解説
第二次世界大戦中期以降、ドイツ軍がソ連赤軍の対戦車ライフル対策としてIII号戦車やIV号戦車、パンター(V号戦車)などに施した増加装甲の一種。
装甲厚の増大ではなく、対戦車ライフルから発射される徹甲弾の運動エネルギーを奪うことを目的としているため、薄い板状となっている。
なお、ドイツ語における原義は「エプロン」。
開発の経緯
大戦期に大量生産されソ連赤軍歩兵が運用したデグチャレフPTRD1941やシモノフPTRS1941などの対戦車ライフルは、III号戦車やIV号戦車といったドイツ軍戦車の正面装甲(50mm程度)を貫くには威力不足だったが、一方で比較的装甲の薄い部分、つまり側背面装甲(30mm程度)なら十分に貫通させることが可能だった。
このため、ソ連の歩兵が対戦車ライフルを用いてとった戦法は、道沿いや建物の屋上からの待ち伏せで、元来視界に大きな制約を課されている戦車に対し、この戦法は大いに効果を発揮。
貫通した弾丸は車内の戦車兵に致命傷を与える、燃料タンクやエンジンを発火させるなどし、多数のドイツ戦車が撃破、もしくは無力化された。
単なる歩兵すら携行可能でかつ安価な武器が、製造にとてつもなく手間のかかる戦車、長い訓練を経てきた戦車兵を仕留めるという、コストパフォーマンス的にドイツにとってあまりにも不利な状況。
これがシュルツェン開発のきっかけとなった。
仕組み
対戦車ライフルの口径に似つかしくない高い貫通力の仕組みは、軽量弾頭に多量の装薬を用いて高初速を得る、つまりは貫通に必要となる運動エネルギーをのほとんどを飛翔速度で賄っている、というもの。
これは同時に、弾丸が減速すればその貫通力も大きく低下する、ということでもあり、シュルツェンはこの点に注目した装甲だった。
事実、シュルツェンそのものは5mmから8mmと薄く、しかも硬化処理すらされていないただの軟鋼であり、対戦車ライフルの命中弾を受けようものなら容易に撃ち抜かれてしまう。
しかし、その弾丸が主装甲に命中する頃には飛翔速度は大きく低下、飛翔姿勢も貫通にまったく適さないものとなり、貫通力は半ば皆無となった。
また、対戦車ライフルの砲弾の素材としてよく使用されていた「タングステン」は硬くて脆いのが欠点で、シェルツンを貫通する際に生じる圧力変化によって砲弾が割れ砕けてしまう。これにより砲弾の重量や弾速が大きく減少し、貫通力を落とす効果があった。
余談
- 優良誤認
シュルツェン付きのIV号戦車のシルエットは、かのティーガーI重戦車のように大きなものとなり、結果として、連合軍はたびたびIV号戦車をティーガーと誤認することとなった。
ちなみに、ティーガーの側面装甲厚は最低でも60mmが確保されており対戦車ライフルを完全に防ぐことが可能で、シュルツェンも装備されていなかった。
- シュルツェン登場後の対戦車ライフル
シュルツェンの登場は対戦車ライフルの戦術的価値を大きく損ねたものの、戦車にはいまだにキューポラなどに設けられた視察口や照準口など、装甲の薄い部分があった。
これらの弱点への狙撃は、主に車内の戦車兵が外を覗いた時に実施されたという。
- 化学エネルギー弾に対する効果
シュルツェンを取り付けると主装甲の間に空間が生じる。これが空間装甲(スペースドアーマー)としても機能し成形炸薬弾の効果を減じたと一時期言われていたが、当時の成形炸薬弾は技術的に未熟でスタンドオフ距離(最大の貫通力を発揮する距離)より近い距離で起爆する物が多く、シュルツェンに命中すると主装甲との距離が適切なスタンドオフ距離へと近付く事で逆に威力が増してしまう事態に陥った。
ドイツ側も1944年に試験を行い実態を把握していたものの、威力的にシュルツェン無しで命中しても貫通する事には変わりなく、小口径弾や砲爆撃の弾片に対する防御手段としては有効だった為に装備が続けられた。またソ連では成形炸薬弾対策でシュルツェンを参考に金網やマットのスプリングを張り付けるといった対策を取ったが、これも距離的に悪化させるだけで終わったと思われる。
- 絵描きの救世主
戦車を描く上で最も困難な要素...それは履帯である。
1枚だけでも複雑な形状なのに、それが数百枚と接続されている戦車のそれは、間違いなく絵描きにとっての鬼門なのだ。
しかし、車体脇にシュルツェンが装備されているなら、履帯の大部分は覆い隠され、代わりに板一枚を表現するだけで済んでしまう。素晴らしいことではないだろうか。