概要
ニミッツ級空母は、エンタープライズに次ぐ二世代目の原子力空母である。満載排水量は10万tに達し、史上最大の軍艦として有名。30年以上の長きにわたって十隻が建造された上、艦の寿命が長いため、運用期間が非常に長い艦級としても知られる。
来歴
1960年代、エンタープライズの建造費用の高騰から停滞していた新型原子力空母の計画が復活した。このとき、SCB250案として、エンタープライズの船体を基に大改正を行った提案がなされた。このSCB250案によって建造されたのがニミッツ級である。本級は本来三隻のみが建造される予定であったが、冷戦時の兵力整備計画に振り回された結果、最終的には十隻の建造が認められることになった。しかし空母としての完成度はきわめて高く、冷戦時にはその航空戦力をもって旧ソ連を抑え込む役割を果たすのみならず、「フロム・ザ・シー」を体現するように、アメリカの参加した主要な戦争では戦力投射の要として活躍してきた。冷戦後の軍縮および老朽化のため、ニミッツ級以前の空母が次々に退役していく中で、米海軍で唯一の主力空母となっていたが、さすがに基本設計の旧さは否めず、新たにジェラルド・R・フォード級空母が建造される運びとなった。
設計
設計は基本的にフォレスタル級の発展版といえる。空母としての要素に革新的なものは見受けられないものの、水中防御改善を目的とした区画の配置や、飛行甲板の形状など、直前に建造されたジョン・F・ケネディに基づいた様々な改良が施されている。また、ベトナム戦争の戦訓から継戦能力に重点が置かれ、航空燃料および航空弾薬搭載量はエンタープライズを上回っている。
長期間にわたって建造されたことから、改装や設計の変更によって、各艦ごとに差異が存在するため、ある意味で多様性に富んだ艦級といえる。四番艦からはいわゆるブロック工法によって建造されたうえ、防御力の強化のため艦内配置が改正されている。また、九番艦および十番艦においては、改設計された艦橋構造物に、大型になった艦首の膨らみなど大きな改正が行われた。
船体
船体構造は従来の空母より大きな変化はなく、04甲板を全通の飛行甲板としている。この下の03甲板はギャラリーデッキとよばれ、航空機搭乗員の待機室などが存在する。艦首は開口部のない、いわゆるハリケーンバウであり、凌波性を高めている。主甲板は格納庫甲板とされ、そこから下の船体が主船体となる。主船体は多数の水密隔壁により分割され、それらは浸水や火災の拡大を防ぐとともに、艦に構造上の強度を与えている。また、艦底は全長にわたって二重底とされている。
甲板配置
05甲板~ | 艦橋構造物(アイランド) |
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04甲板 | 飛行甲板 |
03甲板 | ギャラリーデッキ |
01~02甲板 | 格納庫 |
第一甲板(主甲板) | 格納庫 |
第二~第四甲板 | 船体 |
第五~第七甲板 | 機関室など |
第八甲板 | 二重底。機関区やタンク含む |
※第八甲板は便宜上甲板とした
喫水線下の艦首形状は丸みを帯びたバルバスバウであるが、高速域の運用を想定している。このため、旧日本海軍でいえば、大和型戦艦のように顕著ではなく、むしろ翔鶴型空母に近い形状である。ただし、後期建造艦二隻のみはこれを大型化し、顕著なシリンドリカルバウ(円筒状の艦首)を得て、浮力の増加と推進効率向上を果たした。
艦橋の設計や防御についても変更が行われている。レーダーマストは前期・中期建造艦では独立していたが、後期建造艦では艦橋に直接組み込まれており、また艦橋が一層分低くなったとされる。飛行甲板も左舷側に拡げられ、艦の重心を調節するなどの改設計が実施されている。
水線長と幅の比率(L/B比)は約7.76で、エンタープライズより若干肥えた船型をしている。艦幅を広げ、喫水を大きくとったことから速度は落ちているものの、その代わりとして大きな浮力を獲得したため、かなり余裕を持たせた設計になっていた。就役当時排水量は91,400~93,400tであったから、許容排水量から考えても約10,000tの重量的余地があったことになる。満載排水量比でも10%ほどであり、これはのちの改装に耐える土壌となった。なお、エンタープライズは就役当時排水量85,000tであったから、ニミッツ級は就役時から世界最大の軍艦であった。
