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ADHD

えーでぃーえいちでぃー

多動性、不注意、衝動性を症状の特徴とする発達障害もしくは行動障害。
目次 [非表示]

概要編集

多動性、不注意、衝動性などの症状を特徴とする発達障害の一つ。ただし、アメリカで提唱されているDSM-IV-TRでは行動障害に分類されている。

一般に遺伝的原因があるとされるが、他に適当な診断名がなく同様の症状を示す場合を含む。なお「注意欠陥・多動性障害」はDSM-IV-TRによる正式名である (AD/HD: Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)。


神経伝達物質であるドーパミンノルアドレナリンの分泌により症状が現れると考えられており、注意力を維持しにくい、時間感覚がずれている、様々な情報をまとめることや感情をコントロールすることが苦手などの特徴がある。

日常生活に大きな支障をもたらすが、適切な治療と環境を整えることによって症状を緩和することも可能である。

じっと座って待つ、一人かつ単独の話を集中して聞く、みんなと同じ動きを取るといった行動が苦手なため、このような行動が求められるようになる小学校入学前後に発見される場合が多い。

かつては症状の特徴から「子供に特有の障害」と考えられていたが、成人以降に発覚することも増えてきている。


脳障害の側面が強いとされ、しつけや本人の努力だけで症状などに対処するのは困難であることが多い。

診断は、多くの精神疾患と同様に問診等で行われる。また、他の発達障害と同じく学校の通知書や家族の評価も参考にされる。

2021年現在、ADHDに特化した生物学的マーカーや心理アセスメントは開発中であり、一般的でない。ADHDの医学的なあり方に疑問を持つ専門家も多く、医療大国であり発達障害などの研究が進んでいるアメリカでは、特にADHDに関する論争が盛んである。


DSM-IV-TRでは症状に従い、以下の3種に下位分類がされる。


  • 多動性・衝動性優勢型
  • 混合型
  • 不注意優勢型 (ADD: Attention-Deficit Disorder)

このうち「不注意優勢型」については次の項目で述べる。


ADDについて編集

いわゆる「ADHD」と診断を受けた、あるいはそれに相当する人の中には、多動性が少ない不注意優勢型(ADD)である場合も多い。

多動性や衝動性が目立つと、座って授業を長時間受けることが苦手であったり、順番を待たず割り込みしてしまったりといった行動が見られる。これに対し不注意が目立つと、(座っていることはできても)作業する上で集中力が続かなかったり、ぼーっとしてものをよく失くしたり、逆に活発で理由もなく常に急いでいるような態度が見られる。


多動性や衝動性によって起こる行動は、小学校(あるいは、それ以前の幼稚園保育園など)での集団生活や家庭生活でもトラブルとして発現しやすいといえる。

たとえば、言い合いになって同級生を叩いてしまった、授業を聞いていられず教室の外に飛び出してしまったといった行動で違和感を感じ、受診に繋がるということもある。


しかし、不注意優勢の場合、上記のような攻撃的な言動をとることがあまりないため、「あわてんぼうなだけ」、逆に「ぼんやりしているだけ」という「性格的な傾向」として受け止められ、長期的な積み重ねがないと診断がつきにくいことが多く、成人以降に発覚するケースもままある。


子供ではICD-10による多動性障害(Hyperkinetic Disorders F90)の診断名として、典型的な特性が現れる「多動性優勢型」の方が多く診断される。特に、学童期までの発症率は1〜6%で男子の方が高いというデータがある。

しかし、女子の場合は多動が目立たない不注意優勢型に分類されることも多く、発見が遅れがちである。よって、認知される人数が少ないことが推測され、実際の発症率の男女差はもっと小さいとする説もある。

また、未就学や低学年の頃は多動性・衝動性による行動が目立ち、高学年以降は不注意による行動が目立つようになるとされる。これは、集団生活の中で指導を受け、ある程度自分の行動をコントロールできるようになるというのが考えられる。


