概要
アメリカ合衆国のファンタジー・SF小説家C・L・ムーアが、1933年に『ウィアード・テイルズ』誌で発表した短編。
当初は『ワンダー・ストーリーズ』誌に持ち込んだが、掲載を拒否されたという曰く付きの作品である。
その後シリーズ化して、『コナンシリーズ』と二分する人気を博したダークヒーロー、ノースウェスト・スミスを主役とした作品群の一つ。
当時のアクション活劇が主流であったSF小説において、幻想的や耽美的と評される今作は異質でありながらSFファンに受け入れられた。
日本においては、1964年にこの作品に惚れ込んだ野田昌宏によって『SFマガジン』誌のコラムで部分訳が紹介され、書籍での全訳を望んでいた(直後に安岡由紀子が同人誌で全訳を発表)。
ところが1971年に仁賀克雄によってハヤカワ文庫のノースウェスト・スミス・シリーズ『大宇宙の魔女』として翻訳されてしまった。更によりにもよって野田が解説を頼まれたため、本人がものすごく落ち込んでしまったというエピソードが知られている。
ちなみに解説のタイトルは「わが〈シャンブロウ〉への挽歌」となっており、「畜生め! 何だって俺ァ、他人の訳した<シャンブロウ>の解説なんか書かなきゃならねェンだ! これじゃ蛇の生ま殺しじゃないか! 畜生! くやしい! くやしい!」という絶叫からも熱い思い入れがうかがえる。
そんな野田による完訳は、2007年に発売された『火星ノンストップ』の一篇として発表されている。
日本では、本作を含む短編集が長らく絶版となっていた。
2021年に創元SF文庫から中村融と市田泉が全訳した『大宇宙の魔女:ノースウェスト・スミス全短編』が刊行されたので、再び読むことができるようになった。
多少マイナーでマニアックではあるが、知る人ぞ知る存在として、その後の創作に登場するいくつかのキャラクターに影響を与えている。
あらすじ
宇宙をまたにかけるパイロットにして密輸業者のノースウェスト・スミスは、ある時火星のキャンプ・タウン、ラグダロールにおいて人々に追われていた少女を見つける。
赤褐色の肌に真紅の布をまとった少女はスミスの足元に蹲り、人々が彼女を指して「シャンブロウ」と叫ぶ言葉にスミスは覚えがなかった。
哀れな様子を前に見捨てる訳にもいかずに自分が保護すると宣言した途端、人々は侮蔑の表情を見せてあっさりと散って行く。その事に驚いたスミスだったが、よく見れば少女は人間ではなかった。
布と見えたのは彼女の皮膚で、顔に毛はなく、頭に巻いたターバンで髪を隠している。手足の指はそれぞれ四本で爪は猫のように尖り、明るい若草色の目もやはり猫のように絶えず動いていた。
食べ物を口にしない彼女を宿の部屋に匿う一方、「ビジネス」を進めるスミス。
だが彼女を匿った2日後、スミスは彼女の恐るべき正体を知る事となる……
創作での扱い
WEB版で同名の種族が登場したが、書籍版ではメデュサに変更されている。
- ブルーアルマナック
メガドライブで発売されたSFロールプレイングゲームで、最初の惑星でのイベントのモチーフとなっている。
劇場版の「星巡る方舟」にこの名の惑星が登場するが...
赤い大型水陸両用モビルアーマーの名がシャンブロであるが、アルファベットの綴りが異なり複数の意味からのネーミングであるらしい。
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ネタバレ
「やっと、わたしの言葉でお話できますのね。ああ、愛しいお方!」
ターバンの下に長虫めいた肉質の「髪」を封じており、それを解くと全身を覆う程に膨れ上がり自在に蠢く。
地球においてゴルゴンやメデューサといった伝説の原形となった生物であり、視線で対象を魅了して触手に包み込み、冒涜的な快楽と引換えに生命力を奪い、それを糧として生きる存在である。
胸騒ぎがして目覚めたスミスの前で本性を現し、魅了した彼を触手で弄ぶ。
恍惚のうちに衰弱してゆくスミスだったが、そこへ相棒の金星人ヤロールが駆けつける。かねてよりシャンブロウの存在を知っていたヤロールは魅了の眼差しから目を背けつつ、鏡に映る姿を頼りに光線銃でシャンブロウを射殺、からくもスミスは助かるのであった。