ロシア解放軍（しばしば非公式にROA/РОАの名も用いられる）は、「ロシア諸国民解放委員会」の武力で、1942年から1944年はドイツ国防軍のもと、特に大隊・中隊規模で用いられ、1945年1月28日までは同盟国軍としての地位を持ち、また米英には中立の態度をとった、ロシア人協力者からなる反ソヴィエト部隊。軍を指揮したのはА・А・ヴラソフ（ヴラーソフ、アンドレイ・アンドレーエヴィチ）。ソ連の非ロシア人諸民族はすでに「東方軍団」として編成されていたにも関わらず、1944年末に漸く設立を許可された。
経緯
РОАの設立
1942年12月27日、ドイツ軍の捕虜になっていたソ連軍中将А・А・ヴラソフとВ・Г・バイェールスキィは「スモレンスク宣言」を発布し、その中でドイツ軍司令部にРОАの設立を提起した。軍は「共産主義からのロシアの解放」のため創設された軍事組織と声明されていた。プロパガンダ的な判断から、第三帝国の指導部はこれについて公表したが、実際の組織立案についてはとりかからなかった。この時期から、ドイツ軍におけるすべてのロシア人の民族籍の兵士たちは、実際には書類上にしか存在していなかった、ロシア解放軍の軍勤務者と考えられるようになった（Гофман И. Сталинская война на уничтожение (1941-1945 годы). Планирование, осуществление, документы = Stalins Vernichtungskrieg 1941—1945: Planung, Ausfuhrung und Dokumentation. — М.: Астрель, 2006. — 360 с.）。
РОАの組織の形成は1943年、占領したソ連領土におけるパルチザンへの警備・警察任務と戦闘に向けて開始された（О дислокации изменнических формирований РОА, установленных разведкой партизан с 1.1. по 1.10.1943 // Семиряга М. И. Коллаборационизм. Природа, типология и проявления в годы Второй мировой войны. — М.: РОССПЭН, 2000. — С. 844—849.）。
1943年4月、OKH参謀総長クルト・ツァイツラー少将に知らされた義勇兵に関する状況に合わせ、すべてのロシア人の出自を持つ義勇兵はロシア解放軍へと統合された（Дробязко С. И. Под знамёнами врага. Антисоветские формирования в составе германских вооружённых сил 1941-1945 гг.. — 2004. — С. 189..）。
軍は、例えば国防軍のグルジア人軍団、「ベルクマン特務隊（Sonderverband Bergmann）」の北カフカース大隊と同様に、基本的にはソ連の戦争捕虜や亡命者たちから形成された。РОАの第一師団は1944年11月23日に編成され、いくつかの兵団はやや遅れて、1945年初頭にはРОАの構成には別の協力者の編成部隊も含まれるようになっていた。
参謀総長に定められたのはФ・И・トルーヒン少将、彼の次官はВ・Г・バイェールスキィ（ボヤールスキィ）大佐、作戦部長はА・Г・ネリャーニン大佐。РОАの指揮官には、В・Ф・マルィーシキン少将、Д・Е・ザクートヌィ少将、И・А・ブラゴヴェシチェーンスキィ少将、また以前のコミッサール、Г・Н・ジレンコフも加わった。以前の赤軍少佐で国防軍大佐И・Н・コーノノフはРОА少将の等級を取得した。ロシア人亡命者からは、いくつかの聖職者、А・Н・キセリョーフ、Д・В・コンスタンチーノフなどが従軍司祭として勤務した。ヴラーソフ運動の一連の綱領文書の作成者には、ジャーナリストのМ・А・ズィーコフがいる。
РОАの設立には、ドイツ軍大尉で、ロシア帝国出身のW・K・シュトリク＝シュトリクフェルト（シュトリク＝シュトリクフェルト、ヴィルフリート・カルロヴィチ）が多く携わった。
とはいえ、РОАの指導部の中には、ロシア内戦における以前の白軍の将軍たちも参加し、以前のソヴィエト捕虜（ソヴィエトの立場から未来のロシアを見る人々）と白系亡命者の間には深刻な不一致が存在し、「白」は次第にРОА指導部から排斥されていった。彼らの多くはロシア人義勇兵編隊であるもののРОАとは関係のない（戦争の最後の日々にのみРОАへと統合された）、「ロシア兵団」、オーストリアにおけるА・В・トゥールクル少将の旅団、第一ロシア民族軍、М・А・セミョーノフ大佐の「ヴァリャーグ」連隊、クルジジャノーフスキィ大佐の独立連隊、またコサック兵団（第15コサック騎兵兵団、コサック・キャンプ）など、様々な場所で勤務した。
РОАの実際の設立は、1944年11月14日にプラハで作られた「ロシア諸国民解放委員会（Комитета освобождения народов России, КОНР）」の設置の後に始まった。亡命政府と同一視された委員会は、のちにРОАとなる「ロシア諸国民解放委員会軍（Вооружённые силы Комитета освобождения народов России, ВС КОНР）」を設立した。それは自らの司令部と、わずかな空軍戦力を含めた、あらゆる兵科を備えていた。ヴラソフ将軍は委員会の議長に、同時に、形式上・事実上、第三帝国との同盟国としての地位を持つ、完全に独立したロシア民族軍の最高司令官になった。
