南房秀久の著述によるライトノベル&児童文学。挿絵イラストは小笠原智史が担当。
ちなみに作者の南房だが現在のpixiv的に言えば『ストライクウィッチーズ』ラノベ版や『スレイヤーズ』角川つばさ文庫版で知られる人物である。
概要
2000年に富士見ファンタジア文庫から出された『トリシア先生シリーズ』を初出とし、2002年に学研の「科学と学習(6年の学習。翌年から5年の学習)」で連載された『トリシアシリーズ』を、その前日談と定義してスタートしたシリーズ。
同シリーズを複数の出版社で同時展開していた事から、近年のメディアミックスで見られる、出版社の枠を超えた企画作の実質的な、はしりとされる作品とも言われる。
のち2005年に富士見ファンタジア文庫版がクライマックス直前(4巻)で発刊停止(のちに絶版)となり、以降は学研版のみで展開される事となった。学研版のみでも20年以上、富士見版を含めると22年以上の長きに渡って執筆されている長寿シリーズであり、紛れもなく南房秀久児童文学ライトノベル最大の代表作といえる作品である。
学研版の「児童書としての」展開により、富士見版からどんどん設定が乖離してしまったため、学研版は「富士見版を原作」とする実質上におけるパラレルワールドの物語となっている。そのため、学研版におけるいくつかの物語は富士見版をリライトしたものが採用されている。(リライトなので完全に一致はしていない)
著者の他作品(『月触記列伝』『黄金の鹿の闘騎士』など)と世界観を共有している。
学研版は2018年に物語を締めくくり、展開を終了。
翌2019年よりベネッセの進研ゼミ小学講座専用電子図書館である「まなびライブラリー」にて、学研版既刊の一部掲載と新規書き下ろし「トリシアはひみつの魔女」の発表が行われている。ただし、これは進研ゼミの会員でなければ読むことは出来ず、また進研ゼミ会員であっても小学講座の現役受講者でなければ読むことは出来ない(つまり卒業したら読めなくなる)と、されていた。
2022年7月29日、学研トリシアシリーズ20周年記念企画(※)として「トリシアはひみつの魔女」シリーズの電書版が2巻分、一般開放されたため「ひみつの魔女」の初期巻も複数の電書サイトで読むことが可能となっている。
(※)現在のトリシアシリーズのメモリアルカウントは『科学と学習』での連載に起点を置いており「富士見ファンタジア文庫版」(原作トリシア先生シリーズ)は、もはや公式から黒歴史扱いされている(作者の南房氏ですら、それを容認しているような言動を取っている)。ただし、ファンはファンとして「学研の態度はシリーズを育てた者として仕方ないにしても、それでも富士見版あっての学研版でしょう」という態度を取る(富士見トリシアシリーズにも一定の敬意を払っている)人も多いので注意。ちなみに学研トリシアシリーズ20周年の2022年は、富士見版から数えたトリシア先生シリーズ自体にとっても「22周年」のメモリアルイヤーである。(親記事をファンタジア文庫にしているのも、そのため)
シリーズ一覧
トリシア先生シリーズ
シリーズの初出にして原作。『トリシア先生、急患です!』を初作として富士見ファンタジア文庫から出されたシリーズ。現在では「富士見トリシアシリーズ」とも呼ばれる。
同じくファンタジア文庫から出された『月蝕紀列伝』や『黄金の鹿の闘騎士』の直接続編であるため、ハートフルに見せかけて実はよくよく読み込むとハートフルボッコ(実質R-15)なストーリーを展開していた。後発のシリーズに比べると敵対する相手が壮絶にえげつない存在であり、児童労働や公害問題に切り込んだり、貧富の差や各種差別(特に身分差別と人種差別)をあからさまに描いたり、国家運営論(国の運営と戦争との関係)に言及したりと、後発シリーズのファンが読んだらひっくり返ってギャン泣きしかねないレベルで設定がとても凄惨。ただし(南房児童文学しか読んでない人には意外かもしれないが)南房先生の文章の本来の持ち味は「こちら側」である。
ちなみに絶版こそはしたがKADOKAWAによって電子書籍化はされているので読む事は可能である。
トリシアシリーズ
学研トリシアシリーズの初作。学研の新書版児童文学レーベルである「エンタティーン倶楽部」から出されたシリーズ。
当初は富士見版トリシアシリーズの前日譚(『スレイヤーズ』における「すぺしゃる」みたいな立ち位置)だった。
しかし学研から「あくまでも子ども向けの児童文学である」事を念押しされた上で、ハートフルに注力するよう、お達しを受けた事で富士見版で出していた凄惨な裏設定が使えなくなったあげく設定が乖離しパラレル化をおこす。
のち富士見版の展開が停滞した事で、富士見版で出していた物語を、こちらに(凄惨な設定を抜いて)リライトしたため、設定リセットによるパラレル化が確定した。
そのためシリーズ5作目『トリシア先生、急患です!(リライト版)』から後の作品は新トリシア先生シリーズとも呼ばれる。
トリシアは魔法のお医者さん
トリシアシリーズから地続きになるシリーズ。学研の児童文学ジャンルの営業方針の転換(エンタティーン倶楽部レーベルの廃止)によってリニューアルされたシリーズで、より低年齢向けになった。
魔法医トリシアの冒険カルテ
トリシアは魔法のお医者さんから地続きになるシリーズ。学研の出版事業の再編(学研教育出版→学研プラス)にともなうシリーズリニューアル。紙書籍として出された最後のシリーズ作である。
「冒険」をテーマとし、それまでのシリーズよりも幅広い舞台で活躍する事を主眼とした。
