概要
ミスターシービー(Mr.C.B.)は1980年代前半に活躍した競走馬。
1983年に史上3頭目のクラシック三冠馬に輝いた。
※1934年に同じ千明牧場で生産された初代ミスターシービーもいる。
※馬齢は2000年までの旧表記で記載する。
※当馬をモチーフとするウマ娘については、ミスターシービー(ウマ娘)を参照。
JRAのCM
'83年、菊花賞。
その馬は、「タブー」を犯した。
最後方から、上りで一気に先頭に出る。そうか…
”タブーは人が作るものにすぎない。”
その馬の名は、「ミスターシービー」。
才能はいつも非常識だ。「菊花賞」
2012年JRA CM「菊花賞」編より
王道無用、良血の異端児。
大地を弾ませて、19年ぶりの偉業。
2020年JRAカレンダー スペシャルサイトより
https://jra-2020calendar.jp/3_mrcb.html
プロフィール
性別 | 牡 |
---|---|
毛色 | 黒鹿毛 |
誕生日 | 1980年4月7日 |
死没日 | 2000年12月15日 |
父 | トウショウボーイ |
母 | シービークイン |
母の父 | トピオ |
5代内のインブリード | Nearco5×4 / Hyperion 4×5(父内) |
産地 | 北海道浦河町 |
管理調教師 | 松山康久(美浦) |
馬主 | 千明牧場 |
略歴
母のシービークインはトウショウボーイと同じ新馬戦でデビューした馬で、重賞3勝の実績を持つ名牝である。引退後、浦河町の千明(ちぎら)牧場で繁殖入りした。
トウショウボーイは引退後日高軽種馬農協の種牡馬となったため組合員の牧場の馬にしか種付け出来なかった。しかし当時内国産種牡馬は冷遇されていた時代。天馬トウショウボーイすら例外ではなく良血の牝馬は集まらなかった。そんな時、重賞3勝の実績を持つシービークインから種付けの申し込みが来た。
シービークインは当初テスコボーイを付ける事を予定していたが、種付け権を確保できず代用でトウショウボーイとなった。組合員でない千明牧場には本来トウショウボーイを種付けする資格はないのだが、トウショウボーイ側もまたとないチャンスと考え、当時の種馬場場長・徳永春美が独断で許可を出した。徳永はその後上司にこっぴどく叱られ、ミスターシービーが三冠を勝つまで肩身の狭い思いをしたという。
シービークインは2番仔を出産時のアクシデントで死産した事で繁殖能力を失い、ミスターシービーが唯一の仔となった。
馬名は「千明牧場を代表する馬になってほしい」という願いが込められている。
余談だが、戦前にもミスターシービーと言う馬がいた。ちなみに生まれた牧場も同じ。
1981年3月に北海道から群馬県片品村の千明牧場へ移動して育成調教を積まれ、1982年春、美浦トレセン松山康久厩舎に入厩する。
1982年(3歳)
1982年11月にデビュー。騎手はデビューから引退まで一貫して吉永正人が務める。
新馬戦を勝ち、2戦目の黒松賞(条件戦)は出遅れるも差しきって勝利。しかし3戦目は敗れ、3歳シーズンは3戦2勝で終えた。
1983年(4歳)
クラシック競走に向けて最初に選んだのは共同通信杯で、ここを勝利し重賞初勝利。
つづく弥生賞も快勝し、クラシック春戦線の主役に躍り出る。
そして皐月賞は先行していたカツラギエースを直線でかわすとそのまま逃げ切り、まずは一冠を達成。
この年が記念すべき50回目となった日本ダービーでは堂々の1番人気に推された。
得意の追い込みで優勝し二冠を達成。50代目のダービー馬となった。
夏シーズンは休養し、秋は最後の一冠・菊花賞に向けて始動する。
秋初戦に選んだ京都新聞杯は4着。勝ったカツラギエースに皐月賞の雪辱を果たされてしまう。
そして菊花賞。ここでシービーは上り坂で一気に加速し、下り坂で加速しながら先頭に立つというセオリーを破る行動に出た。
観衆の誰もが無謀だとどよめくが、最後の直線をそのまま逃げ切って優勝。
この瞬間、1964年のシンザン以来19年ぶり3頭目となる三冠馬が誕生した。
実況の杉本清による「大地が弾んでミスターシービーだ!!」という名実況も有名。
こうして三冠馬となったミスターシービーだったが、ジャパンカップと有馬記念には出走しなかった。
それでも三冠が評価され、最優秀4歳牡馬および年度代表馬となった。
1984年(5歳)
※この年からグレード制が導入される。
古馬となったミスターシービーの春シーズンは、アメリカジョッキークラブカップから始まる予定だったが雪の影響で断念。
さらに蹄の状態も悪くなったことも重なり中山記念も取りやめ、春は全休となった。
復帰初戦は毎日王冠となる。菊花賞からほぼ1年走っていないこともあり不安視されていた。
レースはカツラギエースに敗れて2着に終わるも、三冠馬は健在であることを印象付ける。
続く秋の天皇賞(この年から距離が3200mから2000mとなった)では、1番人気に推された。
当時秋の天皇賞は1番人気は勝てないというジンクスがあったが、得意の追い込みで全馬一気にごぼう抜きにして見事勝利。
その頃、クラシック競走では自身に続き2年連続三冠馬の誕生に沸いていた。そう、「皇帝」シンボリルドルフである。
そのルドルフが自身と同じくジャパンカップ出走を決めたため、史上初の三冠馬対決が実現した。
