子連れ狼とは
小池一夫が生んだ、時代物劇画のまさに金字塔とも言うべき作品。
水鴎流剣術の達人たる剣豪拝一刀と、その息子大五郎(拝大五郎)が、柳生一族の非道な所業に復讐するために、壮絶な刺客家業の冥府魔道を歩む、という内容。
双葉社の漫画アクションに連載された小島剛夕が作画を担当した劇画版、これを原作としたいくつかの実写版のいずれもが高い人気を誇る。
特に、劇画版は、80年代には『AKIRA』などと共に海外へ輸出され、「マンガ」が大人気となる一翼を担った。あのフランク・ミラーも今作の大ファンで、海外版の表紙を書いていたりする。
また、若山富三郎主演の映画版は、規制が強まって過激な描写がどんどん削られていた70年代当時のアメリカを中心に、あまりにも景気良く血が吹き出るスプラッターな映画として大人気を博し、『悪魔のいけにえ』などのスプラッター映画ブームの火付け役となった。
このように、世界で特に人気と評価の高い、日本の漫画作品のひとつというべき作品だが、pixivではそうでもない。そもそも劇画を読んでいた世代がそんなに活動していないし仕方ないかもしれない。乳母車に乗せて歩くシチュエーションのオマージュが多数で、ファンアートは少ない。
劇画
1970~1976年。漫画アクションにて連載。
小池一夫原作・小島剛夕作画。
1987年には『Lone Wolf and Cub』のタイトルで海外へ輸出され、大ヒット。
国内で800万部以上、海外では300万部近くの売り上げを誇る。
続編
続編として小学館・週刊ポスト連載の『新・子連れ狼』が2003年から2006年に、2007年から小池書院・時代劇漫画 刃-JIN-にて『そして-子連れ狼刺客の子』が連載されている。小島剛夕が2000年に他界しているために森秀樹が作画を務めている。
若山富三郎版
1972~1974年。全6作。
東宝。勝プロ。最初の実写作品。
とにかく景気良く人が死に、血が吹き出る、爽快な残酷時代劇。
殺陣の名手若山演じる一刀の、野武士のような迫力ある巨体と、それに見合わぬ素早い身のこなしが魅力。
劇画を読んで惚れ込んだ若山が、小池の自宅をいきなり訪れ、庭で殺陣を披露してその場で主演の許可を貰ったというスターらしい豪快なエピソードも有名である。
海外では再編集されて『Shogun Assassin』のタイトルで公開され、前述の通り、その残酷描写の壮烈さでカルト的人気を得た。
劇画作品の連載中に始まった作品だったが、あまりの人気に立て続けに続編を作っていった結果、原作のネタを使い果たしてしまい、2年で終了してしまった。
萬屋錦之介版
1973~1976年。全79話。
日本テレビ、中村プロ。
また、1984年には1話限りのドラマスペシャルとして、フジテレビでも製作されている。
若山の映画版に比べると、やはりテレビ作品であるため残酷描写は影を潜めている。萬屋も、元役人らしいどこか気品のある佇まいの一刀を演じており、映画版とはかなり趣の違う作品となったと言える。万人に楽しめる作風になったことで、作品本来の魅力が失われたとして原作ファンや映画ファンからの評価は決して高くはないが、国民的な人気を博した。
「しとしとぴっちゃん」で始まる橋幸夫の『子連れ狼』が有名だが、これはこのテレビシリーズの後期OPで、使用されていた期間はむしろ、前期OPであるバーブ佐竹の『ててご橋』の方が長い。こちらの方が名曲だとファンの間では評判である。
ちなみにどちらも原作中から歌詞がとられている。
映画版や劇画のあまりの人気の高さに製作が決定された作品だったが、映画版側の東宝と若山がこれに強く反発したという。結局、若山の弟の勝新太郎の勝プロが実写化権利を日本テレビ側に売ってしまったため、いろいろと遺恨が残ったとか。
ただし全く無関係に作られたわけではなく、『子連れ狼』の歌は、実は映画版で挿入歌として先に使われていた。
高橋英樹版
1989年。1話限りのドラマ作品。
テレビ朝日。
正式なタイトルは『時代劇スペシャル 子連れ狼 冥府魔道の刺客人 母恋し大五郎絶唱!』。
ビデオやDVDで発売されていないため、視聴が難しい。
時代劇界の新たなスターとして活躍していた高橋の殺陣の腕が生かされている作品。
