『トリシア先生シリーズ』の主人公。
作品の舞台地アムリオン王国の城壁首都「アムリオン」の雑多街地・南街区にある宿屋「三本足のアライグマ亭」の裏庭小屋でトリシアの診療所を開いている(※)女性魔法医師。
あらゆる動物(意思ある存在)と心を通わせ会話する能力を持っている。
本名はパトリシアであり「トリシア」は愛称だが、彼女の「本来の愛称」はパット。
しかしトリシア自身は本名を使われる事や「パット」と呼ばれる事を好んでいない。これは彼女の愛称が幸せだった過去と凄惨だった記憶を綯交ぜにしたものであるため。
(※)「トリシア修行中シリーズ」「トリシアはひみつの魔女」の2シリーズでは見習い医師であり独立していない。
性格
基本的に突貫(吶喊)気質のお節介。ゆえに巻き込まれ体質でもある。医者なのに。
後述する生い立ちから難しい事を考えるのが苦手であり人格的にはガサツの部類に入る。ゆえにやらかしも多いドジっ娘属性も持っている。医者なのに。
(まぁ、この辺は師匠のソリスも似たようなものだが)
結構、短気でキレやすく、ブチ切れたら即座に制御もできないバラク・ティール(爆発魔法)をぶちかまして怪我人を増やす。医者なのに。
ぶっちゃけるとドラまたと正義マニアと万年金欠金貸し魔術士と危険毛玉生物(ドラゴン)を連れた物好きおてんばお嬢様を足して4で割って医師としての使命感を足したような性格を持つ存在。
……同時期の富士見ファンタジア文庫作品の主人公かつヒロインだもの是非もないよネ!
その一方で抱えた問題は決して投げ出さず、困った人は捨て置けず、何よりも医師としての信念だけは一級品で面倒見が良い。
特に敵対した相手に対しては自らを惜しまず体当たりでぶつかっていく。その様は相手を動揺させ時に心配にすらさせ最終的には敵意を失ってしまう。言ってみれば敵と仲良くなる天才であり、いわゆる一級フラグ建築士とも言える。
経歴
幼少期
トリシアたちが生まれてすぐの頃、アムリオンでは重商主義を支持して私腹を肥やす貴族たちと、それを阻止する王家との対立と内乱が巻き起こり、国民は全員それに巻き込まれる事になった。
重商派貴族は王を拉致監禁した上で傀儡として絶大な権力を手に入れ好き勝手にのさばるようになる。もちろん心ある者たちはこれに抵抗したが、そうした者たちは反逆罪によって逮捕され「再教育」の名目で強制労働へと連れて行かれた。その中にはトリシアのお隣さんであった吟遊詩人イアンの一家がおり、トリシアはそのイアンの息子であるレンと仲が良かったが、イアンが逮捕された事でレンは連座の憂き目に遭い、家族丸々強制労働施設へと送られ、トリシアは悲しい別れを経験する事となった。
ところが悪い事は立て続けに起こる。
この時期にトリシアの妹・ユノが重商派貴族の馬車に轢かれ命を落としたのだ。
貴族側は端金の慰謝料で示談に持ち込もうとするが、トリシアの両親は法の下での裁きを強硬に求めた。すると当の貴族は「法に定められた無礼討ち」だと称してトリシアの両親を惨殺。さらにトリシアの家の家財を「無礼の賠償」と称して、ただひとり残されたトリシアから取り上げてしまう。
そしてトリシア自身は家族を殺した貴族の手の者たちにより、着の身着の儘(というか下着姿)でスラムへと打ち捨てられた。そこからトリシアの地獄という言葉すら生ぬるい畜生ですらもマシであろう少女時代が幕を開けた。(貴族側としては、あえて生かして生き地獄を見せる事で周囲への見せしめにする意図があった)
数年を経て地方へと落ち延びていたアムリオン王家第一王女アムレディアが、仲間である大魔導士ステインアドラーのアンリ、アールヴのフェリノール、最強の女傭兵アライグマのセルマと共に王都へと凱旋し父王を奪還して王権を取り戻した時、スラムの最下層では幼き牝の人間種が一匹、泥を啜り残飯を漁り言葉も心も忘れ去って獣の世界で生きていた。(もっとも後にユニコーンが懐いていた事からも解る通り、さすがに大事なものだけは失わずに済んだが)
