概要
鋼の錬金術師の世界において、錬金術の最高峰と呼ばれる伝説上の物質。「哲学者の石」「天上の石」「赤きティンクトゥラ」「大エリクシル」「第五実体」など様々な呼び方がある。
その外見は一般的には赤い石として認知されているが、その様々な呼び名と同じく形状は石や個体とは限らず、流体状や半固体状など様々な形態がある。
凄まじい規模のエネルギーの集合体であり、爪の先程の微量でも絶大な効果を発揮し、永久的に決して壊れる事はない「完全物質」であるとされている。それ故にこれを手にした者は、錬金術の基礎である「等価交換の原則」をも打ち破る事ができると市井では噂されている。
エルリック兄弟は、人体錬成の代価として「真理」に持っていかれた肉体を取り戻す為の手段として、この石に関する情報を求めて国家錬金術師に就任する道を選んだ。
正体(漫画版/FA)
その正体は、人間の魂を錬金術によって抜き出し、凝集加工させた「実体化したエネルギー」。
人間の魂はそれ自体が膨大極まるエネルギーである為に、それを無数に寄せ集めて結びつける事で賢者の石を錬成する事ができる。等価交換の原則を破れるという噂は厳密には正しくなく、錬金術師が錬成の際に支払う代価を賢者の石内部の魂で支払っているというのが正確な実情である。
そもそも賢者の石を錬成する為に、複数人の人間の魂という代価を支払わなければいけないという時点で、等価交換の原則を超越する事などできてはいないと言える。
おぞましい事に錬成された魂は意識を残しており、肉体を失った苦しみに永遠に苛まれ続ける地獄を味わう事になる。救われる事のない魂達はやがて全てに対する怨嗟に取りつかれ、自我を失って言葉にならない叫びを上げるだけのナニカになり果ててしまう(通称魂の暴風雨)。
ちなみに残された肉体と精神は崩壊して、ただの搾りカス同然になってしまう。
そしてお父様が、自らの賢者の石とその核になる自分自身の感情や魂を切り分けて、それに賢者の石を核にして作った肉体を与える事で生み出した存在がホムンクルス達であり、さらにお父様から切り分けられた魂と賢者の石を、人間に注入する事で誕生した人間ベースのホムンクルスが、作中のグリリン(2代目グリード)とキング・ブラッドレイ(ラース)である。
ただし、この人間ベースのホムンクルスの場合、肉体を求める魂達によって肉体の主導権の奪い合いとなる「内在闘争」を行う事となり、自らの存在をこの「暴風雨」に打ち据えられ削り取られていく為に、最終的には先に肉体が崩壊して賢者の石が定着せずに失敗する例も多い。
これによって誕生したグリリンとブラッドレイの実情も異なり、前者は肉体の持ち主であるリン・ヤオが、グリード自身の魂も含めた賢者の石内部の魂を全て受け入れた為に、全ての魂がリンの肉体の中で共存している状態であるので再生能力がある。逆に後者は魂の内在闘争の結果、魂が一つだけ生存した事で、ホムンクルスとして完成した為に再生能力がなく、またこの一つだけ残った現在の「キング・ブラッドレイ」の人格を司る魂が、どこから来た誰の物なのかは最早分からなくなっている(人間時代の記憶は一応あるが、自分がその記憶と肉体の持ち主の魂なのか、あるいはそれを引き継いだ賢者の石の中の誰かの魂なのか、彼自身にも分からないとの事)。
その一方で、肉体を賢者の石をベースにしたものに作り換えられて再錬成される事で、事実上の不老不死と化したヴァン・ホーエンハイムは、不老不死故の長い時間を利用して、自身に融合した賢者の石内部の魂達一人一人と対話を続ける事で、最終的には「いつか『お父様』を倒す」という大目的の為に一致団結する事に成功しているなど、魂が自我を取り戻す事も一応は可能らしい。
これらの事実を知ったエルリック兄弟は、肉体を取り戻す為に賢者の石は使わないと決意を新たにし、エドは入手する機会があっても戦いに使う事は最後までなかった。アルの方はハインケルから渡された際に、それらの決意を了承した上で「お前らの為じゃなく、世界を守る為に使えばいい」「一緒に戦わせてやってくれ」と頼まれた事で、一度だけ使用に踏み切っている。
それ以外の面々は、主に賢者の石そのものの力ではなく、それが「万能の代価」として使える利便性に着目しており、リンはランファンが回収していた流体状のものを、自身がいずれ皇帝になる為の手段としてシン国に持ち帰り、マスタングは「真理」から視力を取り戻す為の代価として、マルコーから譲渡された賢者の石を利用して、視力を取り戻す事に成功している。
賢者の石の実態
賢者の石は前述通り、錬金術師に無限の錬成力を与える完全物質であるとされている。
しかし実際は、賢者の石の魂のエネルギーを対価として使って無尽蔵に等しい錬成力を得られるというだけで、エネルギーそのものは有限であり、等価交換の原則を無視できる訳でもない。
ホーエンハイムにしてもお父様にしても、あくまで数十万人のクセルクセス人を対価にした賢者の石のエネルギーで、法則を無視した錬成や永遠に近い命を得ているだけであり、錬金術を使ったり致命傷を負わされる事で、少しずつではあるが魂のエネルギーは代価として支払われて消耗していき、完全に尽きれば自身の魂も尽きてしまう。即ち本当の意味での完全なる不老不死ではない。
これは賢者の石そのものも同様であり、作中ではいつエネルギーが尽きるか分からない不完全な純度の低い偽物の賢者の石と、ホムンクルス達が本物とする純度の高い賢者の石が登場したが、使用可能期間は両者では圧倒的に違うものの(前者は数年などの短期間で後者は半永久的)、いずれにせよ内部の魂のエネルギーが尽きてしまえば石は崩壊・消滅する事には変わりはない。
結論を言えば「完全に等価交換の原則を無視できる決して壊れない完全物質の賢者の石」は、あくまでも伝説上の物質に過ぎず、ハガレン世界には最初から実在しない。
旧アニメ版
原作の賢者の石の設定と殆ど変わらないが、材料が大きく異なっており、原作では賢者の石の材料は人間の魂のみだったが、本作の賢者の石は人間の肉体も材料としている。
賢者の石の錬成が行われると、その錬成陣の効果範囲にいた人間は肉体ごと分解されて材料として消費され、それに半端に巻き込まれてしまった者は肉体の一部を持っていかれる。
終盤に、キンブリーによって爆発物に錬成されたアルを救うべく、傷の男がアルを生きた賢者の石に錬成した。これによってアルは血印という弱点を克服し、水中でも活動できるようになるが、錬金術師が触れると錬成反応が起きるなどの不都合も発生するようになり、さらに錬成の代価として消費されるとエネルギーだけでなく鎧も物理的に削れるなど、原作のホーエンハイムやお父様ともかなり違う。
ちなみに、一応はFAの派生作品扱いである劇場版・嘆きの丘の聖なる星で登場したアイテムの「鮮血の星」は、作中では原作及びFAの賢者の石と同一の物として扱われているが、実際は魂だけでなく人間の血肉(特に血液)を材料として錬成されるなど、むしろ旧アニメの賢者の石に近い事実上のオリジナルアイテムになっており、原作及びFAの賢者の石とはよく似た別物である。