テンモン
てんもん
生い立ち
1978年2月23日に、北海道静内町の松田牧場に生まれる。
父は活躍馬を多く輩出したリマンド、母は重賞2勝を挙げたレデースポートという、なかなかの良血だったが、幼少期はおとなしく、あまり目立たなかったという。生後3ヶ月ほどで母を亡くし、その後は人によって育てられる。購買したのは代々この血統に縁がある稲葉幸夫で、育成牧場は千葉県の千代田牧場に任された。
1980年3月に美浦トレーニングセンターの稲葉幸夫厩舎に入厩する。
おとなしさは幼駒のころから全く変わっておらず、「こんなに大人しくて大丈夫なのか」と担当厩務員に言われたほどだったが、トレーニングセンターで放牧中で1.5mほどの柵を飛び越えてみせて「バネがなければ到底できる芸当ではない」と稲葉調教師を喜ばせた。さらに調教を始めると、優れた身体能力と闘争心を見せていった。
馬主の原八衛は、自身の持ち馬で牝馬二冠を達成したテイタニヤの「テ」、運を呼び込む「ン」、英語でmoreの「モ」、再度運を呼び込む「ン」を組み合わせ、テンモンと命名した。テンモン自体にはなんの意味もない。
2歳(1980年)
1980年7月に、新潟開催の芝1000m新馬戦で、稲葉厩舎所属の嶋田功を鞍上にデビューする。
直前の調教で1番時計を出したため1番人気に支持され、勝利。その後の条件戦は不得手な重馬場に脚を取られ惜敗したが、400万条件戦でその後の牡馬クラシックで活躍するサンエイソロンを抑えて2勝目を挙げる。迎えた3歳王者決定戦・朝日杯3歳ステークス。ここでも牡馬を破り2馬身半差の完勝で2歳を終える。
3歳(1981年)
明けて3歳、京成杯でまた牡馬を破り勝利すると、当時最強牝馬と謳われたテスコガビー以来の大物牝馬という評価を受け始める。続く2月のクイーンカップに出走し圧倒的な1番人気に押されるも、桜花賞に向け馬体を絞りすぎたことが原因か3着に惜敗し、さらには競走後に熱発を起こしてしまう。体調はすぐに回復したものの、前哨戦には出走できず桜花賞へ直行することになる。
桜花賞当日は雨の影響で苦手な不良馬場となり3番人気になる。レースでは中団を進み直線で追い込むも早めに抜け出した重馬場巧者・ブロケードに3馬身半つけられて2着に敗れた。鞍上・嶋田功は、この敗戦について「テンに行けない(スタートで先行できない)ので、桜花賞向きではない。良馬場なら負けなかったが、逆にこの状態で2着に行けたならオークスは絶対勝てると思う」と語った。また、担当厩務員も不得手の馬場で2着に入れたので「オークスの期待は膨らむばかり」、と発言したという。
牝馬クラシック2戦目のオークスでは1番人気に支持される。前半1000m59秒1というハイペースで中団から追走すると、直線で一気に抜け出し、そのまま独走状態で2着に2馬身半をつけて優勝した。騎手の嶋田・調教師の稲葉氏は、いずれも史上最多記録(稲葉はタイ)となる、通算5回目のオークス優勝となった。
怪我と引退後
競走前より屈腱炎の兆候が出始めていたため、九十九里浜で休養に入り海水浴などをしながら療養を続けた、しかし8月23日、休養先の牧場に台風が直撃してしまい、腰から左後肢にかけ重傷を負ってしまった。怪我の原因について「強風で倒れた埒の下敷きになった」、「川の氾濫で放牧地が使えなくなり馬がストレスを溜め、被災後の初放牧で興奮しすぎて転倒した」など推測されているが、目撃したものはいないため真偽は定かではない。いずれにせよテンモンは背中から後躯に麻痺を残す結果となった。以後出走することはなかったが、当年はエリザベス女王杯優勝のアグネステスコと最優秀3歳牝馬を同時受賞し、その表彰式の席上で稲葉調教師から引退が発表された。
引退後は繁殖牝馬となったが怪我の後遺症で出産に負担が掛かるため。思うように種付けができなかった。目立った産駒はなく僅かにテンザンテースト(父ノーザンテースト)、アオイノモン(父パーソロン)が血糖を変われ種牡馬になったぐらいである。それでもテンザンテーストは地方競馬での活躍馬でも出ている。2001年5月18日に、老衰のため23歳で亡くなった。孫には1999年の青葉賞2着・弥生賞3着のマイネルシアターがいる。
後年、島田はその能力を評し、「テンモンという馬には強みがあった。レースでも気性が素直で御しやすかった。ひたすら走るところが素晴らしい。胴長で無駄な肉がなく柔らかで思い切り走るので乗り心地が良かった。(中略)これだけの名牝に巡り会えたことはラッキーだった。もし九十九里浜の事故がなかったら、距離的な心配もないし、エリザベス女王杯はもちろん、天皇賞や有馬記念も勝ったかもしれませんね」と語った。また、1999年に雑誌「Number」が行った「最強馬アンケート-私が手掛けた馬編」ではグリーングラスを上げた後に、「牝馬ならテンモン。無事ならトウメイより上」と回答している。