解説
通常民主主義においてメディアは政府の政策を監視・検証するのが仕事であり、もし、政策に疑問の余地があれば、それをただすのもジャーナリズムの仕事であろう。
2016年5月現在、日本の政権を預かるのは安倍晋三を首班とする「安倍政権」であり、もちろん安倍内閣も政策のいくつかを例外なくメディアの批判にさらされている。
しかし、それも無理からぬことであろう。
現在、安倍政権の経済政策いわゆる『アベノミクス』は「三本の矢」に象徴される政府による財政出動を主とした、自民党旧来の経済政策である。
1・日本銀行は国債を買うことにより「円」を市場に流通させて円安へと誘導させ、人工的に株高へと誘導する。
2・民主党政権が凍結した公共事業を再開する。
3・三本目の矢を発動させようとしているが、その政策の内容がはっきりとしておらず、発動させる気配もない。
そればかりか、日本銀行は、現在、「マイナス金利」政策を発動中である。これは一般の銀行が日本銀行に資金を預けた場合、逆に金利を日本銀行に支払わなければならないというものである。この政策の狙いは資金を市場に流通させ、企業の投資意欲や市民の購買意欲を高めようというものだが、労働者の賃金低迷や不正規雇用の増大による労働者の身分保障に不安があることから、効果のほどは不透明と言わざるをえない。
以上のように、財政出動を主とする安倍政権の経済政策は行き詰っており、財政健全化を目指す「プライマリーバランス」がいつ黒字化するのか不透明である。
その一方で、2015年5月に成立した『安全保障関連11法』に関する議論は『日本国憲法』第9条2項に規定された「戦争の放棄」に反するものとして多くの憲法学者に憲法違反であるとの烙印を押されている。
この法律の成立に先立って安倍晋三首相は、アメリカ議会で行った演説においていまだ法案の骨子も明らかになっていないにもかかわらず日本の議会に諮ることなく『安全保障関連法』の成立を約束し、立法府である国会を軽視する姿勢を明らかにしている。
報道に対する安倍政権の姿勢も批判の対象とならざるをえない。
2014年1月25日、NHk会長に安倍首相と懇意であるといわれる籾井勝人氏が就任したが、籾井氏は就任にあたって「政府が右といえば、左というわけにはいかない」、「慰安婦は日本だけではなく、ヨーロッパでも行われた」と発言、ジャーナリズムに反する発言であることから撤回に追い込まれたが、現在も籾井氏の資質は論議の的となっている。
また、NHk経営委員に選出された百田尚樹氏は2014年の東京都知事選挙において「田母神俊雄氏以外の候補者は人間のクズ」と発言、経営委員を退いた後も自民党の勉強会において「沖縄の新聞2紙はつぶさなくてはならない」と発言、撤回後に「毎日新聞、朝日新聞はつぶれたほうがいい」、「沖縄のどこかが中国に占領されたら目が覚めるんじゃないか」と逆切れするありさまであった。
さらに政府・自民党は政治的中立を守らせるためであるとNHkとテレビ朝日の幹部を党本部に呼び出して圧力をかけた末、2016年3月8日、高市早苗総務大臣は『電波法』第4条の規定により「政治的中理を守らねば、割り当てられた電波を止める」と答弁、しかしながら『電波法』にそのような罰則規定はないことから、現在、報道を規制しようとする安倍政権の高圧的な姿勢は内外のメディアにとっても懸念・批判の対象となっている。