なお、DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は、DSM-IV発表以降、米国で注意欠陥障害が3倍に増加したことについて、「注意欠陥障害は過小評価されていると小児科医、小児精神科医、保護者、教師たちに思い込ませた製薬会社の力と、それまでは正常と考えられていた多くの子どもが注意欠陥障害と診断されたことによるものです」と指摘している。

また、入学月によって起こる年齢差、発達の差が障害の特性と判断される可能性もある。日本では3月生まれの子どもがクラスで最年少になるが、最年少ゆえの落ち着かない行動などが異常と判断される可能性があるとも考えられる。

フランセスは、「米国では、一般的な個性であって病気と見なすべきではない子どもたちが、やたらに過剰診断され、過剰な薬物治療を受けているのです」と述べている。


症状(障害特性)編集

集中困難・過活動・不注意などの症状が通常7歳までに確認されるが、前述のように過活動が顕著でない不注意優勢型の場合、幼少期には周囲が気付かない場合も多い。


落ち着いていられず、イライラしているように見える・些細な刺激で気が散ってしまう・人の話を集中して聞けないといった形で症状が現れる。


年齢が上がるにつれて見かけ上の「多動」は減少するため、かつては子供だけの症状であり、成人になるにしたがって改善されると考えられていたが、近年は大人になっても残る可能性があると理解されている。ただし、近年でも一部の医師や医療関係者、そして知識のない一般人の中には、未だに「ADHDは子供特有のもの」と認識している人もいる。


大人の場合、多動は目立ちにくくなる代わりに、感情的な衝動性(言動に安定性がない、順序立てた考えよりも感情が先行しがち、論理が大きく飛躍して結論に至りやすい)や注意力シャツズボンから出し忘れる、ファスナーを締め忘れるといった些細なミスが日常生活で頻発する、など)、集中力の欠如(人の話をよく聞いていない、いくつもの作業に一気に手をつけるのにすぐ飽きて辞めてしまうなど)が目立つようになると考えられている。仕事の場で、特性によるトラブルや人間関係の摩擦などがストレスとなり、二次障害として精神疾患を引き起こす、またこの二次障害の診断治療の過程でADHDが発覚するケースもある。


これらの症状は生まれ持った脳の特徴的な働きによるものであり、親の育て方や本人の努力、また薬物療法で、特性や症状をある程度コントロールすることはできても「完治」することはないとされる。


うつ病PTSDのような精神疾患、アスペルガー症候群などの発達障害でも類似の症状を呈するほか、障害によって起こる周囲とのトラブルなどが原因で精神疾患を発症する「二次障害」も起こりうる。そのため、正確な判断はADHDに理解の深い医師の診断でなされる必要がある。

またアスペルガー症候群や高機能自閉症との関連については合併症としてではなく、これらの症状全てを自閉症スペクトラムの中に内在する高機能広汎性発達障害(高機能PDD)の一種として区分せずに診断して取り扱うといった見解も出ている。


診断編集

現在、全世界で、最もよく使われている診断基準(特に統計調査)は、アメリカ精神医学協会が定めたDSM-IV (1994) とその改訂版のDSM-IV-TR (2000) のAD/HDであり、不注意優勢型と多動衝動性優勢型と、その混合型という3つのタイプに分けられる。

DSM-IVではMRIや血液検査等の生物学的データを診断項目にしていない。1994年に改訂されたWHOの診断基準のICD-10は、ADHDではなく、「多動性障害 (Hyperkinetic Disorder)」とされており、注意の障害と多動が基本的特徴で、この両者を診断の必要条件としている。ICD-10の「多動性障害」は、細部では若干の違いがあるものの、DSM-IVのADHDの「混合型」に匹敵する。


DSM-IV-TRの診断基準

  • 不注意(活動に集中できない、気が散りやすい、物をなくしやすい、順序だてて活動に取り組めないなど)、多動-衝動性(じっとしていられない、静かに遊べない、待つことが苦手で、他人のじゃまをしてしまうなど)が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に、強く認められること
  • 症状のいくつかが7歳以前より認められること
  • 2つ以上の状況において(家庭、学校など)障害となっていること
  • 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
  • 広汎性発達障害や統合失調症など他の発達障害・精神障害による不注意・多動・衝動性ではないこと

