ネタバレ注意
本名を伏せていたのは、「掠風竊塵(リョウフウセツジン)」という通り名で活躍する、狙った獲物は必ず奪う大盗賊であったため。
その悪名高さは、外界と隔絶された生き方を送ってきた丹翡の耳にも届いていたほど(ただし、過去の厄災の経緯から、物理的に断絶した状態にある隣国出身の殤不患はさすがに知らなかった)。
また、彼の悪名は盗賊のそれもあるが「大悪党を自らの策謀で欺き、踊らせ、奪い取り、傲岸な鼻っ柱を完膚無きまでにへし折ることで、相手を最大限の屈辱に塗れさせる」ことを至上の悦びとする、自身の困った性根に因るところも大きい(これだけだと「正義の味方」ではないにせよ「悪の敵」ぐらいに思えるが、彼は策謀を巡らす過程で第三者を平気で巻き込み利用するため、邪悪ではないが外道ではある)。
――つまり、本作における彼の旅の目的は「丹翡に協力する事」でも「金品」でも「天刑劍」そのものですらなく、蔑天骸に嫌がらせをして愉しむ事であった……それなんて愉悦部。
おまけに、このひん曲がった性根は相当な筋金入りで、「極上の獲物」と見込んだ蔑天骸に対してせっせと嫌がらせに勤しんだ結果、最終盤で逆ギレして開き直った彼に笑いながら死に逃げされた際は、それまでのクールで余裕綽々な態度はどこへやら、地団駄踏んで悔しがり、蔑天骸の亡骸に掴みかかって「卑怯者!」と食ってかかるという、天邪鬼どころではない屈折ぶりを見せている。
…そこ、「卑怯者」とかお前が言うな。
なお、狩雲霄、刑亥、殺無生の三人は過去に同様の経緯で彼に酷い目に遭わされた、いわば「掠風竊塵被害者の会」の面々である。
元々は剣の使い手であったようだが、剣の道を修め続けた結果、極めたところで無意味…と言うより、「剣を極めて悟りを開いてしまっては渾沌とした世界を愉しめない」という酷い理由で修行をやめ、現在の盗賊家業に鞍替えした(しかしながら剣の道そのものを侮ったわけではなく、「侮らなかったからこそ、ついには嫌気がさした」とも言っている)。
それでもなお蔑天骸と互角以上という凄まじい剣技の持ち主である。
事件が解決した後は、殤不患の持つ魔剣目録を狙い現れるであろう自身よりも実力のある強者に目標を定め、荷物を求めて殤不患の後を追いかける。