概要
VHS(Video Home System)は、1976年にビクターが開発した家庭用ビデオ規格。
初期はバイクが買えるぐらい高価であったが、次第に安価になり、バブル崩壊後はデフレデッキと呼ばれる1万円前後の簡素型が普及した。
画質は上位モデルのS-VHSでも現代人の目にはボケボケにしか見えないが、逆にVaporwaveなどのレトロ趣味では、わざとVHS風の劣化させるといった映像表現もある。
2000年代半ばになると日本ではDVDレコーダーやHDDレコーダーの普及を前に消えていき、2010年代には既にDVD,BD,HDDレコーダー等に取って代わられ、レガシーとなった。
と、思われがちだが、
実際のところまだまだ現役で活躍しているデッキは多い。
理由は、
- 日本のB-CASシステムによる重DRMへの反感から来る自主的対抗措置。
- 使用方法によってはデジタルレコーダーの質的メリットの恩恵がない。
- 使用方法によってはテープメディアのほうが利便性が高い。
ことがあげられる。
DVDのCPRMやコピーアットワンス問題など、地上波デジタル放送の移行期に噴出した、世界的にも過剰な重DRM(デジタル著作権保護)主義が、JASRACに信頼がないことも手伝って、皮肉にもVHSを延命することになった。現在のダビング10でも、CMなど冗長部のカットといったアナログ時代には普通にできた編集ができないことから、かえってヘビーユーザーほどVHSを手元に置く結果になった。
また、デジタルレコーダーでもいわゆる“録りだめ”をする場合、結局映像画質を落として録画しているケースがほとんどであり、“HD画質で記録”という宣伝コピーは活かされていないのが実情である。特にテレビが小型の場合ほど質的メリットの恩恵は狭くなる。
ビデオテープは作品ごとの録画をする場合、テープチェンジという手間が発生するが、いわゆる“流しっぱなし”をする場合、かえってどのテープにどのシリーズが録画されているかラベリングさえしていれば数十秒でテープチェンジが可能であり、光ディスクメディアへの移動編集や、ディスク交換時におけるTOCリード待機といった手間・待合が発生しない。
欠点は再生後に巻き戻しが必要な点だが、隆盛期以降のほとんどの機種がT-120テープを数十秒で巻き戻す「高速リワインド」機能を備えている。
立ち上げ時間の短さもデジタルレコーダーに対するメリットである。電源投入後の待ち時間はほぼ0。テープロード時で数秒である。普及期のデジタルレコーダーが数分から数十秒、現在も十数秒の立ち上げ時間を要するのに比べると、極端に短い。
たとえばテレビをつけっぱなしにしていて、たまたま「あっ、これを録りたい!」と思ったとき、VHSなら手元に生テープ(あるいは上書きしてもいいテープ)があれば、電源投入→テープ挿入→録画開始まで(操作方法を熟知していれば)10秒未満である。現在はデジタルレコーダーでもそれを可能にしているが、それが「直前」であれば可能だが、番組枠の開始時刻を過ぎてしまうと、アナログビデオテープのようにはいかない。
日本国内仕様でデジタルチューナーを内蔵しているVHSビデオデッキはほとんどない。というのも、上記DRM対策としてVHSによるマスタリングをされることを放送業界側が嫌がったためである。
VHSからデジタルレコーダーへの過渡期にはVHSデッキ内蔵型デジタルレコーダーが存在したが、その殆どはVHSではデジタル放送を録画できないようになっていた。
例外はPIONEERのDVR-RT900D/DVR-RT700Dで、ほとんど唯一、単体でVHSでのデジタル放送録画が可能だった。予約も可能である。現在は生産終了、同社は家庭用映像機器から撤退している。
なお、テレビの映像出力や単体チューナーを接続しておけば運用可能である。
そんなわけで、メイン画像とは裏腹にしぶとく生き残っている。
国内メーカーはVHSデッキの製造をすでに中止しているが、海外製およびそのOEM品であれば新品で手に入る。ただし日本のテレビ放送事業者および家電メーカー間での取り決めにより、日本国内用のデジタルチューナーを搭載したVHSデッキの製造・販売は事実上できない。
生テープにいたってはいまだにコンビニエンスストアや100円ショップでも扱っている。ただ、主流のT-120とT-140以外の長さはなかなか見かけられなくなった。しかし通販では業務用テープ(いわゆる「茶ブタ」テープ)を扱っていたりするので、Webの普及でかえって一般人が入手しやすくなった。