上記すべてが満たされたときに診断される。


疫学編集

双生児での研究編集

コロラド大学のジリス (Jacquelyn J. Gillis) らの研究では、ADHDを発症した一卵性双生児が二人とも発症するリスクは、ADHDを発症した一卵性ではない兄弟姉妹の場合の11倍 - 18倍になると報告された。ノルウェーのオスロ大学のグヨーネ (Helene Gjone) とサンデット (Jon M. Sundet)、英国のサウサンプトン大学のスティーブンソン (Jim Stevenson) らの研究では、526組の一卵性双生児と389組の二卵性双生児を調べた結果として、最大で80%までADHDの遺伝的要因で説明できると発表した。


てんかん等その他の疾患との関わり編集

ADHDを持つ児童のうち約3割が脳波異常、特にてんかんナルコレプシー(特発性過眠症)に似た脳波を記録する事が確認されている。

他にも、注意力低下や衝動性は、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、薬物乱用アルコール乱用等にも共通する症状であるため、診断の際にはこれらを除外して症状や経歴を調査することになる。


原因編集

原因は2023年現在、解明に向けて進んでいるがまだすべてが理解されてはいない。


発症には遺伝的な要素が指摘されており、前述の通り一卵性双生児ではきわめて高い頻度で一致し、血縁者に共通してみられることも多い。このため、遺伝的な要素に様々な要因が加わり、症状を発現させると見られている。

抑制や自制に関する脳の神経回路が発達の段階で損なわれているという点までは確からしいが、その特定の部位・機能が損なわれる機序は仮説の域を出ない。


発達障害は全体として遺伝的要素が大きいというのが最近の研究の成果で判明しつつあるが、ADHDは特に遺伝しやすい発達障害と考えられている。

ADHDの子供の親を検査したところ、7割という高確率で親にもADHD傾向があったという調査結果も存在する(参考:ADHDと遺伝)。



脳の部位の働き編集

機能不全が疑われている脳の部位には、大きく3箇所ある。ADHDの子供達はこれらが有意に縮小していることが見出される。


右前頭前皮質

注意をそらさずに我慢すること、自意識や時間の意識に関連している


大脳基底核の尾状核と淡蒼球

反射的な反応を抑える、皮質領域への神経入力を調節する


小脳虫部

動機付け


※2011年には「ADHDの子供は、健康な子供が同じゲームをして働く脳の中央付近の部位の視床と線条体がほとんど働かない」ことを、理化学研究所分子イメージング科学研究センターなどの研究グループが発表している。


ADHDの神経基盤編集

1990年に米国のNIMHのザメトキン (Zametkin) らのグループは、PETスキャンを用いて、ADHDの成人25人の脳の代謝活性を測定し、対象者群より低下していることを明らかにして、ADHDが神経学的な基盤を持っていることを目に見えるかたちで証明した。 具体的には、健康な前頭前野は行動を注意深く選定し、大脳基底核 (Basal ganglia) は衝動性を抑える働きを持つが、ADHDのケースではそれがうまく作動していない。 エイメン (Amen, 2001) は、脳スペクト画像から、SPECT結果と主な症状から6つのタイプを考案している。


食事編集

食事とADHDとの関連性について指摘する報告があるが、関連性は十分に証明されていない。


2006年、5000人以上と規模の大きい研究で砂糖の多いソフトドリンクの摂取量と多動との相関関係が観察された。

アメリカやイギリスでは食品添加物などを除去した食事の比較が行われている。2007年にイギリス政府は、食品添加物の合成保存料の安息香酸ナトリウムと数種類の合成着色料が子供にADHDを引き起こすという研究を受け、これらを含むことが多いドリンクやお菓子に注意を促している。2008年4月には、英国食品基準庁 (FSA) がADHDと関連の疑われる合成着色料のタール色素について2009年末までにメーカーが自主規制するよう勧告した。


