概要
「海底二万里(Vingt mille lieues sous les mers)」とはSF小説家ジュール・ヴェルヌの代表作である海洋冒険SF小説。タイトルの日本語訳には他にも「海底二万海里」、「海底二万リーグ」なども存在する(一般的に有名なのは「海底二万里」か「海底2万マイル」であると思われる)。
1870年に発表された作品だが、当時ようやく発達してきた潜水艦をメインにした作品であり、ヴェルヌ自身の予見的な潜水艦の姿が描かれている(当時の潜水艦は深海まで潜れる性能を有していないなど、まだ潜水艦の黎明期に当たるものしか無かった)。
内容としては主人公たちが謎のネモ船長と共に潜水艦ノーチラス号に乗って世界中の海洋を巡る冒険をするというもので細かい部分を省略したものは児童向け文学として非常に高い評価を得ている。
ちなみに原題である海底二万リュー(1リュー=4km)はkm換算で80000km。
(余談だが発表70年以上前の1795年にメートル法が制定され、1リュー=4.444kmから4kmになった)
近似値で語感も近いことから訳された2万里は約78545kmであり、(海里計算の)2万マイルは約37040kmと倍以上差がある。(地上マイル計算だと約32187km)
このように食い違いが発生したのは訳された当初海底6万マイルと訳され、それがマイル変換される前の2万と混同されたのが原因とされている。加えてディズニーが作った映画版の邦題が「海底二万哩(マイル)」になり、それを題材にした東京ディズニーシーのアトラクションも「海底2万マイル」なので混乱に拍車をかけている。
なので原作を指して2万マイル、映画を指して2万里と書かないように注意が必要。
英語圏ではリューの英語表記である「リーグ」を使い、「20,000 leagues」とされるのが普通(ディズニーの映画も原題はこちら)。英米のヤード・ポンド法では1リーグは3マイルなので、つまり海底6万マイルである。海里計算すると11万1120kmとなり、原題よりだいぶ長い。
さらにややこしいのがドイツ語圏。19世紀後半ごろまで、ドイツでは「Meile(マイレ)」という距離の単位が使われていた。原作のドイツ初版(タイトルは「Zwanzigtausend Meilen unter'm Meer」=「海底二万マイレ」)は1874年出版でこの単位がまだ現役だったと思われる。1マイレは時期と地域によって幅があるがだいたい7.5km前後で、つまり2万マイレは15万km、原題のほぼ倍になる。
現代ドイツ語では「Meile」はヤード・ポンド法のマイルのことなのだが、この作品に関しては「20,000 Meilen」の訳がそのまま定着しているようである。同じ訳題を使い続けていながらその意味するところは4分の1以下に縮んでしまっていることになる。
あらすじ
様々な船舶が巨大な角のようなもので喫水線下に大穴をあけられるという怪事件が続発する中、海洋学者アロナックス博士は事件の原因は、巨大なイッカクの仲間によるものではないかという仮説を唱え、忠実な助手のコンセーユ、銛打ちの名手ネッドと共に軍艦に乗り込み調査を行うが、軍艦が怪物に攻撃され3人は甲板から海に投げ出されてしまう。
目が覚めると3人は怪物の背中に乗っており、それは鋼鉄で出来た潜水艦である事を知る。中から乗員を伴って現れたネモと名乗る船長は3人を秘密を漏らさないように捕虜として艦内に収容し、もう帰さないと告げる。こうして3人は潜水艦ノーチラス号による世界の海洋巡りの旅へネモ船長と共に出ることになったのだった。
登場人物
アロナックス博士
本作の主人公であり、この作品は彼によって語られるという形式で進む。フランスの海洋生物学者で助手のコンセーユと共に研究や本の執筆をしていたが、船舶の怪事件をイッカクの一種とする仮説が世間で支持されたため、怪物退治の軍艦に招待されることになるが、怪物襲撃時に海に投げ出されコンセーユとネッドと共にネモ船長によって拿捕される。しかし、海洋生物学者であるため世界の海を巡るノーチラス号の旅は彼にとっても魅力的なものであり、本人の性格もあってネモ船長とも親しくなっていく。
コンセーユ
アロナックス博士に忠実すぎな助手であり、半ば執事の様な役割もする(ちなみにコンセーユはフランス語で「助手」を意味する)。
本人は怪物襲撃時に海へは投げ出されなかったものの、アロナックス博士が投げ出されたのを見て救助のために飛び込み、博士と共にノーチラス号に拿捕されることになる。海洋生物学者の助手ではあるが、分類学の知識は素晴らしいものの、魚の種類を判別する同定が出来なかったり、博士が驚くような希少な生物についても「なにそれ?おいしいの?」状態だったりする。
ネッド
酒と肉が好きなフランス系カナダ人の銛打ち。腕前は確かなものであり、殆ど狙いを外すことは無い上、知識や観察力にも優れている一面がある。一方で頑固で短気であるため、それが原因でトラブルを起こすこともあった。
怪物退治の為に軍艦に乗り込み、そこでアロナックス博士とコンセーユに出会い、打ち解けた。ネモ船長に拿捕されてからは博士とは違ってノーチラス号から脱出しようと何度も画策し、博士たちに発破をかけている。
潜水艦ノーチラス号の船長であるが、その多くが謎に包まれた人物。ネモというのもラテン語で「誰でもない」という意味であるため、作中では本名が登場しない人物でもある。
地上を嫌って捨てた世捨て人であり、海を愛している。それはノーチラス号内で賄われる食品、衣料品などは全て海中にあるものから作り出すという様に徹底している。(作中で地上世界に出たのはノーチラス号の空気確保と燃料補充、当時は前人未到だった南極点への探検位である)
ノーチラス号の事を知ってしまったアロナックス博士たちを拿捕し、艦内で捕虜として扱うが、実際には待遇良く海洋巡りの旅を共にさせる。
しかし、その裏で「ある国」に対して異常な程の恨みを持っておりその国の船を沈める為には容赦をしないといった冷酷な一面を持つ。
ヴェルヌが後年執筆した「神秘の島」にもノーチラス号共々登場しており、ここでようやく彼のの素性とその生い立ちが語られることとなった。