アムレディア王女は王権を取り戻した父王をサポートし、急速にかつての平和を取り戻そうとあがく。その頃アンリは重商貴族たちが搾取していた鉱山で、強制労働を強いられていた一人の少年を助けた。名をレナード、その愛称をレンといった。レンの家族は強制労働の中、流行り病で死んでしまい、残されたのはレンひとり。レンは自らを助けてくれたアンリに請うた。「別れも言えずに会えなくなってしまった、幼馴染の女の子にもう一度会いたい」と。しかし、レンの願いに付き合ったアンリが直面したのは一人の少女を言葉も解らぬ獣へと変えた悪夢の光景であった。しかし、レンはそんな悪夢の中に坐する獣を抱きしめて涙ながらに獣へと拙い言葉で呼びかけ詫び続けた。レンの涙は止まる事は無く、彼が上げた天を突くかの慟哭の中で呼び続ける名は、かつて獣が失くしていた「名前(ことば)」だった。そしてレンの懸命な呼びかけにより、獣はついに自らが人間の少女である事の存在意義とともに「パトリシア」の名を取り戻した。
(注:以上は原典である「富士見トリシアシリーズ」での事で、学研版ではもう少しマイルドに表現されている。ただし基本の骨子は変わっていない)
レナードとパトリシアの存在は、アンリ(とアムレディア)にアムリオンの子ども教育の立て直しを強く痛感させる事となった。(実はトリシアはこの時にアムレディアに初めて会っている。ただしトリシア自身は覚えてない)
アンリはアムリオンに遺された魔法遺産(研究所)のひとつ「時の魔法院」を立て直し教育機関へと再構築する事を考える。
時の魔法院の塔の上でアンリはレナードとパトリシアに「今日からここが、きみたちの家であり学校で、ぼくはきみたちの先生になる」と説く。その場でパトリシアは、この塔からの光景に「きれいな星が見える場所」だと感動を漏らした。
これがアムリオンで最初に復興された学校である「星見の塔」の始まりの瞬間であった。
星見の塔
アンリの弟子として魔法使いを目指すが、基本的に適性が無い事が判明。じきに後輩たちからも追い抜かれ、塔でも指折りの劣等生として過ごす。
自分に遅れて星見の塔へと入ってきたキャット(キャスリーン第二王女)とは当初はキャットの王族であることを鼻にかけたような態度から衝突してしまったが、のちに彼女の過去を知って確かな友情を交わし、唯一無二の親友となった。(トリシアいわく「キャットの残念姫ぶりに慣れた」とか)
治癒魔法だけには異様に才覚があった事が解り、また動物と心を通わせ会話ができる特技がある事も手伝って、医者を目指す事となる。
アンリの紹介で、アムリオン一の女医と言われるソリスの弟子となり、のちソリスが個人的な事情でアムリオンから旅立つことを機に独立した。
トリシアの診療所
ソリスから独立した後はセルマの経営する宿屋「三本足のアライグマ亭」の裏庭小屋を借り受けて「トリシアの診療所」を開設。人畜共通の医師として活躍するに至る。
自身の過去から貧乏人を優先して診る医者となったため経営はいつもカツカツ。しかし、友人のキャットやレン、家主のセルマ、また時折手を焼かす珍しもの好きの貴族であるヴェルナー卿のような得難い理解者もいるため、なんとかやれている次第。(学研版では悪ガキ三人組や白天馬騎士団なども加わり理解者がより増えている)
関連タグ
野生児(生い立ち)
※以下(一応)ネタバレ |
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トリシアはなぜ動物と話せるの?(ネタバレ)
おそらく学研版しか読んでない読者にとって最大の疑問。
実際にQ&A企画などで複数回取り上げられだが、その時には「トリシアの才能」の一言で片付けられている。
ただし、これは富士見版においては明確に回答が出されている。
トリシアが動物と話せるのは、彼女が癒しの巫女と呼ばれる神の使い(使徒)であるため。ぶっちゃければ「神様から役割を与えられて人間に転生した天使」。ゆえに役目を終えた暁には即座に天界へと戻らねばならない可能性が示唆されている。
治癒を始めとする医療系魔法への異常なまでの適性、それと反比例するかのような攻撃などの戦闘系魔法(この世界の主流の魔法)に対する不適性、そして動物と話せて意思の疏通ができる力、これらは全て神より「癒しの巫女」として与えられたチート能力である。
その使命は名が示す通り「命を癒す」こと。作内では神に追放された種族が住むがゆえ「牢獄の地」と呼ばれる仙境に「終わりと癒しをもたらす」事が本来の使命とされる。
時にトリシアは奥手と言うにもほどがあるほど、恋愛的な好意に鈍感だったり忌避したりする描写が不自然なほど目立っているが、これは「巫女」としての「本能」により「純潔を守らなければならない」(そして純潔を保ったまま天に帰らねばならない)ため。
つまりトリシアが、この逆らえぬ運命に殉じた時にはレンとの悲恋が確定する。