ロシア諸国民解放委員会の設立の時期に、アンドレイ・ヴラソフと彼の取り巻きの主要な目的は、彼の計算では、1945年末には確実に起きているだろうドイツの敗北の後、やがて不可避的に発生すると彼が予測していた、西側列強とソ連との紛争で、「第三勢力」として、米英の手助けで彼の政治的課題を実現することを試みるべく、可能な限り軍事的な状況を強化することだった。1945年1月28日、РОАは、アメリカとイギリスに対しては中立の、同盟国軍の地位を獲得した（Андреева Е. Генерал Власов и Русское Освободительное Движение = Vlasov and the Russian Liberation Movement. — Cambridge: Cambridge University Press, 1987. — 370 p.）。1945年3月2日、РОАの兵士たちは右腕の腕章と帽章にロシア解放軍の徽章が備わった。
構成
1945年4月22日、ロシア諸国民解放委員会の軍には、次の編隊、部隊、下位区分が存在した（Александров К. М. Русские солдаты Вермахта. Герои или предатели. — 2005. — С. 186—189.）。
- 総司令官、直属士官のグループ（К・Г・クロミアディ大佐、М・К・メレシケーヴィチ中佐、Р・Л・アントーノフ大尉、В・А・リェイスリェル上級中尉、その他）、П・В・カシターノフ大尉の警備中隊
- ВС КОНР第1歩兵師団、С・К・ブニャチェーンコ少将の麾下、完全に装備を整備され補充されていた（2万名程度）
- ВС КОНР第2歩兵師団、Г・А・ズヴェーレフ少将の麾下、人員は重火器を除き、機関銃を含めた自動火器で武装されていた（1万1856人）
- ВС КОНР第3歩兵師団、М・М・シャポバーロフ少将の麾下、非武装の義勇兵人員のみを有した（1万人）
- КОНР空軍、В・И・マーリツェフ少将の麾下（5000人）
- 訓練・予備旅団、С・Т・コイダ大佐の麾下（7000人）
- ロシア兵団、Б・А・シチェーイフォン中将の麾下（5584人）
- ВС КОНР第15コサック騎兵兵団（ドイツ人を除き、3万2000人）
- 独立兵団、А・В・トゥールクル少将の麾下（7000人程度）
- 北イタリア・コサック独立兵団（コサック・キャンプ）、行動アタマン（コサック隊長）Т・Н・ドマノフ少将の麾下（1万8395人）
- 独立対戦車兵団、フトーロフ少佐の麾下（1240人）
- 司令部直属の補助（技術的な）隊（1万人程度）
- 中央司令部、Ф・И・トルーヒン少将の麾下、またГ・Д・ビェールィ中佐麾下の司令部所属の士官予備軍、チーシェンコ大尉の独立騎兵中隊、А・П・ドゥーブヌィ大尉の司令部警備大隊、А・А・アノーヒン大尉のКОНР資産警備の特別部隊（5000人まで）
- ВС КОНР第1士官学校、М・А・メアーンドロフ少将の麾下（785人）
- ВС КОНРブラティスラヴァ情報学校、С・Н・イヴァノーフ少佐の麾下
- ВС КОНРマリーエンバート情報学校、Р・И・ビェッケル大尉の麾下
- КОНР所属コサック軍部局
いくつかの情報によると、12万から13万人が所属した（Трушнович Я. А. Русские в Югославии и Германии, 1941—1945 / Новый часовой. 1994. № 2. С. 155—156.）。クロアチアのザグレブや北イタリアのトルメッツォからドレスデン南西のバート・シャンダウまで、これらの兵団は前線の広大な地域へ分散されていた（Александров К. М. Русские солдаты Вермахта. Герои или предатели. — 2005. — С. 189—190.）。
ダーベンドルフ学校
РОАのダーベンドルフ学校は唯一のロシア解放軍の士官養成センターだった（Смыслов О. С. Глава 2. Миф о Русской Освободительной Армии / «Пятая колонна» Гитлера. От Кутепова до Власова. — М.: Вече, 2004. — 512 с. («Военные тайны XX века»)）。ダーベンドルフには5000人ほど通い、12名が卒業生となった。
教育の課程は、ソ連に存在するシステムの批判と、ヴラソフ運動の展望の聴取に帰着した。講師たちによるスターリン主義の批判は、1917年2月革命の、またスターリンの「歪曲」を除く十月革命の合法性という立場から行われた（Смыслов О. С. Глава 2. Миф о Русской Освободительной Армии / «Пятая колонна» Гитлера. От Кутепова до Власова. — М.: Вече, 2004. — 512 с. («Военные тайны XX века») ISBN 5-9533-0322-X）。
雑誌「夜明け」と「義勇兵」の二つの編集部がキャンプの中に設けられていた（Троицкий Н. А. Путь «второй волны» и будущее России. // В поисках истины. Пути и судьбы второй эмиграции: Шаблон:Сб. статей и документов. / Сост. Карпов В. С., Попов А. В., Троицкий Н. А. Вступ. статья Попова А. В. — М.: ИАИ РГГУ — С. 23-55.）。
各課程の主要なイデオロギー的課題は、労農赤軍の捕虜となった兵士や指揮官の、スターリンの社会・政治体制に対する革新的な敵対者へと再教育することにあった（Александров К. М. Русские солдаты Вермахта. Герои или предатели. — 2005. — С. 145.）。
1945年2月28日、学校はバーデン州のカールスバートから12キロ南、1945年4月22日に存在を停止することになる、ギースヒューベル村へと移動した（Александров К. М. Русские солдаты Вермахта. Герои или предатели. — 2005. — С. 144.）。