自主規制対象のタール色素:赤色40号、赤色102号、カルモイシン、黄色4号、黄色5号、キノリンイエロー


食事による療法も不確定である。魚介類に含まれるDHAによって発症を抑えられる文献もあるが、資料によってバラツキが大きく、ADHDに対して絶対に有効という保証はない


ASDに比べると「こだわり」による偏食の傾向は少ないとされる。一方で感覚過敏により特定の味や食感、匂いに拒否反応を示す場合は多く、これが(極端な)偏食に繋がるケースもある。


治療法編集

2024年現在、障害そのものを完全治療する方法は確立されていないが、衝動的な行動を抑制する薬剤の処方によって生活の改善を図っている。

遺伝子解析・研究が進められていることから、いつかはADHDの遺伝子診断が行なわれて、適切な薬で根治、あるいは症状の完全なるコントロールが実現する日も来ると考えられている。


しかしながら、後述するように治療が必要な「障害」ではなく「個性」の一環とする意見もあり、どこまで医療が介入すべきかは議論の対象となっている。


薬物療法編集

おもに、神経伝達物質の分泌をコントロールする薬物が用いられる。


日本では一般に、塩酸メチルフェニデート(商品名「リタリン」)が使用されていたが、ADHDへの使用は認可されていなかったため、二次障害のうつ病に対して処方するという形をとっていた。

しかし、乱用による事件があったことから、2007年10月、リタリンの適応症からうつ病が削除され、代わってメチルフェニデートの徐放剤(商品名「コンサータ」)が小児期におけるADHDの適応薬として認可された。その後2013年には18歳以上へ適応拡大が承認され、現在ではすべての年代に向けて広く処方されている。


塩酸メチルフェニデートは覚醒剤として機能するため、長期摂取による依存性や何らかの副作用が懸念されるが、処方に従っている限り薬剤耐性はつきにくく依存の心配を含めて重い副作用は報告されていないとされている。

実際、ADHDの場合、止められなくなるどころか飲み忘れて貯めてしまうことがよく見受けられる。特に思春期以前の児童に関しての投薬も依存の危険はないとされるが、米国ではあまりに安易に幼年児にも処方するため、2~3歳児への処方では実際にはADHDではないケースがかなり含まれているのではとの懸念がなされている。


メチルフェニデートは前頭前野皮質のノルエピネフリン・トランスポーター (NET) に作用し細胞外ドーパミンの濃度が上昇、治療効果をもたらすという仮説がある。リタリンは、脳内のドーパミン・トランスポーターとノルアドレナリン・トランスポーターに作用する事で、ドーパミンやノルアドレナリン量を増やす。セロトニン・トランスポーターにはほとんど作用しない。


また、2009年4月にノルアドレナリンの再取り込みを阻害作用を有するアトモキセチン塩酸塩製剤(商品名「ストラテラ」)が認可され、本剤も承認範囲は小児に限定されていたが、2012年8月に成人期への適応追加の承認を取得した。

2017年3月には交感神経の過剰と神経物質の漏れを抑えるグアンファシン塩酸塩(商品名「インチュニブ」))が認可され、2019年6月には18歳以上への多動・衝動性優位型ADHDへの適応追加の承認を取得(グアンファシン塩酸塩は元々高血圧用の薬である)。


一部にはペモリン(薬剤名ベタナミン錠)が効果を持つ場合もあるが、強い肝臓への副作用が懸念される。


アメリカで、アメリカ国立精神衛生研究所 (NIMH) が出資した、7歳から9歳の600人近い子供を追跡した大規模な研究であるMTA研究が実施された。結果によれば投薬治療は、3年後の追跡調査では予後の不良に結び付けられており、8年後でも投薬の恩恵は見いだせなかった。


ADHDの症状を緩和させるために、カフェイン(カフェイン錠剤、コーヒー等の摂取)を補助的に使用している人もいるが、当然のことながら薬物の代替となるほどの効果はない。二次障害などで他の精神疾患の治療薬を処方されている場合、なかにはカフェインが禁忌となっている薬品もあるため、飲用・服用には注意が必要である。

