめんなさい」と謝罪していた。
尚、競走馬擬人化ゲームウマ娘プリティーダービーでも秋天をモデルにした対戦コンテンツでスキルの噛み合いから距離適性を無理矢理引き上げたタイキシャトルが環境の一角を担い、「タイキシャトルは2000m走っていることに気づいていない」とネタにされた。
タピッツフライの忘れ形見
アメリカGⅠを2勝した母タピッツフライにとってはグランが初仔となる。しかし彼女は娘のデビュー前の2018年3月に亡くなってしまう。
グランの1歳年下の全弟・ブルトガングは新馬戦で圧勝を見せ、「20世代クラシック期待の星」と将来を期待されていたが、その直後に腰の怪我で命を落としてしまった。
父ディープインパクトが予後不良となったのもブルトガングが死去した辺りであり、グランは天涯孤独となってしまった。
しかし特に大きな故障もなく、「大喝采」の名の通りグランは現役を終えた。これからは唯一無二の血統を繁殖牝馬として残していく使命が残されている。両親と弟のためにも、グランの更なる活躍が期待されている。
関連タグ
タイキシャトル - グランアレグリアと同じくマイル戦で無類の強さを誇った競走馬。グランにとっては同じ藤沢和雄厩舎の先輩でもある。