「やはり『人間』じゃな。その激情は多少妬ましくもあるが、まだ足りぬ。今、帳尻を合わせるので、もう少々付き合ってくれんかね」
概要
初出:新約10巻のエピローグ
魔術を極めて神となった魔術師『魔神』。既存宗教色なく魔神が参画する魔神の為の組織『グレムリン』の一角。
その根源は日本仏教の即身仏。
宗派は恐らく…というかほぼ間違いなく真言宗なのだろうが、色々と面倒な大人の事情があるのか、作中では明確にされていない。
即身仏なので容姿はミイラ。魔神になる前にかなり年を食っていたのか、娘々から「ジジィ」等と呼ばれている。
だが日本仏教は他宗教と比べても歴史が浅いため、実は魔神としては若輩である。
オティヌスが最後に消滅せず肉体が再構成され、インデックスたん化して復活できたのは、彼の魔術的介入によるもの。これも善意から来る行動ではなく、オティヌスの死が上条当麻の今後に影響を与え、上条の性質・方向性が変わる事を防ぐ為だったらしい。
また『幻想殺し』の詳細についても把握しているようで、他のメンバーと共に世界を裏から操っている。その為、世界から認識されるとアレイスターと同じく、他のメンバー共々追われる立場なのだが……追う追われる以前に世界が壊れる気がする。
魔神「僧正」の誕生
地面を掘って地下に潜り、出口を遮断し、水や五穀の一切を絶ち、最期の瞬間まで座禅・読経を続けるというプロセスに従って行う。しかし「完成」は他人の手に委ねられ、僧がミイラ化したタイミングで掘り起こし、飢餓の恐怖や苦悶の表情ではないか綿密に検分し、ようやく即身仏と認定される。
現在も仏格と並ぶ程に祀り上げられている即身仏だが、そのシステムは衆生救済の思想を持った仏僧の狂気的な「自殺」に他ならない。
では、もし祀り上げられなかった者はどうなるのか?
元々、「僧正」は政治と仏教が密接な関係の時代に「入滅」した高僧の一人である。信心深い彼は衆生救済の為に工程を終えて人としての最期を迎え、晴れて即身仏となる……通常ならそうなるはずだった。
だが不運にも寺院と寺院の派閥争いに巻き込まれてしまう。僅かな背筋の曲がり具合、苦悶の表情、不動明王をモチーフとした豪華絢爛な装飾を欲に塗れた等とあらぬ評価を下し、最後の最後に仏に成る事を許されなかった。
同時に「僧正」は必要な工程を全て終えていた。彼はその者達を見て分析し、理解し、こう結論づけた。
『なるほどのう。衆生の救済には新たな仏に座を与える必要もなかった。いやはや、流石の儂も考えが及ばなかったわい』
『であれば儂がその役を買って出よう。あさはかな欲を捨てられなかった未熟者にして、完成を待たずして死に絶えた惨めな破戒僧。仏となっても座を与えられず、仏となっても役割を与えられず、ただ莫大な力を持ち彷徨うモノの一つに』
そうして「魔神」と成った彼に対してある者は斬れと命令し、ある者は恐怖して媚びへつらい、またある者は許しを懇願する。しかしただの僧正、ただの迷い仏に成った彼は、善悪も関係なく方向性も定めず、自儘に力を振るった。
性格
同じ魔神であるネフテュスから「だからあなたは悟りが開けないのよ」とよく指定されている事からも分かるように、悟りには程遠い性質の持ち主。
他者を常に上から目線で評価している。アレイスターを挑発する、他者の心を嬲って愉悦に浸る事を好むなど、。
さらに始末の悪い事に、本人は全くその自覚を持っていないというジョジョ第6部のエンリコ・プッチと同じく、自分が『悪』だと気付いていない、最もドス黒い『悪』ともいえる人物である(その為、娘々からは頑張って餓死して即身仏になったのに誰から敬われないと皮肉を言われてしまっている)。
容姿
初登場時はイラストが無かったためにその姿はベールに包まれていたが、12巻にてその全貌が明らかになる。
彼の根源が即身仏であるため、ミイラの姿で高僧が纏うような法衣を身に付けている。
また、完成した魔神なため、普通の方法では殺害不可能な肉体の持ち主であったが、新約12巻の終盤にて、アレイスターの策略により、殺せる体へと変質した模様。
はいむら氏曰く、デザインモチーフは犬夜叉の白心上人。
ちなみに当初のデザインでは頭巾も被っていたが、編集者から「それはマズイ」といわれて、無しとなったようだ。
作中での活躍
文字通り無限の力を持つ神格である魔神が世界を壊さずに存在できる別位相「隠世」から世界を裏で操っていた。
新約10巻の最後で魔術師アレイスター=クロウリーに存在しない筈の位相を特定されて世界としての機能が崩壊。この時、「日記に残った染み」「ありゃあ完全な失敗作じゃよ若造」等とアレイスターを煽っていた。直後にアレイスターと戦闘する。
そのままでは歩くだけで「世界」がステンドグラスのように粉々になる為、ブードゥーの魔神「ゾンビ」が“他の魔神が現世で活動可能になるよう術式”の構築を行い、世界を“うっかり”壊さない為の方法を確立する。
その理論を適用し、無事に上条達の現世(四界の表層)に固着……したと思われたが、実はアレイスターにより、新約10巻における衝突で魔神に共通するある種のパラメータで構築された「偽の術式」にすり替えられていた。
アレイスターの謎の術式によって、想定とは違うが世界が壊れないレベルにまで弱体化され、殺すことが可能な体へと変質した。
新約13巻では上条を自分たちの採点者とならせる為に勧誘し、上条と道中に偶然居合わせた御坂美琴を追い回している。その途中でフィアンマを一瞬で戦闘不能にしたが、最終的に問答無用で宇宙まで吹っ飛ばされた。
その後、彗星に乗って(融合して?)大規模な彗星衝突を起こそうとした所を、「対魔術式駆動鎧>御坂美琴」を起動させた木原脳幹が迎撃。
対魔術式駆動鎧によって魔術師アレイスター=クロウリーの何らかの力(テレマ系の術式?)が捩じこまれ、致命的なダメージを受ける。
消滅の間際、ある男からの言伝を受け取った。
「覚えているか。……世界をより良くしたい、人類を余さず救ってみたい。そんな幼稚な歯車ですり潰されるようにして運命論に命を奪われた、私の娘の名を」
最期には、魔術と運命を憎みあえて魔神にならなかった魔術師を思い出し、
「済まなかったな」
そう言いたげに微笑みを浮かべ、消えていった。