概要
映画『男はつらいよ』シリーズの主人公。職業は香具師(やし)。
「それを言っちゃあお仕舞いよ」「結構毛だらけ猫灰だらけ」などのセリフが有名。
柴又のだんご屋「くるまや(後にとらや)」の本来の跡取りだが、本人にはその気はない。
実は車兄妹の中では唯一、外で父親と芸者との間にできた子である。本来は兄がいたが既にこの世を去っている。生まれた経緯や父親への反発で家を飛び出して以降、妹さくら自身は寅次郎とは面識がなかった。
実母への憧憬があり、実は逢いたがっていたが想像していた実母像と違っていた為に仲違いしていたが、いつの間にか和解していた。
性格
人情家というイメージが先行しているが、その一方で寅次郎自身が自嘲するように、人間としては不出来な面も多い。現代に生きていれば間違いなく注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されるであろう。
とにかく短気で家族相手でも平気で喧嘩を吹っかける、身内にツケ払いなど厄介事の尻拭いをさせる、短所を指摘されれば逆ギレして場合によっては暴力も振るう、些細な諍いを根に持って家を飛び出すなど大人気ない言動が目立つ。
特に第15作で起こったメロン騒動は語り草で、贈られてきたメロンを家族で食べようとなった時、例によって前触れも無く帰ってきた自分のことを勘定に入れなかったことに憤り、ネチネチと嫌味を言ったあげく取っ組み合いとなっておばちゃんを泣かせてしまったことすらある。
カタギの人間も徹底して見下しており、従業員を案ずるタコ社長に向かって「あんなボロ工場なんか潰してしまえ」などと平然と宣う。
現代の多くの精神科医には、上記のような衝動的な言動のほか、学校の勉強についていけず落ちこぼれる、字が下手、早寝遅起き(多眠)などの発達障害の症状を呈していると指摘されている(ただし、彼のカバンの中は几帳面に整頓されており、ADHDにありがちな「片づけができない」というタイプではないことがうかがえる)が、彼の育った時代には良い薬もなく、適切な療育も受けられなかったものと思われる。
このように、基本的にはダメ人間と言われ周囲に迷惑をかけまくる種類の人であるが、どこか愛嬌があり憎めないのが寅さんの魅力とも言える。とらやに帰ってくる際は時折気恥ずかしくて素直には帰ってこられず、バレバレな変装して帰ってきたり、人や車に隠れてひょっこり現れるなどシャイな一面も目立つ。また、調子に乗って何かを壊したりすると素直な行動を取ったりと、良くも悪くも人間臭さにあふれている。
また、複雑な生い立ちから始まる浮き沈み激しい人生を送っている為に独特の人生哲学を持ち、甥の満男をはじめ子どもや青少年を諭す立場になることも多い。当時見ていた子供からも寅さんは憧れの対象であり、年齢を問わず愛されていた。。このため「是非うちの町に来てくれ(撮影ロケ地にしてくれ)」という嘆願が絶えなかった。
寅さんと啖呵
寅さんの職業柄、啖呵とは切っても切れない関係で威勢のいい口調とリズムで客の注目を惹くシーンは名人芸の域。これは『寅のアリア』と言われるほどであった。
実は渥美清が若い頃に的屋衆のところに出入りしていた時に身に付けた話術であり、実質的に本物の啖呵売仕込みと言えるだろう。
TV版の寅さん
長い年数に渡ったシリーズであった為、今まであまり知られてこなかった映画の前身であるTVドラマ版男はつらいよ(フジテレビ)の最終回で寅さんはハブに噛まれて死んでしまう。トリビアでも紹介されたので知っている人もいるかもしれない。
ただしこの事は直接の描写ではなく、映画版で佐藤蛾次郎氏が演じた源公の前身といえる「寅次郎の弟分の雄次郎」がさくら達にその最期を伝えたシーンでしかない(ただ回想として寅がハブに噛まれて狼狽するシーンは描かれる)。
ところが、さくらの前にまさかの寅次郎が現れる。現れた寅次郎はさくらに別れを告げ、後ろ姿のままフッと消えた(当時の映像技術の為そのような演出となっている)。妹想いのやくざな兄貴は夢か幻かはたまた幽霊になって妹の前に現れこの世から去ったのである。
この衝撃的な終わり方に、主な視聴者だった男性層からは放送後にフジテレビへ抗議が殺到し、寅さんをさながら兄か弟のように感情移入していた視聴者も多かったということが判明した。
事実、抗議の声の中には「よくも俺の寅を殺しやがったな」などという、まるで身内の仇にぶつける恨み節のようなものまであったらしい。
テレビドラマ版の存在は渥美清氏が亡くなった後に追悼特番等で一部が再放送され、知らなかった世代にも改めて知られる事になった事や結末が悲しいものだった衝撃を与えた。
テレビドラマ版は第一話と最終話のみでしかこの世に存在していないとのこと。理由は記録する放送用テープが高価で一話と最終話以外では1本のテープが使い回されていた為。テレビ放送がモノクロであり、家庭用ビデオデッキが無かった時代であるので一般人が録画する事も不可能であった。
TV版から映画化へ
先の反応に手応えを感じて、一部キャストや登場人物を変更して製作されたのが映画版「男はつらいよ」の第一作である。「生きていたのね」とさくらが驚きとともに寅を迎えるが、これはTV版に対するアンサーにもなった。本来はこれで終わる予定だったが、人気のため想像を超えた長寿作となっていく。
伸びに伸びた結果、第五十作まで作られ、そこで男はつらいよを完結させるという道筋が作られた。この作品では老いた寅次郎が今度こそその生涯を終えるものだったという。そのプロットでは寅次郎は香具師を引退して用務員となった晩年だった。
しかし演じていた渥美清がついに病のため没してしまう。これを受けて二代目寅次郎を据えて(実際レギュラーキャストの入れ替わりは何度かあったため)シリーズを続行する話も出たが、長年寅次郎を演じた渥美清以外に適役は見つからなかった為、立ち消えとなった。
松竹映画で追悼の意味を込めた西田敏行主演の「虹をつかむ男」のラストでCG処理であるが、寅次郎が登場している。これが銀幕で最後の寅次郎の登場となった。
時は流れて、シリーズ50周年プロジェクトとして第五十作「男はつらいよ50 お帰り 寅さん」で、令和の新時代に銀幕で寅次郎が帰ってくるのである。先に記した予定と異なり、新たな主人公に小説家となった満男を据えて、登場人物の現在と過去作品の映像を織り交ぜたものとなる。ちなみに当該作ではあえて寅の生死は明らかにしないとされている。