およそ13年ぶりの新キャストによる実写化であり、大きな話題を呼んだ。また、宿敵・柳生烈堂を、若山が演じたことでも話題になった。
田村正和版
1993年公開。
松竹。
タイトルは『子連れ狼 その小さき手に』。
子連れ狼の代名詞とも言える「冥府魔道」の言葉が登場しなかったり、一刀が大五郎を一瞬ながら手放したり、柳生烈堂がどうにも情けなかったりと、かなり異色の作品。
田村の演じる一刀は、彼の当たり役であった眠狂四郎の面影を強く残しており、野性味よりもその眉目秀麗さが目に付く、やはり異色の人物として完成している。
凄まじい大ゴケを飛ばしてしまい、ビデオでは発売されたもののDVDにはなっていない。
ただし、今作の製作には原作者の小池が自ら深く関わっており、彼自身は「子連れ狼に関する作品の中で一番好き」と満足しているようだ。
ちなみに、田村が次に映画で主演するのは、14年後の『ラストラブ』でのことであった。
14年ぶりに映画界に復帰!と騒がれたが、14年前に主演していたこの作品について触れるメディアは少なかった。
北大路欣也版
2002~2004年。
テレビ朝日。
現時点で最後の映像化作品。
時代考証が幾分現実的であり、大五郎の乳母車には槍しか積まれていない。
あらすじ
拝一刀は、水鷗流の達人にして、江戸幕府公儀介錯人であった。
この公儀介錯人の地位を巡り、彼と柳生一族は衝突していた。
ある日、とうとう、柳生一族は拝の邸宅を襲撃し、彼の一族を皆殺しにし、さらには彼に謀反人の嫌疑をかける。
唯一、母・薊の手によって、一刀の幼い一人息子・大五郎だけが生き残った。
一刀は、この一連の非道が、柳生一族の真の支配者にして、幕府の裏家業を請け負う「裏柳生」の仕業だと見抜く。しかしすべてを失った彼には、もはや二つの道しか残されていなかった。
彼は、愛刀・胴太貫と毬を息子に差し出し、道を選ばせた。結果、大五郎は刀を選んだ。
こうして一刀は、息子・大五郎を連れた子連れの刺客「子連れ狼」としての旅に出た。
「子を貸し腕貸しつかまつる」。
そう書かれた旗を掲げ、ふたりは全国を放浪する。
一刀の心中にあったのはもちろん、柳生一族への復讐であった。しかし柳生もまた、彼を恐れ、強力な刺客を次々と送り込んでくるのであった。
ふたりは先の見えない冥府魔道をひたすら突き進んでいく……。
登場人物
拝一刀
子連れ狼と呼ばれる刺客。
水鷗流を操る凄腕の剣客で、刀のみならず、槍や弓などあらゆる武芸に通じる。しかし水鷗流の真価は水に入っているときに発揮されるものであり、川や海に踏み入った状態で彼に勝てる者はいない。
冥府魔道の鬼そのものとも言うべき、寡黙で威圧感のある男で、襲い掛かる刺客を黙々と切り捨てる。大五郎に脅威が迫ったときにはたびたび取り乱すが、それ以上に凄まじい怒りをあらわにする。
ちなみに、一族が殺される前は、子煩悩で優しい当主であった。
あらすじで解説したとおり、本来は公儀介錯人であり、名家の当主であったが、裏柳生によってすべてを失い、大五郎を連れて旅に出る。
拝大五郎
一刀の一人息子。
芥子頭が特徴的な幼子で、普段は一刀の押す乳母車に乗っている。
あまりしゃべらないが、幼いながらに自らが父と共に負った宿命を理解している。戦闘の際には、父の意思を理解して、体を伏せたり逃げたりといった行動をとる。
まだハイハイしか出来ない年頃に、刀と毬を父に提示されたときに、無意識かどうかさえわからないが、刀を選んでいる(刀を選べば共に刺客の道を歩み、毬を選べばその場で母の元へ送ろう、と一刀は考えていた)。
「ちゃーん!」としか喋らない印象が強いが、これは萬屋版のテレビシリーズの影響が強く、原作などでは結構普通に喋っている。
彼の乗っている乳母車は木製の原始的なものだが、中にはオーバーテクノロジーが満載で、槍や小刀といった隠し武器はもちろん、多門鉄砲が現れて敵を一網打尽にするなどの異様な活躍を見せる。和製ボンドカーと呼んで差し支えないだろう。
柳生烈堂
幕府の実力者である柳生の総帥格。
彼の策謀によって一刀親子は冥府魔道を歩むことになるが、同時に自身も片目と子息である柳生蔵人、柳生備前、柳生軍兵衛、出淵庄兵衛、出淵鞘香を喪う。
阿部頼母
別名・阿部怪異。
将軍の毒見役を務める公儀御口唇役の大男。毒薬の使い手。