シュルツェンとは
シュルツェンのはじまり
有名なものではドイツ戦車に付けられていた装甲(一種の増加装甲)を差す。
第二次世界大戦、とくに独ソ戦のとき、ドイツは敵の対戦車ライフルには手を焼いていた。
このライフル(とくに多かったのはデグチャレフPTRD1941)が「戦車の装甲を貫く」という事は無かったのだが、かわりに装甲の弱い部分、つまり覗き口やハッチを狙われた。しかも相手は歩兵であり、戦車は外がよく見えないのをいいことに、ありとあらゆる場所・距離に陣取っては狙撃している。
いくら直接撃破できないと言え、例えば「目を近づけた瞬間に覗き口を狙撃される」などして、死傷者は無視できないほどになっていった。
対戦車ライフル防御用「エプロン」
そこで対戦車ライフルの特性から一計を案じ、「戦車から弾丸をそらす」ための装甲が考えられた。これが『シュルツェン』で、高速で飛翔するライフル弾あっての対策である。
対戦車ライフルの弾丸は軽量でも貫通力を持たせるため、通常のものよりも炸薬が多く込められている。つまり「スピードで装甲を貫通させる」ので硬く・質量のあるものに、なおかつ角度を付けて命中すると弾かれやすいのだ。
シュルツェンが薄くても高速弾を弾けるのはこうした特性を利用したためで、実際にテストでは「本体の装甲には傷すらつかなかった」という。こうして有効性も証明され、1943年からは主力戦車(Ⅳ号戦車やIII号戦車)向けに装備されるようになった。装備箇所はもちろん側面や後面である。
ちなみにシュルツェン付きのⅣ号のシルエットはティーガーに良く似た四角いものとなり、米軍が「タイガー撃破」と喜んでいたのは大抵これであったという逸話がある。もしくは『タイガー戦車が出た!』と言えば大急ぎで支援に来てくれることに期待したのかもしれない。
パンターの場合
「クルスクの戦い」(1943)に新兵器として投入されたパンターも、実はシュルツェンのお世話になっている。その箇所とはサイドスカートに隠された車体側面。サイドスカートはシュルツェンだったのである。
正確には機関室の両側面で、この部分だけは14.5mmと装甲が薄かった。この厚さなら100m以上でも十分に貫通できる。
スケスケスカート
シュルツェンは単純な構造だったが、成形炸薬弾対策にも有効であった。
とくにパンツァーファウスト配備以降はソ連兵も探し出して活用している。
(もしくは戦死者からもぎとる)
ただしこのシュルツェン、整備・点検のときは邪魔になったし、実際に装備して走るとガタガタギシギシと非常にやかましかった。この部分だけは戦車兵に嫌われており、外している車両もよくあったという。また、戦争末期には物資が不足し、Ⅳ号戦車J型では(対戦車ライフル対策には目をつぶった上で)金網も使われた。
シュルツェンのその後
装甲に関する技術は戦後も発展を続け、2枚の装甲の間に空間を持たせる『中空装甲』や、複数の素材を組み合わせた『複合装甲』へと進化している。この装甲にメタルジェットを侵徹させる成型炸薬弾(HEAT弾)はあまり有効ではない。(それでも薄い部分なら有効だが)
現在では走行装置(無限軌道・キャタピラ等と呼ばれる)基部を守るための「サイドスカート」として、その名残がある。
対戦車榴弾のその後
現在では成形炸薬弾だけでなく、『SFF:自己鍛造弾』(爆発成形侵徹体とも)という弾頭も開発されている。これは1943年に見出された平面爆轟波とマイゼン・シュレーディン効果を利用したもので、爆薬の金属製裏地に爆発の衝撃波を集中させて吹き飛ばすものになっている。
この際のスピードは少なくとも秒速2,500m(およそマッハ7.3)程になり、吹き飛ばされた金属板はスピードだけで弾丸型に変形することになる。この弾丸の貫通力こそ弾丸の直径と同じくらいだが、そのかわり有効距離は直径の500倍と長く、その有効距離内にあるものは運動エネルギーある限り貫通する。
つまり、成形炸薬弾の「途中に障害物があると効果がない」という弱点を補うことができるのである。これさえあればスペースドアーマーなど恐れるに足りない。無関係に貫通するのだから。
ただし構造上サイズの大きい兵器にしか適用できず、例えば対戦車用の航空用爆弾(クラスター爆弾)や大型対地ロケット弾に搭載、IMS地雷のような投射装置を使用して装甲の薄い天面を狙って使うか、IEDなどの仕掛け爆弾に用いて側面や背面を狙うといった使い方となる。
なお、自己鍛造弾は万能そうに見えるかもしれないが、成形炸薬弾と比べて一長一短があるので、両方を組み合わせて使われている。