最終巻においてタイムスリップの冒険をテーマとしたためどっかの第6部みたいにシリーズで前提とされていた設定がタイムパラドックスでフルリセットされてしまった。(シリーズ管轄移籍のためのリセットでもある)
トリシアはひみつの魔女
設定リセット後の世界のお話。立ち位置としてはどっかの第8部に近い。
進研ゼミ(ベネッセコーポレーション)の会員向け電子書籍配信サイト「まなびライブラリー」で初出配信されている電子書籍専門のシリーズ。ベネッセトリシアとも呼ばれる。(ただし編集と発行は引き続き学研プラスが担当しており、ベネッセは他の電書サービスと同様「フォーマットの提供社」に過ぎない)
設定のリセットによって、それまで(曲がりなりにも)医者であったトリシアが医者ではなくなった(トリシアシリーズの最初の状態である医者志望の見習い魔法使いに戻った)シリーズ。(それまでのシリーズではトリシアが医者であった事は一応シリーズのアイデンティティでもあったので、それを棄てた形になっている)
備考:設定のリセット
このシリーズは、都合2回設定リセットが行われている。
最初のリセットは2008年。これは富士見版トリシアの展開が停止され、改めて学研で富士見版で出していた物語を出し直すにおいて行われたリライトによるリセットである。
2回目のリセットは2018年の学研書籍版(冒険カルテ)の完結時。物語のオチとしてタイムパラドックスを起こし、それまで前提とされていた設定を全てリセットした上で、表面上だけ同じに見える世界に再構築させている。
そのため、このシリーズは現状3つの世界線が混在している。詳細は以下の通り。
世界線1 | 富士見トリシアの世界線 | 原作 |
---|---|---|
世界線2 | 学研トリシアの世界線 | 富士見版の過去ストーリー→リライトによる分岐を起こし、ハートフルストーリーへと転換された |
世界線3 | ベネッセトリシアの世界線 | 学研版のタイムパラドックスによる分岐で「ひみつの魔女」以降の世界線 |
キャラクター
※本シリーズのキャラクターは本名と愛称を併せ持つ。普段、他のキャラから呼ばれ地文で記されるのは愛称の方である。本節においては併記するが表記法は愛称(本名)とする
トリシアと仲間たち
本作の主人公。医師(魔法医)を生業としている。人間だけでなく、それが「心あるもの」であれば動物や怪物の声を理解することができる。本来の愛称はパットであるが、本人はそれを呼ばれることを嫌い自らトリシアを名乗っている。
レン(レナード)
トリシアの幼馴染であり学生時代の同輩。トリシアが好きだが、イマイチ素直になり切れない。正規の魔法使いとなるため学校に残り助手として修業中の身。実は隣国ヴィントールにある大豪商(学研版では貴族)「ハイト家」のご落胤。
「富士見版」ではアンリから「卒業」してハイト家に戻り隣国ヴィントールの商人となったが「学研版」ではハイト家の血筋が明らかになった後もアムリオンに留まり魔法騎士になっている。
キャット(キャスリーン)
トリシア、レンの学生時代の同輩。彼らの属する国家、アムリオンの第2王女。トリシアにとっては同性の親友といえる人物。とんでもない騒動屋でトラブルメーカー。
トリシアたちの保護者たち
アンリ
トリシアたちの先生。かつてアムリオンを救った伝説の魔法使い。優れた剣士でもある。
「富士見版」では第4巻でアムリオンを戦火に巻き込まないため、敵国のヘッドハンティングにやむなく応じる羽目に陥り、トリシアを後継者として指名してアムリオンを離れた。(のちにトリシアと死力を尽くして争うラスボスあるいは裏ボスへと変貌する可能性がにおわされている)
アム(アムレディア)
キャットの姉。アムリオンの第1王女であり現在の王家正統後継者。麗しの姫君、と思いきやかなりの武闘派。アンリと共にアムリオンに安寧を取り戻したこともある。
「富士見版」においてはアンリとは実質上の恋人同士だったが、アンリによるアムリオンを守るための決断に「国を守る姫」として異を唱える事が出来ず、彼との関係は悲恋で終わってしまっている。アンリがアムリオンを離れたのちは、トリシアをアンリの後継者として顧問魔導師に任命した。
「学研版」以降の物語では、逆にアンリとの間柄は「親しくなりすぎ」ていて、空気的には熟年夫婦のソレ。甘い関係もドキドキも、あまりに今更過ぎて期待できない、ゆる~い間柄。
セルマ
トリシアが診療所に転用している小屋の大家さん。アムリオンの城下南街区にて主に冒険者向けの食堂兼宿屋である「三本足のアライグマ亭」を切り盛りしている女将。
かつては自身も優れた冒険者であり傭兵として活動していた事もあった。実はアムとアンリを中心としたパーティにおける中心メンバーだった事もあり、彼らと並ぶ「アムリオン救国の英雄」のひとりでもある。(店は、その活躍の褒美&御礼としてアムから貰ったもの)
店は(引退冒険者が第二の人生として持った余暇的な運営をしてるのもあいまって)必ずしも繁盛しているとは言いづらく、そのあたりが悩みのタネになる事もある。(もっともアムやアンリなど、かつての仲間が折に触れて来たり、あるいはトリシアの友人たちのたまり場になっていたりと全く無収入というわけでもない)
悪ガキ三人組
トリシアたちの後輩。豪商の娘。妖精の血を引いており、変身魔法が得意。
トリシアたちの後輩。貧民街の子でアンリに保護された寄宿生。呪歌が得意。電波系少女。
トリシアたちの後輩。造園や裁縫が得意な乙女少年。でも家は武門で名を馳せる騎士の家系。トリシアの薬草園を管理する、彼女の医療活動の隠れた貢献者。植物の育成魔法が得意。