概要
太陽神アポロン(元の神話ではヘリオスとされるが、同一視されるに至る)とクリュメネという女性との間に生まれた少年。とはいえ父親は太陽神の仕事で多忙なため(それ以外のことも色々やらかしてそうな神様なのだが…)生まれてから一度も会ったことが無く、ただ母親からそうだと聞かされて育った。
そしてある日、同年代の友人たちに父親がアポロンであることを自慢してみせたのだが 全く信じてもらえず 、逆に嘘つき呼ばわりされていじめられることになってしまった。「だったら証拠を見せてみろよ」と言われて何も返せず、母親まで侮辱されていたたまれなくなったパエトンは、生まれて初めて、父親に会いに行くことを決意。長い旅の末、アポロンの宮殿にまでたどり着いた。
アポロンは彼を息子と認め歓迎し、冥府のステュクスの川に誓って(そうしたらいかなる神でも誓いに背くことはできない)どんな願いでも叶えてやると約束した。すぐさまパエトンは、父の御する、空を駆ける太陽の馬車を1日だけ自分に操らせてくれることを要求。そのカッコいい姿を見せつけてやれば、悪友たちも自分がアポロンの息子であることを認めざるを得なくなると考えたのだ。いかにも子供じみた考えである。
しかしその馬車はアポロンにしか操れないもので、とうてい人間の子供の手に負えるものではない。それを知るアポロンは願いを取り消すよう求めたが息子は聞く耳を持たず、冥府の川に誓った約束は取り消せない。仕方なく馬車をパエトンに貸し与えた。喜び勇んで自ら馬車を駆って颯爽と天を行くパエトンだったが、アポロンの心配通り馬たちは暴走。大地に近づきすぎては地上に大火災を巻き起こし、天に近づきすぎては今度は天を焦がしかけるなど、天地にわたって大惨事をもたらすことになった。
最高神ゼウスも世界の終わりを懸念したほどで、アポロンも含めた他の神々を集めて緊急対策会議を開いたうえで、馬車の破壊を決定。ゼウスは雷電を放って御者もろとも馬車を撃墜し、災厄を終わらせたのだった。
いくらいじめに遭っていたとはいえ、それを見返す手段があまりにも無謀で、子供じみたものだったがゆえの悲劇であった。
愛する息子を失ったアポロンは嘆き悲しんだが、もとはといえば責任は自身にある以上どうしようもなかった。
パエトンの姉妹(パエトンがほんの少年だった描写からして、おそらく姉)のヘリアデスたちは、嘆き悲しむうちに、その悲しみのあまりポプラの木に変じてしまったことが『変身物語』で語られている。
またこのとき墜落死したパエトンを受け止めたエリダヌス川が、エリダヌス座として天を飾ることになった。パエトンの親友だったキュクノス(当然いじめた面々には入っていなかっただろう)も悲しみに暮れ、白鳥に変じてエリダヌス川に友の亡骸を探し求めたという。一説ではこれが白鳥座の由来とされる。