概要
エアフォースワン(えあふぉーすわん、英語:Air Force One)は、アメリカ合衆国大統領が搭乗した際に空軍機が使用するコールサイン。大統領が搭乗していない時・大統領の任期が飛行中に終了した時は、その機体が大統領専用機であっても、このコールサインは使用されない。
大統領が搭乗すれば、どのような機体でも「エアフォースワン」と呼ばれ、軍の輸送機でもコールサインはエアフォースワンとなる。副大統領が搭乗する場合はエアフォースツーとなる。
コールサインの誕生
1953年12月に大統領専用機(Air Force 8610)と同じコールサインを持っていたイースタン航空の商用飛行機(8610)が、同じ空域に入って混乱が生じた事件が発生した。この事件を契機に他と被らない専用のコールサインが検討され、1959年6月から大統領専用機を意味する「エアフォースワン」が使用されるようになった。それ以前までは、その時々のミッションナンバーで呼ばれていた為、他の航空機と似通ったナンバーになって混同される事があった。
コールサインの変更例
大統領が搭乗中に辞任、またはそれ以外の閣僚が大統領に昇格したことでコールサインが変更された例がアメリカ史上でも過去に2回だけ存在する。
- 1963年11月にダラスを遊説中だった当時の大統領ジョン・F・ケネディが暗殺されたさいに副大統領だったリンドン・ジョンソンが専用機内で宣誓を執行し、大統領に昇格した。アメリカ史上でも機内で宣誓を行った上にコールサインが「エアフォースワン」に変更される瞬間に立ち会った大統領は歴代でもリンドン・ジョンソンが唯一の例となっている。
- 反対に1984年8月に辞任したリチャード・ニクソンは、その瞬間を専用機に搭乗している時に迎えたため、飛行中であったが「エアフォースワン」から別のコールサインに変更されることとなった。搭乗中に辞任した上に別のコールサインに変更される瞬間に立ち会ったのは、歴代でもリチャード・ニクソンが唯一の例となっている。
その他のコールサイン
- 海軍機の場合は「ネイビーワン」・海兵隊機の場合は「マリーンワン」・陸軍機の場合は「アーミーワン」・沿岸警備隊機の場合は「コーストガードワン」・民間機の場合は「エグゼクティヴワン」となる。
- 沿岸警備隊の「コーストガードワン」のみ歴史上1度も使用された事が無いが、2009年9月に当時の副大統領であったジョー・バイデンが、洪水に見舞われたジョージア州アトランタを訪問したさいに搭乗し、「コーストガードツー」が使用された。
機体の用途
アメリカ合衆国はその国土が962万9091平方キロメートルと広大である為、大統領は外国訪問時みならず、国内の移動に際しても航空機を利用しなければならない事が多い。
そのため、大統領が遊説・視察・外遊目的での移動など長距離移動をする目的に使われることが多いが、常識の範囲内であれば自由に飛ばせる。例えば外国首脳との会談時に外国首脳を送迎する事も可能で、小泉純一郎・安倍晋三など日本の総理大臣が搭乗した事がある。ドナルド・トランプは2018年11月に執行される中間選挙に、激戦地を遊説する目的で多用している。この辺りが日本の政府専用機との違いである。
国外訪問時
国外訪問時には、空軍・シークレットサービスの人間が着陸先の空港を調査する。到着時の機体位置などを事前に決め、使用する燃料は指定の業者に発注され、補給前に抜き打ちチェックを行うなど厳しく管理される。日本訪問時には、羽田空港に着陸する事が多いが、中部国際空港・伊丹空港にも着陸したことがある。羽田の場合はVIP専用スポットに駐機し、タラップは全日本空輸より借りる。在日米軍の横田基地に向かい、そこで待機する場合もある。
現在の機体
1990年8月以来VC-25が運用されており、ボーイング747-200B型機をベースに改造された。機種名はボーイング747-2G4Bであり、1986年7月に購入契約が締結された。1987年5月に初飛行を果たしたが、核攻撃による電磁パルス等に耐えうる改造を施す追加改造が行われた影響で、納入されたのは1990年のことであった。それから現在までに6人の大統領が搭乗している。
2機存在し、それぞれの機体記号は82-8000と92-9000である。前者に大統領が搭乗する事が多く、後者は前者が整備中の際の予備機であり、副大統領や閣僚の搭乗機として使用されている。海外渡航時には2機一緒に飛んで来るが、これは万が一の墜落事故や機体トラブルに備えての事である。こうしたことから大統領と副大統領は同じ機体には搭乗しない。
機体の青白カラーは1962年10月にジョン・F・ケネディの発案によって決定された。それ以来4代(SAM26000・SAM26000・ボーイング747-200B・ボーイング747-8)に渡って踏襲されている
機体設備
VC-25への改造が始まった時に747-400型機の製造が開始されていたので、コックピットにある高度計などの一部計器にはグラスコックピットを装備している。また機長・副操縦士・航空機関士の他、航空士の為のブースがある。
大統領執務室、事務室、寝室、会議室、医務室、通信室、シークレットサービスの座席と事務室、一般客室(マスコミなどの同乗者用)、ビジネスセンター、キッチンなど飛行中でも国政や危機管理対応に支障がないように充実した設備を備えている。搭乗橋の無い小規模な空港・タラップが用意できない場合に備えて収納式タラップもある。
万が一の攻撃に対応した装備がいくつかあり、滞空時間を伸ばすための空中給油装置やミサイル接近警報装置・赤外線誘導ミサイルの誘導を妨害するIRジャマーなどが確認されている。
映画『エアフォース・ワン』では、緊急時に大統領を退避させる脱出ポッドが使用されるシーンがあるが、実際の機体には存在しないとされる。とはいえ、実在したとしても身辺警護に関わる機密と言える内容のため、現行機が引退するまで真意は不明である。
後継機について
現行機も老朽化が進んだことから、2015年1月に後継機の機種をボーイング747-8型機に決定し、トランプ政権時の2018年2月に2機をボーイング社から計39億ドルで購入する事で非公式に合意したと発表。
塗装に関しては、トランプ政権時に赤・青・白を配したデザインに変更するとされていたが、その後に発足したバイデン政権においてトランプ案を破棄したと報じられていることから、専用機の塗装は従来と同じ青・白カラーが踏襲される模様。
現在も改造作業が行われており、2024年12月までに新機体への移行が予定されている。しかし、2020年の新型コロナウイルス流行で工程に遅れが生じており、2026年に延期する可能性もある。