ベタナミン錠もリタリンと同じく規制対象になる可能性が高く、ADHD患者、特に成人期のADHD患者を取り巻く治療薬問題は大変に厳しいものになっている。ベタナミン錠は肝臓への負担が大きいため、アメリカでは製造中止になっている。


精神医療における大麻の有効性が広く認知されるようになった最近では、医療大麻のADHDに対する有効性について現在多数の研究が行われている。規制の緩和された米国やカナダ、英国等で精神科医が医療大麻や大麻の有効成分であるテトラヒドロカンナビノール系製剤を患者に処方する場合が増えており、中枢神経興奮薬に比べ副作用や依存の少ない有力な代替薬として使用されている。


心理療法(行動療法)編集

心理療法については、行動療法を薬物療法と組み合わせた場合に最も効果がみられると考えられている。

また本人の症状をコントロールすることよりも本人の特性にあった環境を整えることが重要である。


ただし、もとよりADHDは後天性のパーソナリティ障害ではなく、先天性の脳機能障害であるという説が有力であるため、その観点からは心理療法の効果はあくまでも生活品質の向上にとどまり、単体での寛解は期待できないともされる。


また、行動療法の一種として「ご褒美」と「罰」を設定して行動を指導する「トークンエコノミー」や、そもそも注意が逸れるようなものが目に付かないように周囲の環境を整える「環境変容法」などがあり、ADHDに関しては有効であるとされる。


ワーキングメモリトレーニング編集

「ワーキングメモリ」とは、認知心理学の分野において「情報を頭の中に一時的に保持(記憶)しておき、同時にどの情報を優先的に対応するべきか整理して、不要な情報は削除していく」という構造や過程を示す構成概念のことである。

ADHDはワーキングメモリが弱いとされており、その場において優先するべき情報が整理できないことが不注意や衝動性の高さに繋がっているのではないかと考えられている。

なお、現在行われているワーキングメモリトレーニングは必ずしもADHD(児)向けというわけではなく、一般の子どもやビジネス目的でも研究開発が進められている。


この数年でワーキングメモリにおける障害は、ADHDの主要な障害または中間表現型(エンドフェノタイプ)であることが明らかにされた。神経生理学的にはADHDは脳の前頭葉とドーパミン・システムの変異した機能 (altered function) と関係がありえる。(Castellanos and Tannock, 2002; Martinussen et al., 2005)

スウェーデン、カロリンスカ医科大学のクリングバーグらは、コンピュータによるトレーニング・メソッドを開発し、2つの研究 (Klingberg et al. 2002, Klingberg et al., 2005) においてワーキングメモリーがトレーニングにより改善可能であり、ADHDの症状を、中枢神経興奮薬のそれに匹敵するイフェクトサイズをもって軽減することを明らかにした。


当時同大学学長であり、世界的なエイズ研究者であるハンス・ウィグゼルは、医学を専門とする同大学ベンチャー・ファンドとしては初めて新薬以外の分野として事業化を支援し、2009年現在スウェーデンでは約1000校の小学校(約15%)において、米国では約100クリニックにて、それぞれ年間3000人以上の児童・成人のADHD改善トレーニングが行われている。


日本では、コグメド・ジャパンにより2007年夏からえじそんくらぶ協力のもと「ワーキングメモリートレーニング評価プロジェクト」が開始され、2008年には日本発達障害ネットワーク年次大会にて関係方面へ紹介された。


英ヨーク大学のギャザコール、英ノーザンブリア大学のホームズらは、コグメドのワーキングメモリトレーニングを使い、ADHDをもつ児童に対するトレーニングプログラムと中枢神経興奮薬による薬物療法のワーキングメモリ機能へのインパクト(影響)を評価した。