船体材質
DH-36などのHSS(高強度鋼)を中心とするが、HY-80やHY-100が大量に使用され、以前の空母に比べて軽量化がなされている。フォレスタル級では53,000t、エンタープライズでは60,000tであった鋼材使用量がニミッツ級では約50,000tになっている。また、七番艦からは溶接性に優れたHSLA-100が使用され、後期艦ほど適用範囲が拡大されており、費用の低減と強度の向上による軽量化を実現した。このため、建造された時期によって材質とその重量構成は異なると考えられる。
機関・推進器
本級では、ウェスティングハウス社製の加圧水型原子炉であるA4Wを二基搭載している。エンタープライズではより小出力のものが八基搭載されていたが、大出力の原子炉を搭載したことで艦内の空間が節約され、それを搭載量向上に充てたとされる。一基あたりの公称出力は13万馬力であるから、総出力は26万馬力であるが、資料によっては定格上げにより28万馬力を発揮するともいわれており、詳細は不明である。推進器については、蒸気タービンを四基搭載し、五枚羽根のスクリュープロペラを四基装備する。プロペラはブロンズ製で、直径23ft~26ft(資料により異なる)、重量約30tである。舵は二枚。
燃料棒のウラニウム濃度については、腐食の関係から、90%以上の高濃縮燃料は採用を見送られ、それ未満の濃度のものが装填されていると思われるが、これによって20年間燃料を補給することなく運用が可能である。機関の配置はシフト配置を採用しており、弾薬庫を間にはさみ、二つの原子炉区画が配置されている。また、原子炉の停止などの緊急事態に備え、2,000kw級のディーゼルエンジンを四基搭載しており、その出力は10,720馬力である。
機関構成は以上のようになっているが、いかんせん1960年代に設計された装備品が多く、原子炉もその一つである。当時はともかく、現在の水準からすると発電量が小さく、電磁カタパルトなど、大電力を必要とする先進的な装備を、将来的に改装で搭載できない可能性がある。
兵装
兵装は、艦による差異はあるが、自衛用の兵装を搭載している。中距離の対空・対艦火力としてシースパローまたはESSMがあり、短距離の対空火力としてはRAMとファランクスCIWSが装備されることがほとんどで、そのほかにはチャフ発射機や電子戦機器、対魚雷デコイを搭載するくらいである。
近年は、テロ対策の観点から、低速の空中・水上目標に対応するため遠隔操作式のMk38 mod.2 25mm機関砲を装備したり、M2などの重機関銃を搭載したりすることがある。これに加え、魚雷への対策として、直撃破壊方式の対魚雷システムを搭載することが考えられており、実際に、艦に搭載しての試験が行われている。
電測兵装
煙突が不要になったとはいえ、エンタープライズとは異なり、フェイズドアレイレーダーを装備することはなく、従来の回転式レーダーを搭載した。このうち、AN/SPS-43二次元対空レーダーについては改装によってAN/SPS-49に換装された。他にも航空管制レーダーや着艦誘導レーダーなど空母特有の多数のレーダーを搭載している。なお、対空レーダーに関して、現在搭載されているAN/SPS-48およびSPS-49は新型レーダーに換装する予定である。この新型レーダーはEASRと呼ばれるもので、その回転式レーダー版であるが、AN/SPY-1に相当する能力がある。
航空艤装
本級は、いわゆるアングルドデッキ、舷側エレベータ、光学着艦システム、蒸気カタパルト、アレスティングワイヤーなど、充実した航空艤装を備えており、高い航空機運用能力を誇る。
格納庫のサイズは684ft×108ft×25~27ftであり、この規模の空母としては、それほど広いわけではない。搭載機すべてを収容する能力は無く、主に整備のために使用されており、搭載機の多くは飛行甲板に露天繋留されている。ダメージコントロールのため、格納庫は二基の可動扉によって仕切ることができる。また、エレベータの開口部についても、可動式のスライドドアが装備されており、密閉することが可能である。そのため外見からは分かりにくいが、閉鎖式格納庫であるということになる。これは第二次大戦後、核兵器の放射性降下物などから乗員を守ることが必要になったからである。
