アクセス回線または構内回線として電話用に用いられるメタルケーブルを使い、高速なデータ通信を行う規格「Digital Subscriber Line」の略称である。
本稿では主にアクセス回線として用いられているADSLと、構内配線で用いられているVDSLについて記載をする。
ADSL
NTTの局舎内に設置した集合装置(DSLAM)と宅内の間を、電話回線で使われるメタルケーブルを用いて高速な通信を行うサービスとして、2000年前後から提供されている。
当時ISDNによるダイアルアップ接続でも最大128Kbps(64Kbps*2)だったものが、最初期は下り512Kbps、その後1.5Mbps~50Mbpsで接続可能となり、また料金もISDNよりも安価だったことから爆発的に普及した。
とはいえ提供条件は若干厳しく、
- 回線が収容されているNTT収容局でサービスが提供されていること
- 既設電話回線を利用する場合、NTT収容局から宅内までをメタルケーブルだけを経由していること(新興住宅地等では一部または全部が光ケーブルに収容されている場合があり(光収容)、この場合は提供できない)
- 既設電話回線がない場合または光収容による収容変更の場合、未使用のメタルケーブルがあること
- 既設電話回線がアナログであること。ISDNの場合アナログへの変更が必要で、初期には電話番号の変更を伴う場合があった(その後電話番号を変えずに変更可能になる)
- NTT収容局からの距離が短く、メタルケーブルによる損失が小さいこと(一般的には距離が2km以上または損失が30db以上だと遅くなり、場合によっては接続できないか不安定になる)
などなど、実際には「開通してみたらISDNに毛が生えた程度の低速」だったり「そもそもリンクアップしないか不安定」だったりすることもあった。さらに電話回線に接続されている保安器の一部で「電話がかかってくるとリンクが切れる」こともあった。(初版作成者はこの解消のために交換を依頼している)
また申込から開通まで順調に行っても約2週間程度かかり、
- NTT加入電話の回線名義人相違
- NTT加入電話の料金未払い
- 福祉電話(高齢者等が自治体の負担により利用可能な電話サービス)
等の理由で技術的に提供可能でも非技術的な理由で不備解消が必要になるまたは申込取下げとなる場合もある。
2004年頃までは、駅前でモデムを配るなどする一部事業者があるなど、それなりに普及していたが、その後NTTや電力系通信事業者による光ファイバの普及とともに加入者数が減少、KDDIは2016年までに全廃し、NTTも2016年に新規受付を終了することになる。残る事業者も「2015年時点では新規受付はほとんどない」という状況となっている。
VDSL
主に工場やマンション等で、構内配線として光ケーブルやLANケーブルを敷設できない場合に、メタルケーブルを用いてネットワークを構築するときに使われるのがVDSLである。
マンションの場合、新築時に光ケーブルやLANケーブルを配線したり、また既築であっても配線可能であればそれらを用いることが可能であるが、そうでなければ建物内のメタルケーブルを用いることになる。
フレッツ光やauひかりのマンションタイプでは約80~90%が構内配線にVDSLを用いているが、新築物件を中心に光ケーブルを利用することが増えている。
ADSLと異なり集合装置から宅内までの距離が短いため、棟内では最大100Mbpsで利用可能となるが、その反面外部からの影響によりシビアで、たとえばメタルケーブルのそばにある蛍光灯が切れ掛かっているだけでリンクが切れるという現象もある。
VDSL普及以前、同じくメタルケーブルを用いた構内配線の技術としてPNAという規格もあったが、最大10Mbpsでしかサービスを提供できず、また機器メーカーが早々に撤退したためか、ほとんど普及しないまま消えている。
共通事項
ADSLの場合はNTT収容局に、VDSLの場合は棟内・構内の通信設備集約場所に、それぞれ集合装置(DSLAM)を設置し、宅内や利用場所にはモデムを設置することになる。
関連項目
NTT東日本・NTT西日本 - 「フレッツ・ADSL」という名称でADSLの回線サービスを提供している(プロバイダは別途手配)ほか、他社ADSLの机上調査・局内工事を担当している。
ソフトバンク・イー・モバイル - それぞれ「Yahoo!BB ADSL」(プロバイダ一括型)と「イー・アクセスADSL」(プロバイダ経由でのホールセール型)を提供している。