概要
CV:鈴木みえ
ミンチン女学院の使用人(メイド)で、イングランド北部のアッシュフィールド出身。
故郷に祖母、母、3人の弟・妹がいて、現金収入を得るためにロンドンへ出稼ぎにきた。
第6話で雇用先のミンチン女学院へ現れるのが初出。
当初から、上司に当たり、仕事嫌いのジェームスとモーリーによって、無茶苦茶な業務量を押し付けられたものの、守るべき家族がいるため、劇中では「やめたい」と言った描写はない。
また、無一文になる前のセーラ・クルーに好意的に気を遣ってもらったことに感激し、セーラが無一文になり、ミンチン女学院の使用人になっても「お嬢様」と呼び続け、裏切ることなくセーラを支え続けた。
第29話では故郷のアッシュフィールドへ帰省している。
最終話において、それまでの縁もあって、ミンチン女学院から引き抜かれる形で大富豪に復活したセーラのところへ雇用先を変えた。
『小公女セーラ』の時代におけるメイドという職業について
この物語の舞台である19世紀後半のイギリスでは、女性が給与所得者として働こうとした場合、女家庭教師か使用人(メイド等)しか選択肢がない時代であり、学識と上流階級の礼儀作法を両立できない場合は使用人一択の状況で、劇中においてはマリア・ミンチンが女家庭教師から身を起こした学園経営者であることを窺い知ることができ、アメリア・ミンチンやデュファルジュ先生も個人的に雇用された場合は女家庭教師と言うことになる。
そのような数少ない選択肢の使用人の仕事のひとつがメイドである。
当時のイギリスにおけるメイドの世界には、ハウスキーパーを頂点とする組織、コック長を頂点とする組織、雇用者が直接任免するメイドがあり、担当する職務によって階級があった。
また、待遇に関しては、相場の給料を支払い、家格に相応のお仕着せを支給できることが雇う側としてのステータスであり、上級のメイドと最下層のメイドでは給料の額には数倍の差があった。
担当する職務と組織により、メイドには、次のような仕事があった。
ハウスキーパーを頂点とする組織
- ハウスキーパー - 自身はメイドではなく、管轄下のメイドを取り仕切るのが仕事。メイドの仕事に必要な鍵の管理など、屋敷の管理の全責任を負う。管轄するメイドの人事権も持っており、雇用や解雇なども行っていた。相当な下積みを経て就く役職であり、ほかのメイドのように相部屋ではなく個室を割り当てられ、食事も個室でとることを許されていた。
- ナース - 乳母のことで、雇用主の子どものしつけを専門とする。ナースメイドと呼ばれる部下を従えており、子どものしつけを除く仕事は部下に任せる。
- チェインバーメイド - 寝室や客室など部屋の整備を担当するメイド。19世紀にはあまりみられなかった種類のメイドであるが、クラスとしてはハウスメイドより上で、高給であった。
- パーラーメイド - 給仕と来客の取次ぎ、接客を専門とするメイド。接客が仕事のため、容姿の良い者が採用され、専用のデザインのお仕着せが用意されることが多かった。劇中のミンチン女学院は上流階級の女性を育成することを目的とする寄宿学校であることから、生徒の食事における給仕と来客の接遇を優先的に担当するメイドがいても不思議はない。
- ナースメイド - ナースの管理下で子守を専門とするメイド。基本的にはナースの指示を受け、ナースを補佐する役割を受け持つ。屋敷の外へ子どもを散歩に連れて行くことが中心的職務であった。ナースメイドが雇えない場合は、ナースに就職を拒否されることもあったようである。
- スティルルームメイド - お茶やお菓子の貯蔵・管理を専門とするメイド。アフタヌーンティの習慣が定着した頃に重宝された。自らお菓子を作り、パティシエのような仕事もこなした。
- ハウスメイド - 劇中のマリエットが就いていた仕事がこれ。特にこれといった専門担当を持たず、家中の仕事をひととおりこなす。最も一般的な種類のメイド。日本で『メイド』といえば、一般的にはこれであろう。
- デイリーメイド - バター作りや搾乳を専門とするメイド。仕事の内容から主に地方にみられた。このあたりから重労働で薄給のメイドになる。