薬物療法が視空間ワーキングメモリだけ改善した一方で、トレーニングはすべてのワーキングメモリ要素(視空間、言語のワーキングメモリおよび視空間、言語の短期記憶)で大幅な改善をもたらし、トレーニング効果は6ヶ月後も持続した。IQ成績はいずれの介入でも変化しなかった。

Discussionのなかで、“断然に最もドラマティックなワーキングメモリの改善はワーキングメモリトレーニングで観察された。測定されたワーキングメモリのすべての構成要素で有意で大幅な改善が見られ、それぞれにおいて、グループの児童を同年代の平均以下のレベルから平均以内のレベルにもっていった。”と報告し、トレーニングによる視空間・言語すべての要素のワーキングメモリへの全体的な改善が、教室の言語中心の環境における多くの学習活動でワーキングメモリへの重い負荷にしばしば耐えられない児童にとって重要で実用的な利益となろう、としている (Joni Holmes, Susan E. Gathercole 2009)。


家庭での配慮編集

家庭では、例えば勉強をしているときは外的刺激を減らしたり、子供の注意がそれてしまった時に適切な導きを与えてやったりといった形で補助する、またころあいを見計らって課題を与える、褒めることを中心にして親子関係を強化するなどが支援の一つの形として挙げられる。一例として、「勉強しなさい」と言うよりも机の上にその子供の注意を引きそうな本をさりげなく置いておく、新聞や科学雑誌を購読する等である。


学校や地域への障害への配慮を求める過程で過保護モンスターペアレントと化してしまう、あるいは周囲からそのように見られてしまう保護者は多いとされる。さらに、発達障害は遺伝の影響があると考えられているため、モンスターペアレントと呼ばれる親本人も(無自覚の)発達障害であり、障害の特性によってトラブルを引き起こしている可能性も少なからずあるといえる。

精神科医で自身もADHD当事者であることを公表している星野仁彦は、「モンスターペアレント、機能不全家族の問題の根底には、(親自身の)発達障害が関係しているケースが多い」と指摘しており、「特に無自覚のADHD当事者の子供が成人し、家庭を築くときにモンスターペアレントになる可能性も高いのではないか」という見解を示している。


予後編集

成長するにつれて問題行動(特に多動など)が目立たなくなる傾向があるため、かつてADHDは子供特有の病気だと思われていた。しかしながら成長後も症状は継続し、また根本的治療というのは現代では未だ難しいといえる。


ADHDを持っていても、症状を補う習慣を身につけることに成功した人、環境に恵まれ、また本人の特性が環境と合致している人は社会に適応し、問題なく過ごせている。

しかし、本人の特性や周囲の環境からなかなか社会に適応する能力を身につけることができない人もあり、また社会に適応しているかどうかの目安が健常者と異なる点にも注意が必要である。


ADHDに限らず発達障害は得意不得意の差が激しいため、特定分野で成功しても、他の分野で同じぐらい成功しているとは限らない。例えば学業に優れ、難関大学の入学試験や資格試験に合格するなどしても、社会人として求められる事務的作業への適正、常識的な思想といった素養に欠けていたり、コミュニケーションがうまく取れず人間関係でつまずいたりといったことは当たり前に起こりうる。学校生活や仕事にうまく馴染めず非行に走る、不登校や引きこもりなどで社会からドロップアウトしてしまう場合や、うつ病などの精神疾患、パーソナリティ障害などを引き起こす二次障害に至る可能性もある。


たとえ社会に適応している人にとっても、自分の性質を理解すること、周囲にもそれを理解してもらい、齟齬を減らしていくことは生活の質を上げることにつながると思われる。そして、本人だけの問題ではなく、周囲の人間の負担を減らす意味もある。


