さて、今日のお客様は…
ある街で老いた母と妻と一人息子の4人で暮らす会社部長の頼母雄介 (41)は、芸能人かと思われる程の伊達男。それ故に学生時代から周囲から期待され、常に周囲の期待に応えるよう、懸命に頑張ってきて部長の座にまで上り詰めた、いかにも頼れる上司といったタイプの日本男児であった。
しかし、本音を言うと彼はそれにうんざりして疲弊していた。
ある日、周りに酒を飲めると思われているので、バーでウィスキーのストレートを飲み過ぎてしまい、帰宅途中に路地で吐いてしまっていたのを偶然同じバーにいた喪黒福造に介抱される。頼母は近くの公園の噴水に座って、「いつも頼りにばかりされることは、大変な負担です。私を頼って甘えてくる連中はたくさんいるけど、私が頼り、甘えられる人物なんて、どこにもいないのです…。」と本音を打ち明けた。すると喪黒は、「…わかりました。人を頼るより頼りにされるほうが、何倍も辛いものです。今のままでは、精神のバランスが崩れてしまうでしょうなぁ。よろしい…あなたが安心して甘えられる人を紹介しましょう。」と約束するのであった。
翌日、頼母の会社に喪黒が訪問してきた。
喪黒は頼母が頼れて甘えられる人物を、色々あたった末にやっと見つけ出した事を知らせたが、頼母は昨日の話はただの酔っ払いのたわ言だと撤回し、その上喪黒が美人局だと疑って提案を却下する。喪黒は「もし気が変わったら、名刺の裏を見てください。先方の連絡先が書いてありますから。」と言って去って行った。
その後頼母は、仕事中に妻が嫁姑問題で電話で泣き言を言ってくるわ、部下が会社の車で衝突事故を起こすわでとうとうストレスが限界に達し、「馬鹿!!そんなことくらい、君らで始末しろ!!何でもかんでも俺のところに持ち込んでくるなー!!頼りにばっかりされるのは、お断りだーーーっ!!」と恐ろしい形相でブチ切れてしまった。
その夜、頼母はいつものバーでウィスキーのストレートをヤケ酒し、泥酔してマジギレ状態で、「もお…、どいつも…こいつも…寄っかかってきやがって…俺だって…寄っかかりたいんだよおおお…!」と本音をブツブツ言いながらフラフラと千鳥足で歩いていると、喪黒の名刺が頼母の目の前に落ちてくる。頼母の頭の中で「相手の連絡先は、私の名刺の裏に書いてありますからね」という喪黒の言葉がこだまして、何かに引き寄せられるかのように住所に書いてあったボロアパートに辿り着くとそこに喪黒が待っていた。
「よくいらっしゃいました、頼母さん。気分をゆったりさせて…すばらしい女神を紹介してあげますよ。ドーーーーーーン!」
頼母が真空波を受けたように吹っ飛ぶと、いつの間にか美しい朱塗りの扉が現れ、喪黒に言われるがままその扉を開けるとそこには、金色に輝く大きな観音様が出迎えていたのであった。頼母は観音様と喪黒に言われるがまま、母親に甘える幼子のように思う存分観音様にすがるのであった。
「ああ、いい気持ちだ…、まるで雲の上にいるみたい…」
後日、頼母が戻ってこないのを心配した頼母の妻子は、喪黒の道案内で頼母のいるところへ向かった。辿り着いたのは、喪黒が頼母を出迎えたボロアパートで、喪黒と別れた後、頼母の妻子が喪黒に指摘された部屋に入ると、実は頼母が観音様に見えていたのは観音様のような顔をしたお相撲さんのような体型の中年女性で、二人の目の前には、汚部屋で赤ちゃん返りした頼母がその中年女性に裸で甘えている光景が広がっていたのであった。
「バブ…バブ…か、かんのんちゃま…」
「よしよし…」
「オーホッホッホ、あの光景を見て頼母さんの本当の心を理解できるか、嫌悪の情を催すか・・・頼母家の幸せはそれ次第ですな、オーホッホッホ…」と喪黒が言いながら夕暮れの道を歩いているところで物語は幕を下ろす。
余談
- TVアニメ版(89~93年版)で頼母を演じているのは、ジェネラルシャドウの声などで有名な柴田秀勝。第0話「プロローグ」や第SP話「湯けむり哀歌」でゲスト出演もしている。SPでは人格崩壊もしていない上、観音様と再婚したことが明かされるなど、救いのある結末となっている。
- 原作版では、頼母の役職は課長で、観音様は人間とは思えない程不気味な顔となっている。また頼母のモデルが俳優の芦田伸介だと示されており、アップの顔も芦田の写真を加工したものが使われている。
- アニメコミック版(90年版)では頼母にオリジナルの台詞が追加され「ボクねェまたおもらちしちゃったみた~い」と原作・アニメをも上回る退行ぶりを吐露している。
- メガCDやMSX2シリーズで発売されたアドベンチャーゲーム『藤子不二雄Ⓐの笑ゥせぇるすまん』にこの話を基にしたシナリオが収録されていて、選択肢や探索、ミニゲームを通してさまざまな結末を迎えるマルチエンディング方式で、原作エンドの他にハッピーエンドのパターンもあるが、喪黒に「ドーン!!!!」された方が幸せに思えるバッドエンドも存在する。
- ドラマ版(1999年放送)では最終回にこの話が放送され、林隆三が頼母を演じた。観音様を美人女優の高橋ひとみが演じており、頼母が純粋に神仏に救済されたとも取れるような演出となっている。