- ランドリーメイド - 洗濯を専門とするメイド。職務はひたすら洗濯物の処理に当たることであり、使用人の洗濯を担当するものと、主人およびその家族の洗濯を担当するものとに分かれていた。クリーニング技術の発展で手数料が低廉になったことにより、なくなった仕事である。劇中のミンチン女学院は寄宿学校であり、寄宿舎から出る大量の洗濯物を処理する必要があることから、この手のメイドが雇用されていなかったのは不自然であり、上流階級の女性を育成する寄宿学校を名乗りながら十分な人員を配置できない場合、生徒から口づてに保護者へ伝わり、人離れを起こす可能性がある。
- トゥイーニー - ミンチン女学院で働いていた頃のベッキーが就いていた仕事がこれ。ハウスメイドとキッチンメイドの両方を兼務する。両方の仕事をこなすため、両職の「間 (between) 」に位置する、ということからこの呼び名がついた。いわゆる下働きであり、かなりの薄給で、職務内容が両職にまたがるため、かなりの激務であった。劇中でのベッキーは、この仕事の他にランドリーメイドとスカラリーメイドの仕事もさせられていた。
コック長を頂点とする組織
- コック - 劇中のジェームズが就いていた仕事がこれ。厨房で調理に当たり、ハウスキーパーから送り込まれた厨房担当のメイドを監督する。また、コック長はコックの中から選任される。
- キッチンメイド - 劇中のモーリーが就いていた仕事がこれ。コックの管理下で、厨房のひととおりの仕事をこなす。下ごしらえや仕込み、火おこしなど、キッチンにおける雑務が中心である。
- スカラリーメイド - コックの管理下で、鍋や皿を洗ったり、厨房の掃除を行うメイド。駆け出しのメイドが厨房配属になるとここから始まる。メイド全体の中でも下級ということもあり、冷遇されることも多かったようである。
雇用者が直接任免するメイド
- レディースメイド - 雇用先をセーラのところへ変えたベッキーの就いた仕事がこれ。女主人の意向で指名して雇用されるメイドであり、劇中でも、ダイヤモンド・プリンセスとして女主人になった雇い主のセーラが直接職務を指定してベッキーの雇用を決定していることから、このカテゴリーになる。女主人の身の回りの世話を行い、女主人の外出に当たってお供をするのが仕事のため、必要であれば劇中最終回のように海外出張もする。組織上は、女主人の直接の配下にあって、ハウスキーパーやコック長から切り離された立場にある。給料の相場も高給で、ハウスキーパーやコック長を除けば最上級の待遇を受けるメイドであり、ベッキーは前の職場であるミンチン女学院での仕事が下働きに相当するトゥイーニーと呼ばれる最下層のメイドであったため、メイドの世界では大出世である。
- メイド・オブ・オール・ワーク - すべての役割を1人でこなすメイド。あまり裕福でない家では複数のメイドを雇うのは難しく、ゆえに1人ですべての仕事をこなす必要があった。
- ステップガール - メイドを雇う余裕のない家で、メイドが「いるかのように」振舞うため、週に1回雇われ、玄関を掃除するメイド。当時のイギリスの中産階級以上では、婦人に手袋をさせて「家事をさせていない」ことを誇示するのがステータスになっていたことから、すこしでも余裕があればすぐにメイドを雇おうとした。しかし、その経済力が無くとも外聞を気にしてこの種類のメイドを雇う家もあった。
メイドの諸事情
イギリスにおいてメイドが爆発的に増えたのは、アメリカ独立戦争に伴う戦費を調達するため、使用人の雇用者に使用人税を課したことが一因である。
使用人税の課税方法が雇っている男性使用人の数によるものであったため、節税目的で女性使用人であるメイドを雇用する人々が増えたのである。
そうなると、メイドの仕事が多様化して被雇用者の絶対数が多くなっていくし、絶対数が増えれば玉石混交の状況となるため、メイドの雇われ先変更にあたって、前の雇用主から『人物評価書』なるものの発行を受けて次の応募先へ提出するようになった。しかし、『人物評価書』は前の雇用主が独断で作成するものであり、職務遂行に問題がある場合に低評価の『人物評価書』が出されるのは普通であるが、円満な退職でなかった場合に酷い内容の『人物評価書』を出されることがあった。もし、劇中においてミンチン女学院から雇い先を変えようとするベッキーにミンチン女学院から『人物評価書』が出された場合、職務遂行に問題ありとして低評価は免れないと思われ、次の雇い主であるセーラが直接評価したことで救われた部分が大きいと言える。