なお、社会と折り合いをつけられず反社会的行為に及んでしまう割合が、ADHDの診断を受けた者は健常者より高いという研究がある。(いわゆるリスクファクター)。


少数意見編集

精神科医で少年犯罪の事情に詳しい町沢静夫は、ADHDの特徴は「攻撃性」であると述べている。それによると注意欠陥・多動性障害の症状は攻撃性と非行であり、いろいろな小さな悪事を重ね、慢性化すると行為障害となり、18歳以上になると反社会性パーソナリティ障害になることが多いという。しかし、町沢がADHDと診断した患者のうち、メチルフェニデートの効果があったのは5%である。これは他の研究によって一般に60~80%とされる結果とかけ離れており、町沢の診断したADHDは、典型的なADHDではない可能性がある。つまり彼が専門とする暴力的な児童にADHDのレッテルを貼っているだけではないかという疑いである。これについて、町沢は米国人と日本人の特性の違いから薬物の効き方に差があると説明している。


学校生活への影響編集

ADHDとLD(学習障害)を併発しているケースもたびたびあるが、ADHDを持つ子供が必ずしもLDを発症するわけではない。

またADHDは知能の低下とは関係せず、多くのADHD当事者は知的には問題ないものの、必ずしも知的障害を併発していないというわけではない。


ADHDの子供は授業中立ち上がる、私語を注意されてもやめないなど多動や衝動性の強さが目立つことも多い。学習面においても、集中力や注意力に欠けるため計算などの単純作業においてもミスが多かったり、板書を追うことが難しかったりといったことで、周囲の学習ペースについていけないといったこともある。他の(定型発達の)クラスメイトとのトラブルを防ぐ目的で、知的障害を持っていなくても(あるいはごく軽度でも)特別支援学級・支援学校や、放課後等デイサービスなどを利用して療育を受けている子供も多い。


周囲の人間の適切なフォローや本人の意識の改善によって、不注意によるミスを減らすことは可能であるとされている。


ADHDだからという理由で無条件に「落ちぶれている」とレッテルを貼り厳しく接する、逆にやたらと甘く評価するのは不適切である。しかしながら、特性は千差万別であり、また他のクラスメイトの存在もあるため、実際の学校教育の現場で教師がADHD児に対して常に適切な対応を取ることは容易ではない。

ADHDの特性である飽きっぽさや忘れっぽさなどは集団生活を前提とした学校生活においてマイナスに働く場面が多いといえ、これは、生徒に対する評価に「授業態度」が決して少なくない割合を占める(日本の)教育現場においては、本人にとっても困難な状況であるといえる。たとえ知能が高くても学業に結びつかない「浮き」こぼれの原因になり、授業態度が悪いと内申書で低い評価しか与えられない。

そもそも、教育現場でADHDが注目されるのは、学級崩壊の原因になるような問題児が発生することへの説明としてADHDが槍玉にあがったことという構造がある。ある意味で、教育現場にとって、ADHDといえば授業中に歩いたり騒いだりするような生徒のことであり、椅子に座って大人しくしているような不注意優先型の生徒を含むADHDの全体像に対して理解が進んでいるとはいいがたい。


日本の現状編集

診断・治療環境編集

そもそも、知的障害を伴わない発達障害の概念が確立し、さらにADHDは成人期まで継続する障害だと広く知られるようになってから歴史が浅く、個人によって特性やそれぞれの抱える「生きづらさ」の程度も幅広い。

ADHDという分類が妥当であるのかということは、ADHDの概念を確立したアメリカでも論争が続いている状況であり、当事者や保護者、医者双方ともADHDに対する理解は進んでいない。


公的支援編集

公的支援は立ち遅れがちだったが、ADHD患者の支援は児童福祉の側面も持つため2005年に発達障害者支援法が成立した。これにより特別支援教育等の支援策に弾みがつくことが期待されている。栃木県では「とちぎ障害者プラン21」を策定、埼玉県では「彩の国障害者プラン21」を計画、千葉県では県議会が平成13年に「日本版ADA(障害者権利法)の制定を求める意見書」を可決した。しかし成人では障害者自立支援法の検討や32条見直しなどにより個人の経済的負担が増えていくものと思われる。成人支援は一部の地域で限定的に行われている。

