「ただ純粋に究極の少年漫画を目指したような…「透明な傑作」私の理想…」
概要
タイムパラドクスゴーストライターに登場する女性であり、メインヒロイン。高知県出身。主人公である佐々木哲平が連載している漫画「ホワイトナイト」の本来の作者であり、本当ならば10年後「ホワイトナイト」を描き始めていた漫画家。
人物
主人公を「同類」と評するが実力差は歴然の天才肌で「自分の漫画で全人類を楽しませたい」と言う思いから漫画家を志す。高知の田舎にある実家で不登校となっていたところ、自身が幼い頃から描いていたはずの「ホワイトナイト」が週刊少年ジャンプで連載されてしまい、事の真偽を確かめるために上京し主人公である佐々木哲平に接触する。
その後、卒業できないからと上京して主人公のアシスタントになる。
「伝えたいメッセージも描きたい物も無く、みんなを楽しませる作品を描きたい」という点では哲平と共通しているが、哲平と違って本物の天才であり、また動機も「自身を虐めた人間すら楽しめる漫画を描く事で、いじめより楽しい事があると気付かせる」という痛ましくも健気なしっかりとした夢を持っている。
異性なのに作業場共用だったり、本来の歴史で卒業(留年)したのかは謎。
藍野伊月が「ホワイトナイト」を投稿してから描き始めたのでは足がついてしまうのだが、本来手塚賞で発表した筈の作品で10年後に初連載をしている。不自然ではあるものの、主人公がこのことを言及していることから意図的な描写と思われる。
本編の描写を見る限り、漫画の作画能力は、未来の伊月>現在の哲平>現在の伊月だと思われる。
性格
作中では作者都合や主人公の正当化のために思考がコロコロと変わるため、一貫した性格を表記するのは難しいが、それを踏まえて一言で言い表すなら、『純粋、それ故に盲目的』な性格である。
ホワイトナイトの盗作を疑い、地方から飛び出してきたり、漫画家としての道を歩めば本編中に過労死するまで自分を追い込むなど色々顧みない行動力の持ち主。また、盗作したはずの哲平を最終的に慕ってしまうなど、どこか危うさが付き纏う。
まだ社会経験が未熟な若者であるとは言え、盲目の側面を抱えた行動力故に意に反するものを排除することに躊躇いと容赦がない。方向性は異なるが熱意の努力だけは恵まれ、肥大した自己肯定感を抱える哲平とどこか通じているとも言える。
全体的に見て本編の主人公よりもよほど職人気質で主人公的な性格をしている。
その為、作品序盤では、この子を主人公にするなり、もう一人の主人公として活躍させるなりした方が良いんじゃないかと言われる事は多く、読者の考察するルートの中でも、「彼女を如何に活躍させるか」と言うルートが複数考案されている。
作中での活躍
主人公である佐々木が偶然誕生したタイムマシンによって未来の少年ジャンプの連載作品である「ホワイトナイト」を盗作してしまい、その漫画を読んだ際に、自分が幼少期から構想を温めていた「ホワイトナイト」がほとんど同じ設定とタイトルで掲載され、挙句の果てに連載されたことで余りにもネタがかぶりすぎていたことで不信感を抱き主人公と接触する。
主人公から事の真相を聞き出すことにはなるものの、その内容が余りにも現実離れしていたことから信じず、主人公が自分と同じ価値観を持つ同類の人間であるからこそ、同様の作品を思いつくことができたと勘違いし、「ホワイトナイト」を佐々木に託すことに決めその場を立ち去る。
その後は高校を中退して上京し、佐々木のアシスタントとなり、漫画家としての修行を積みつつ「ホワイトナイト」とは別の作品で連載を獲得し独立する。その近辺に、主人公がイツキに勝たなければ死んでしまうという指令が送られ、実際に連載直後に読者アンケートで主人公に圧勝してオーバーワークで倒れてしまう。
