さらなる高高度へ
Fw190D-9で高性能の液冷エンジンを採用し、待望の高高度性能を獲得したFw190だったが、設計者たるクルト・タンク博士は満足していなかった。
本来の高高度エンジンでは無かったからである。
そこで主に、
- 本格的な高高度用エンジンの搭載
- コクピットの与圧
- 主翼の拡幅
といった強化を取り入れたTa152の設計に着手した。
『戦闘機は競走馬では無く、軍馬でなければならない』
これはタンク博士の持論である。
戦闘機に限らないことだが、軍事兵器とは過酷な環境で使われてすり減っていくものである。
そこでタンク博士は
- 操縦しやすく頑丈で、
- 戦場での修理も簡単、
- なおかつ生産もラクチン
という戦闘機を設計した。それが前身Fw190であり、登場以来さまざまな戦場で活躍していた。
しかしFw190には欠点があった。
それはBrmo801発動機の高々度性能が良くないということである。
これはターボチャージャーを装備する米軍のB-17、B-24がドイツを襲うようになってから顕在化した。
そこでFw190に2つのの高高度化計画が立てられる。
ひとつは「すぐやる計画」で既存のFw190に高々度に対応させることで、
これは液冷エンジンに換装したFw190Dに行き着く。
ターボを装備したFw190Bも計画されたが、ドイツの航空ガソリンのオクタン価が低いためにうまくいかなかった。
- 87価。日本陸軍と同じ。ちなみに日本海軍が92価、連合国は国によってまちまちだったがアメリカの120価(アンチノック剤入り)で統一された。現在のJIS規格の自動車用レギュラーガソリンが85価以上、プレミアムガソリンが95価以上(各社ほとんど100)。現在日本では自動車にアンチノック剤入りのガソリン(有鉛ガソリン)を入れて走ると違法なので注意。(※有鉛ガソリンは禁止されているが、専用の添加剤を加えた無鉛ハイオクでの代替は可能)
もうひとつが本格的なFw190の大規模モデファイで、
これが『Ta152』となる。
エンジンは当初DB603エンジンを希望していたが、
このエンジンはメッサーシュミット社への供給が優先されていた為、仕方なくユンカースのユモ213を使用した。
このエンジンは生産の手間が少なく、供給されやすいという利点があった。
だがこのエンジンはFw190D-9と同じエンジンであり、後に性能向上型を搭載する事とされた。
(結局完成しなかったが)
ただし、このエンジンはDB603のように精巧で気難しいという事がなく、
結果的にはタンク博士の持論に沿ったものになったといわれる。
活躍について
登場が戦争終結間近だったため、殆ど活躍できていない。
そのころには全ドイツの燃料は尽きており、航空機はもちろん、
補給トラックの一台を動かす燃料さえ事欠く有様だった。
そんな状況にも関わらず、少数の機体はロールアウトして活躍している。
また、高高度戦闘機と言いながらも肝心の過給機(スーパーチャージャー)が不調だったので、
実際には低空での防空を担当し、Me262離着陸時の援護に活躍したという。
軍馬の進化
生産は150機程度だったと言われ、高高度性能も過給機の不調で揮わなかった。
完成数はH-1が67機だと言われている。(という事はH-0が80機程度か)
また、H-1はエンジンを換装した本格的生産型である。
前にふれたとおり、過給機の不調でエンジンの信頼性が低かった。
H-0はFw190D-9のエンジンを使った前生産型に位置づけられる。
エンジンは変わらず、重量が増えているが、
タンク博士が自前の操縦で飛行中にP-51ど出くわして見事逃走に成功したとかあるので、
機体の空力的改善により性能は向上していたのだろう。
実際Ta152Hだけで5機を撃墜してエースに序せられたパイロットが何人かいる。
もうひとつ、Ta152Cという、主翼を短くした低高度型も計画されていた。
もうこの頃になるとBf109じゃどうにもならんというのがわかっていたのか、
これにはDB603が奢られることになっていた。
こっちは完成しなかったが。