概要
正式名称は『国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約』。『パレルモ条約』『TOC条約』とも呼ばれる。
犯罪組織に対する処罰や対抗措置が定められた国際条約であり、「犯罪組織への参加・共謀」「犯罪収益の洗浄(いわゆるマネー・ローンダリング)」「司法の妨害腐敗(公務員による汚職など)」などが対象となっている。
日本国内での動き
日本国においてはこの条約は採択された時点で署名はされたものの、国内法規の問題もあり批准されていない。
なお、司法の妨害等に関しては現行法で対処可能、犯罪収益の洗浄に関しては犯罪による収益の移転防止に関する法律の改正にて対応が完了している。
問題は犯罪組織への参加等に対する処罰であり、日本の場合刑法においては未遂は「犯罪の実行に着手」することが構成要件であり準備や計画の時点では罪に問えない、また別の法律、例えば組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律や破壊活動防止法等の法律では対処できないとされた。
また日本国の場合日本国憲法との兼ね合いもあり、結社や団体の設立や加入に関して制限をかけることができるのかどうか、という問題も存在する。
そのため、国会においてはこの条約の署名後、共謀罪および類似する法律の制定を目指すものの、いずれも成立させることはできなかった。
近年の流れ
第二次安倍晋三内閣においては、それまでなしえなかった共謀罪に相当する法律を成立させ、日本がこの条約を締結することを目指しており、それまでは2020年に予定されている東京オリンピックも安心して開けないと断言している。
また「先進国と言われる国々の中でこの条約を締結していないのは実は日本のみであり、締結できなかった最大の原因が、共謀罪( もしくはそれに相当する法律 )が定められていないことにある」と政権側は主張している。
そのため2017年5月現在国会に提出されている「テロ等準備罪」は「民間の賄賂罪」「公務員の汚職罪」など、国際的に問題となっている法律は対象外とされている。これは日本国の場合現状の法律でこれらは対応可能と政府がみなしているためである。
反対意見
ただし共謀罪に相当する法律に関しては「拡大解釈により戦前の治安維持法のような使われ方がされる恐れがある」として反対する声も大きい。
また、共謀罪を制定しなくとも現状の刑法や組織犯罪処罰法などの改正や、この条約のための特別法により対処可能ではないかという意見も存在する。
マスコミ各社の報道
マスコミ各社は、条約の重要人物である刑事司法学者ニコス・パッサス教授のインタビューについて報じている。(パッサス教授は、各国の立法作業の指針を示した「立法ガイド」の執筆で中心的な役割を担った人物であり、その発言は重大な政治的意味を持つ)
朝日新聞はパッサス教授が「テロ対策は条約の目的ではない」と明言した記事を紙面に掲載。東京新聞も「条約はテロ防止を目的としたものではない」という発言を報じ、政府説明との矛盾を指摘した。(「条約、対テロ目的でない」 国連指針を執筆・米教授 「共謀罪」政府説明と矛盾)
各社の報道は政治家の活動にも影響を与え、民進党の逢坂誠二衆議院議員が東京新聞の翻訳を元に、国会で質問注意書を提出する事にも繋がる。(政府のTOC条約の解釈に関する質問主意書)
パッサス教授の発言により条約はテロ対策と無関係と証明され、政府の説明が矛盾している疑いが強まった。
しかし、放送局チャンネル桜の番組「Front Japan 桜」にてデザイナーの木坂麻衣子によるパッサス教授への取材結果と称した物が報じられ(【Front Japan 桜】本当に憎しみと差別を煽っているのは誰か / パレルモ条約(TOC)に関する日本の報道[桜H29/6/23])において、木坂は「パッサス教授は『私(のインタビュー)が間違った引用をされたか、またはGoogleの翻訳が不正確だったかのどちらかだ』『UNTOC(パレルモ条約)は、国際間の利益目的の組織犯罪との戦いを促すために創設されたものである』と返信した」とされ、朝日新聞の報道が否定されたと、木坂によって主張された。
更に、このチャンネル桜の内容に疑問を持った勝見貴弘によってTwitter上でパッサス教授へと直接の接触を持ち(Twitterモーメントにまとめられたやりとり)パッサス教授自らが
I have given several interviews and the youtube lady refers to one of them.
I have indeed stated and confirm that UNTOC's aim was NOT terrorism but serious organized clime for material benefit.
「私は幾つか取材に応えてきましたが,このYouTubeの女性(木坂のこと)が話しているのはそのうちの一つでしょう。
私は確かに、UNTOCの目的はテロ『ではなく』実体的利益を求める重大な組織犯罪を目的としていると述べ、また確認してきました」
(「ではなく」部分の太文字化は「not」を「NOT」と大文字化して強調していることの再現)
と、再度主張し、更に朝日の内容がパッサス教授の主張を誤って伝えたものでない事もまた、パッサス教授自ら主張された。これらにより「テロ対策は条約の目的ではない」事が、再度確認され、木坂によってチャンネル桜に報じられた内容が「誤訳」もしくは「意図的な捏造」によるものであると証明された。