幼少期に引退した漫画家と公園で出会った事で漫画家の道に進むことに決め、「作家の個性」という「クセ」を排した作品を作ろうとしている。十二話で明かされた事実として、実は彼女が漫画の投稿に踏み切ったのは、主人公である哲平が就職したのちに投稿した漫画がジャンプに読みきりされ、その漫画を読んだことであったことが明かされた。
彼女の評価
透明な傑作
アイノイツキが導き出した「夢」でありながら彼女の「死の原因」とも言える理想。
全人類を楽しませる究極の漫画とは「無個性」かつ「世界で一番面白い」と信じた彼女は自らの作家性を否定し続けながら、誰もが楽しめる漫画を描き続けた。その結果、30週連続一位という快挙を成し遂げるも彼女自身は過労死してしまう。
しかしこの「透明な傑作」は裏を返せば、作家の個性やジャンル分けの否定でしかないという意見もある。
考察
・一方で松井優征の引き算理論との関連性を見出す(作品に好意的な)考察勢も存在する。
・創作活動とは『作者のエゴ(モチベーション)』と『思いやり(受け手にわかりやすく伝える技術全般)』のバランスから成り立つものであり、創作者のスランプは『エゴ』の枯渇が原因になっている場合が多い。アイノイツキの『透明な傑作』の理念は、明らかに『思いやり』に比重を置きすぎて『エゴ』の側面を軽視している傾向がある。それを認めず『エゴ』の欠落を『思いやり』で補おうとし、無理な創作活動を続けたことが本作の悲劇に繋がったのだろう。
そもそもアイノイツキに限らず、エゴ(モチベーション)の枯渇で精神的にもう創作活動ができない状態であるにもかかわらず、自縄自縛で自らを追い詰めて、寿命を削ってしまう創作者は枚挙に暇がない。
・後述の過去から察するに、学生時代の孤独な境遇が彼女の創作活動に対するモチベーションに繋がっており、ホワイトナイトは現実逃避の結果として生まれた偶然の産物だったのかもしれない。モチベーションが環境に依存しているが故に、環境が変わればそれは劣化したり喪失してしまうことも十分あり得る。哲平とは違う意味で、「自分の実力ではないものを、自分の実力だと思い込んだ」と言ってもいいのかもしれない。
・ホワイトナイト(White knight)は経済用語で救済者を意味する。(日本語で似たような意味の言葉だと白馬の王子様辺り。)不幸な自分を救ってくれる救済者への渇望がホワイトナイトを作り出していたとするならば、仮に哲平が盗作行為を働かなくても、何らかの形でホワイトナイトが未完になっていた可能性は高い。
作中最大の被害者
彼女の経歴を箇条書きにすると以下のようになる。
・幼少期は親から一切の娯楽を禁じられ、さらにいじめを受けていた。
・未来からの盗作という法で裁く事はできない悪事によって、主人公である佐々木哲平に作品を奪われた。
・本来得られるはずであった富・名声・栄誉を奪われた挙句、哲平のアシスタントとなり、彼を「先生」と尊敬した末に、作品のアイディアまでも奪われかけるというとんでもない尊厳破壊を受けた。
・挙句に、『漫画家の夢を諦めて生きるか、死ぬか』と言う究極の二択を、よりにもよって自分の作品を盗作した佐々木哲平によって握られた。
以上により、事実上貞操以外の何もかもを主人公によって徹底的に奪われ、過酷で不遇な運命を強いられたことになる。
さらに終盤では、未来ロボットフューチャーくんの存在が明らかになったことで、別の時間軸では監禁までされ、様々な手法で人生を弄ばれていたことが発覚し、『「透明な傑作」を描いて死んだ方がまだマシな人生だった』ことから呆れ半分で再び同情されることになった。
作者は何か、彼女に恨みでもあるのだろうか。
関連タグ
悲劇のヒロイン:キャラ的な視点でもメタ的な視点でも、彼女には死か不幸しか存在しない。
メアリー・スー:ご都合主義的なキャラの代名詞。
司瑛士:作り手に個性は要らないと言う似た発想で作品を作り、明らかにズレた人間性と共通点が多いキャラクター。しかし、個性は要らないと言う考えが漫画理論(暴論)に近いイツキと違い、司は食材や素材の良さを最大限に活かすために山っ気を持ってはならないと説得力は段違い。