飛行甲板はフォレスタル級同様装甲されており、艦の強度を担う甲板でもある。材質はHY-100またはHSLA-100で、その面積は4.5エーカー(18,200㎡)に及ぶ。アングルドデッキの長さは243m、艦首に対して9.3~9.4度の角度がつけられており、以前の艦に比べると比較的角度が小さくなっている。
以下、その他艤装について概略。
カタパルト:C-13-1/2蒸気カタパルトを四基搭載。長さ94m。
エレベータ:航空機用エレベータは右舷三基、左舷後方に一基の計四基。アルミニウム合金製で、重量は120tといわれる。搭載機を二機同時に昇降可能な力量がある。
このほか、弾薬エレベータも複数搭載しているが、こちらの力量は10,500ポンドとされる。
アレスティングワイヤー:油圧式のMk7‐3を搭載。基本的にワイアは四条だが、後期に建造された二隻のみ三条となっている。ちなみに、フックが降りないなど機体に異常があるときは、強制的に着艦させるためにナイロン製のバリケードを飛行甲板に展開し、着艦機を受け止める。
ジェット・ブラスト・デフレクター:カタパルトごとに装備されている、搭載機の排気から乗員などを保護するために立ち上げる板状の装置。水冷式。しかしもっとも左舷側にあるカタパルトのものだけデフレクターを構成するパネルの枚数が少ない。
防御・ダメージコントロール
防御については、海軍の主力艦でもあることから、充実した防御が与えられているともいわれるが、詳細は不明である。ここでは、資料から推測できる限りでの情報を示すものとする。
装甲
前述したように、飛行甲板にはHY-100などによる装甲が施されている。厚さは不明であるが、フォレスタル級などの情報から判断するに、30.5mm~45mmほどではないかと推測される。さすがにミッドウェー級ほどではないものの、飛行甲板での運用事故による損傷を抑えるには重要となる。
格納庫甲板もHY-100やHSLA-100が使用されており、22.2mm~25.4mm程度の厚みがある。艦橋についても、一部25.4mm厚の鋼鈑が奢られているとされるが、詳細は不明。また、空母に使用される鋼板の中には、最大で厚さ102mm~114mmのものがあるとされ、これが重要区画の防御に使われている可能性がある。そのほか、改装の際には64mmのケヴラー装甲が舷側に張られたり、機械室の天井が二重になったりしたという情報も存在する。
水雷防御に関しては、喫水線下の舷側を多層化し、艦底を二重底とすることで対策としている。
ダメージコントロール
被害を局限するため、本級ではさまざまな工夫がなされている。船体は複数の隔壁で区分され、多くの水密区画に分かれている。空母にとって火災は致命的な結果を引き起こすため、各種の消火装置を数多く備えており、例えば格納庫や弾薬庫などでは散水装置や、AFFF消火剤を放出する装置が備え付けられている。
また、ベトナム戦争時のフォレスタルにおける事故の反省から、乗員は訓練でダメージコントロールについて学び、多くの人員が事態に対処できるようにしているとされる。
NBC防御
核戦争なども想定される時代の設計であるから、NBC防御のため、艦内は密閉することができる。空調装置も搭載されているが、おそらく艦内は与圧され、ガスの侵入を防ぐことができるものと思われる。
同型艦
CVN-68 ニミッツ
CVN-69 ドワイト・D・アイゼンハワー
CVN-70 カール・ヴィンソン
CVN-71 セオドア・ローズヴェルト
CVN-72 エイブラハム・リンカーン
CVN-73 ジョージ・ワシントン
CVN-74 ジョン・C・ステニス
CVN-75 ハリー・S・トルーマン
CVN-76 ロナルド・レーガン
CVN-77 ジョージ・H・W・ブッシュ
性能諸元
満載排水量 | 約100,000t |
---|---|
軽荷排水量 | 73,000t~82,000t |
全長 | 1,092ft |
全幅 | 252ft |
水線長 | 1,040ft |
水線幅 | 134ft |
喫水 | 最大41ft |
飛行甲板面積 | 約18,200㎡ |
機関出力 | 260,000shp |
速度 | 30ノット強 |
搭載機 | 定数66機;最大90機 |
関連タグ
ジェラルド・R・フォード級 後継。