概要
人間の脳は、神経細胞(ニューロン)の電気活動によって電流が流れることで、末端神経から受けるさまざまな刺激に反応したり、脳からの指令を神経に伝えて体を動かしたりする。
本来ニューロンは一定の規則性をもって興奮と抑制のバランスを保ちながら動かされているが、てんかんはニューロンの異常な電気活動により興奮系の神経が過剰に働いたり、抑制系の神経が弱まったりすることで、体が予期せぬ動きをする発作(てんかん発作)が引き起こされてしまう病気である。
原因は個人差が大きく、生まれつきの脳の形態異常や外傷、脳炎や脳症などの脳機能障害が原因となっていることがしばしばあるが、原因不明の特発性のものもある。脳の損傷が起こる脳梗塞・脳出血などの後遺症として併発するケースも少なくない。
また発達障害と併存していることがあり、特に知的障害を伴う群は、知的障害のない群の約3倍併存しているという調査結果がある。
発作について
てんかんの発作は、電気信号の異常が発生している部位や、興奮の広まり方によって「焦点発作(部分発作)」か「全般発作」に分けられ、発生部位が特定不能な場合「起始不明発作」と分類される。症状の傾向(意識障害の有無や発作時の内容)に応じてさらに細かく分類され、いずれにも分類できない状態や、分類に必要な情報が得られていない場合「分類不能発作」となる。
具体的には、以下のような症状が現れる。
- 体が激しく震える
- 意識を失う(意識障害)
- 手足が動かなくなり、息が止まってしまう
- 全身の力がフッと抜けてしまう、逆に硬直してしまう
- 手足や顔の筋肉などが一瞬突っ張る
- 視界がチカチカ、ギラギラ光る、耳鳴りや頭の中に音が響く感じがする
- 頭痛や吐き気が起こる
突発的、原因不明に起こる発作も多いが、気分の興奮、体温の上昇、疲労やストレス(またそれによる自律神経の乱れ)、ゲームなどへの集中といったことで引き起こされる。女性の場合月経なども原因となりうる。
また、激しい光の明滅もてんかん発作を起こしやすい。有名な例として「パカパカ」と呼ばれる演出が原因で、複数の視聴者が気絶・めまいなどの光過敏性発作を起こし病院に搬送された、いわゆる「ポケモンショック」があり、一部の患者はてんかんの一種である光誘引性てんかんを起こしたと考えられている。
治療など
原因と同じく症状も個人差が大きいため、幼児期で完治する軽度のものから、年単位で服薬しても回復しない難治性のものもある。
基本的には薬物治療が行われる。
薬で発作がほとんど起こらないようにコントロールできる患者が大半だが、薬での完治・寛解もしくは十分なコントロールが不可能な重症の場合、手術により発作が起こる元になっている部位を切除したり、神経線維の束からなる脳梁部分を遮断したりといった方法で治療が行われる。
職業について
てんかんによる社会生活への制約はさまざまあるが、大きなものとしては「車の運転」が挙げられる。
運転中の緊張やストレスにより発作が起きることで、思わぬ事故につながりかねないため、発作が残っている場合は運転できず、特に2年以内に発作が起こった場合は無条件に運転不可能となると道路交通法にて定められている(仮に、取得にあたって虚偽申告をした際には処罰の対象となる)。
運転免許を取得・更新する場合は医師の許可が必要となり、大きな治療が完了して、完治しているか、あるいは服薬により発作をコントロールできているかというのが焦点となる。
しかし、法律上、仮に免許を取得できても基本的には職業として運転を行う仕事には就くことができず(公共交通機関の運転士など)、また日本てんかん学会は「てんかん発作が投薬なしで過去5年以上起こらず、今後も再発のおそれが無い場合を除き、通常は大型免許・第2種免許の適性はない」という見解を示している。
他に、障害者に係る欠格条項の中で、てんかん患者が就くことができない仕事として「航空機のパイロット」、「船員(一部を除く)」、「銃砲又は刀剣類の所持が必要な仕事」、「狩猟免許が必要な仕事(猟師)」、「その他、精神障害に関する欠格条項がある仕事」が挙げられており、既往歴がある場合新規に就職・免許を取得することはできず、後天的に発症した場合は退職・免許は取り消されることになる。
ただし、銃砲または刀剣類の所持の許可と狩猟免許については、発作が再発するおそれがない・発作があっても意識障害が起こらない・発作が睡眠時に限り起こるのいずれかに該当する場合取得可能となっている。
禁止されてはいないものの、高所作業が必要な職業(例えば消防士や建設作業員など)、ライフセーバーなど水場での仕事、意識の喪失や身体の硬直による落下の危険があるため、(発作が完全にコントロールできていない限り)就くことは難しい。