わたしこの地を治める修羅あるよ
「ないアルの修羅」とは『北斗の拳』第172話「はるかなる呼び声!の巻」に登場した修羅。
正式名称が不明のため「アルナイ修羅」「ハンの居城付近を統治する修羅」などと呼ばれる。
「この地を治める修羅」と言っているので「強者しか生き残れない」修羅の国でそれなりに戦闘を経てその地位を得ているはずだが、容姿はとても砂蜘蛛よりも格上とは思えない、ただの太ったアジア人のおっさん風である。
能力・容姿ともに戦闘に向いているとすら言えず、戦いこそが全ての修羅の国で好戦的な戦士達が多い中、ケンシロウに対して臨戦態勢すら行わず『対話』するという色んな意味で異色の修羅。
登場一コマ目でいきなりケンシロウに車を破壊され「きさま何するアルか わたしこの地を治める修羅あるよ」と言った途端、ケンシロウに喉元をつかまれ「羅将ハンの居城はどこだ!?」と聞かれる。
「知らないアルよ!!」と返した直後、壁や地面にたたきつけられ「あるのかないのかどっちなんだ」と言いがかり同然の因縁を付けられる。
「アイヤ~ないあるあるないあるないあないあるない~ひょんげ~!!」と叫びながら走って逃げたが、既に秘孔を突かれていたらしく「ぶ」の断末魔の叫びとともに爆死した。
その直後、ケンシロウがちょっと脇を向いてみるとすぐそこに羅将ハンの居城を発見。
別に他人に聞かなくても数秒後に自力発見できていたわけで、彼の死は完全に無駄死にだった。
この時点でのケンシロウは修羅に狙われ敵対関係にあったとはいえ「ないアルの修羅」自身はケンシロウとの面識がなく、作中で罪もない人々を苦しめていたような描写もなかった(作外で行っていた可能性はある)ため、通りがかっただけの所をケンシロウに捕まり、一方的で意味のない虐待を繰り返し受けて爆死したようにしか見えなかった。
これ以前のやり取りはケンシロウを信じてハンの居城へ向かうリンにシャチが疑念を抱くという、とてもシリアスな展開である。
シャチが「リンが抱くケンシロウへの信頼が愛なのでは?」と疑った次のシーンで、ないアルの修羅は車を破壊されてケンシロウに捕まったのである。
ないあるあるない~
彼の話す「~アル」口調は、戦前の日本が大陸で普及させた「協和語」と言われる日本語の変形口調で、漫画などでお約束的に中国人の記号として使われるものの、現実世界では既に死語となっている。
修羅の国が現実世界のどこに相当するのかは作中で語られておらず、好意的に解釈するなら現地訛りを読者に解りやすいように表記したと思われるが、その言葉尻をとらえて虐待の限りを尽くし殺害したケンシロウの酷さは、今日に至るまでネタ的に語り継がれている。
蒼天の拳のブタオさん
「ないアルの修羅」の容姿は後年に描かれた前日譚「蒼天の拳」第一話において登場する溥儀の禁衛隊員・通称ブタオさんと酷似している。
北斗神拳との相性の悪さは「ないアルの修羅」同様で、最初に秘孔を突かれ爆死する役回りである。
「~アル」口調の「協和語」を広めた張本人に仕え、実際に使われていた時代の人物であるにも関わらず、ブタオさんがアル口調を使用するシーンはなかった。
現実に近すぎる題材をネタにするのは流石に避けたのかもしれない。
声優・TV版の展開
TVアニメ版では、CV:島香裕氏となっている。
容姿を悪役的な強面かつ筋肉質なものへと大幅に改められ、自分からケンシロウに攻撃してくる展開とされている。
若干は粘るが、秘孔を突かれ自分から羅将ハンの居城を暴露する形へと改められたうえで爆死。
表現規制の緩い1980年代後半でも、敵対意思がなく悪事も描かれていない相手を虐待をするのはまずかったのだろう。
真・北斗無双での展開
上述の通り、TVアニメ版ではある程度の改変がなされたないアルの修羅だが、真・北斗無双では原作通りのアル口調のないアルの修羅が拝められる。
ムービーでは無くプレイ中である事と、グラフィックが雑魚の修羅の流用ではあるが、ケンシロウとのやり取りは忠実に再現されて、最後にハンの居城を見つけたケンシロウの「あれか……」までもカメラワークに拘りがある。
こちらではモブの修羅と交えてケンシロウに襲いかかってくるので、ある程度の悪人感と倒される必要性が施されている。