各都道府県の精神保健福祉センターはADHD専門ではないが、無料または低額で相談・職業訓練・デイケアー・病院等の紹介等各施設独自のサービスを提供している。例として、東京都の思春期・青年期相談でADHDのケースが見受けられた。

市町村の保健所でも、ADHDに限らず一般的な疾病のためのサービスや病院等の紹介が受けられることもある。


支援体制編集

発達障害者支援法が制定され、以前より支援体制は整ったものの、発達障害を専門とする医師・医療機関が相変わらず少なく、専門医師・機関を見つけて診断や治療までに至るにはまだまだ苦労することが多い。それでも、最近は支援団体や自助団体が各地で設立され、インターネットの普及もあいまって、検索サイトや当事者間のネット上のコミュニティが発達し、情報は入手しやすくなりつつある。

なお、このような検索サイトや医院紹介機関に登録されていなくとも、ADHDを診断できる医師・医療機関は存在する。

特に成人ADHDに関しては、Webページなど表向きには小児向けにADHDを診断可としている医師・医療機関でも、実際には成人も診断している場合がある。

したがって、医師・医療機関を探す場合、容易に確認・入手できる表面的な情報だけに頼るのではなく、例えば個別に医療機関に電話で確認・相談してみる、ADHDの専門文献の著者名から専門医師・医療機関を割り出すといった努力も少なからず必要であろう。

また、支援体制と称しつつも、事情をよく知らないADHD当事者や家族の弱みに付け込んだ悪徳商法まがいの行為、不正な行為を行う団体、サイトも存在している。したがって、特に支援団体・企業に費用を振り込む、個人情報を登録する、参加するなどの際には、あらかじめインターネット上なり人づてなりの手段により悪い風評が立っていないかを確認するなどの予防線を張ることが確実といえる。


発達障害情報・支援センター



その他編集

ADHDを障害としてではなく、生物の進化の過程で発現した個性であると捉える枠組みもある。最大で小学生の3〜5%がADHDであるという説があり、だとすればADHDは世の中のどこにでもいるありふれた存在である、ということである。


ADHDのさまざまな特性を「個性」と捉えたときに、薬物による治療が社会適合性を改善する反面、個性をつぶすことにつながるのではとの懸念もあがっている。


ADHDだけに限らず、精神的・身体的に他の人とは異なった人たちも、プライドもあれば夢もある個人として扱われるべきであり、障害も含めた個性として認識するというアプローチもありうる。

障害を理解したうえでの適切なヘルプは必要ではあるが、本人が問題を起こす理由が障害によるものなのか、単に本人の人生経験などの不足が原因で問題が起きているのかについては客観的な視点から判断することは難しく、それだけをもって線引きをすることが容易ではない。


例えば歴史上の偉人・芸術家・発明家など、天才と言われる人たちの多くがADHDだったのではないかという説がある。また、ADHDは知能の低下には影響を及ぼさないことを誇大解釈し、むしろ一般よりもかなり高い知能をしめす者も多いとする主張もある。これらの説は実際のところは信憑性が低い。

しかし、それらの説を根拠に「ADHD優越論」を唱える人や、医学的な診断を経ていないにもかかわらずADHDを公言する「自称ADHD」という人たちが存在し、他の障害に比べると目立ちやすい。


米国ではADHDと診断された児童450万のうち100万人が不適切な診断、誤診である可能性が指摘されている。


発達障害を持つ人はそれぞれの障害特性からインターネットの利用に没頭しやすい傾向があり、ネット依存症・ゲーム依存症に陥りやすいという調査結果が存在している。このため、依存症治療においては障害の特性にもある程度配慮が必要と指摘されている。参考→https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/60/1/60_28/_pdf


ADHDであることを公表している人物編集


ADHDの症状を呈しているとよく言われるフィクションの人物編集

※それと設定されていないキャラクターに障害があると判断するのはキャラヘイトに該当する可能性があるため、編集には注意してください。

関連イラスト編集

ひらめきADHAで統合失調症なわたしのクズすぎる日常ADHDの薬を飲んでみた+雑記センシティブな作品お薬擬人化


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