しかし、勝ったのはそのどちらでもなかった。10番人気のカツラギエースが国産馬として初のジャパンカップ優勝を決めたのである。
ルドルフは3着、シービーは10着と大敗した。
年末の有馬記念でも再びルドルフと対決。
ジャパンカップでの反省から早めに仕掛けたシービーだったが3着に終わり、ルドルフと粘ったカツラギエースにまたしても先着を許してしまうこととなった。
現役引退後
1986年に顕彰馬に選ばれ、父トウショウボーイとの父子顕彰馬が誕生した。
引退後は社台スタリオンステーションで種牡馬入り。当時の社台スタリオンステーションは全頭が外国産種牡馬で固められており、ミスターシービーは唯一の内国産種牡馬であった。
初年度にヤマニングローバルなど3頭の重賞勝ち馬を出し、2年目にシャコーグレイドがクラシックで活躍するなど順調なスタートを切る。種付け料も2001万円という当時の史上最高額にまで上昇した。
だが以降の成績は振るわず1994年にレックススタッドへ移動。1999年に種牡馬を引退した。なお、移動した際に入れ替わりで社台スタリオンステーションにやってきたのが現役時代にライバルだったシンボリルドルフ産駒のトウカイテイオーである。
その後は千明牧場で余生を送っていたが、2000年12月15日に21歳(現20歳)で死去。死因は父トウショウボーイと同じく蹄葉炎だった。
ちなみに、競走馬は離乳してからは母馬と仔馬が2度と再会できないのだが、牧場側の計らいで母シービークインと共に余生を過ごすことが出来た。但し、ミスターシービーは母の事は忘れており気が付いてない。シービークインは息子の死から約3年後の2004年1月に死去した。
後継種牡馬はヤマニングローバルのみで既に父系は断絶している。母の父としてダートで活躍したウイングアローを出したものの全体的には低調であり、現在ではミスターシービーの血を持つ馬はほとんど見かけなくなっている。その数少ない馬の1頭が、トウカイテイオー産駒のクワイトファインである。どうやらシービーはとことんまでこの一族に縁があるらしい。
評価など
19年ぶりに誕生した三冠馬であり、1歳下のシンボリルドルフに一度も先着出来なかったことで評価を下げてしまったが、人気でははるかに上回っていた。
信じられないような戦いで勝ち進み、ファンの魂にいつも違う何かを直接訴え続け、そのドラマチックな生涯から「叙情の三冠馬」と評され、ファンに愛された。
両親の馴れ初めや純国産という血統、端正な顔立ちと体躯、後方から一気にごぼう抜きを決めるド派手な勝ち方など、非常に華の有る競走馬だった。「記憶に残る名馬」とも言われる。
上記成績で動画が引用されているが、これは凄いことで、先代三冠馬であるシンザンの時代はカラーテレビ普及率がなんとまだ2割台、当然ビデオ録画なんて夢のまた夢と言う時代で、競馬場に行かなくてもその勇姿を拝めた三冠馬であった。
ちなみに上記のCMが放送されたのは2012年菊花賞前だがその後の菊花賞ではゴールドシップが3コーナーのはるか手前のバックストレッチから仕掛ける更なる常識破りを披露して勝利した。
タブーはかくして繰り返される。
ミスターシービー世代
ミスターシービーと同じ1980年生まれの主な競走馬は以下の通り。
- カツラギエース:'84宝塚記念、'84ジャパンカップ ミスターシービーとは対戦成績4勝4敗と互角であった。
- ギャロップダイナ:'85天皇賞(秋)、'86安田記念
- ニホンピロウイナー:'84・'85マイルチャンピオンシップ(初代優勝馬)、'85安田記念
- ダイナカール:'83オークス(エアグルーヴの母)
- リードホーユー'83有馬記念
- スズカコバン:'85宝塚記念
- サンオーイ:大井三冠
このように同世代も実力馬が揃っていた。国内でシンボリルドルフに勝ったのはカツラギエースとギャロップダイナの2頭だけである。
ちなみにプロ野球界では松坂大輔がこの年の9月13日に生まれており、所謂「松坂世代」と同世代でもある。
ヒーロー列伝No.14
ヒーロー列伝No.14
ターフの偉大なる演出家よ。ミスターシービー
その偉大なる競馬叙事詩は春の中山で始まった
第一幕
雨、降りしきる春の中山、皐月賞。
不良馬場をものともせず、おまえは泥を蹴散らし、
馬群を割って先頭に躍り出た。
比類なき強さの片鱗。
激しく、壮烈なプロローグである。
第二幕
緑、鮮やかなる初夏の府中、日本ダービー。
気の昂ぶりか、はたまた余裕か。
出遅れたおまえは、終始後方でレースを進める。
だが、4コーナーを回り、おまえの末脚は爆発する。
直線一気、ターフを切り裂くものすごい追い込み。
並外れた強さの証明であった。
第三幕
やわらかい日差しに映える秋の淀、菊花賞。
夏を越し、おまえの馬体にはさらなる力がみなぎった。
レースが三コーナーにかかったとき、
この劇はクライマックスをむかえる。
おまえは、坂の手前で先頭に立つというタブーを犯してしまったのだ。
あわや、と思った。
しかし、それも杞憂。他を力でねじ伏せてしまった。
まるで、脇役のいない、演出主役の一人舞台。
第四幕
競馬史上三頭目の三冠馬、ミスターシービー。
おまえが、ターフにその雄姿を見せるかぎり
この英雄叙事詩は、さらにつづく。
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