概要
初登場は『パワプロ13』。当初は名前が設定されず、固有の立ち絵もないモブキャラ(所謂「ザコプロ」)の姿だった。13の主人公とは雰囲気が似てるらしい。
六道聖が中学時代にバッテリーを組んでいた投手で、想いを寄せる相手。13の聖タチバナ学園編にて、橘みずきの決め球である「クレッセントムーン」を完成させる連続イベントの過程でみずきの回想の中で登場するほか、同編で3年夏の甲子園決勝に進出すると本人が直接登場する。
理由は不明だが中学卒業後は聖と疎遠になっていたらしく、決勝前に聖がテレビで活躍する鈴本の姿を目にして「やっと見つけた」と述べている。
本人はパワフル高校に進学しており、これまた理由は不明だが投手から野手に転向し、準決勝ではアンドロメダ学園の神高龍から逆転サヨナラ満塁ホームランを放って勝利に貢献した。決勝で勝利すると聖と再会し、またグラウンドで会うことを約束する。
『14』では名前と容姿が設定され、メインのライバルキャラとして本格的にストーリーに登場。そしてここで彼の運命は大きく変わることになる。
13の頃のザコプロ顔や野手転向設定はどこへやら。黒髪と紫の瞳を持つ、メイン画像準拠のイケメンとしてデザインし直され、ライバルチームであるシャイニングバスターズのエースとして登場する。
その能力値は球速149キロ・コントロールA・スタミナB。変化球はスライダー3、ナックル4、シュート3。特殊能力はリリース〇や球持ち〇など青緑合わせてなんと12個もあり、しかも一切マイナス能力なし。
さらに設定面では「弱小だったシャイニングバスターズを強豪に押し上げた持ってるエース」「ファンの人気投票では常に1位」など、これでもかというほど持ち上げれられており、顔だけでなく性格も完璧という、あらゆる面で現在で言うところの「なろう系主人公」を彷彿とさせる盛りっぷりである。全盛期の猪狩守ですら流石にここまでは行っていない。また、ローテーションの都合上必然的に出場試合数が限られるはずの先発型の投手がどうすれば1人でそこまで弱小チームを強くできるというのか、よく考えれば謎な設定となっている。
聖との関係は13と変わっておらず、聖の方は今でも鈴本に想いを寄せているが、鈴本本人はその想いを察していながらもそれが「野球選手としての聖」にとって良くないと考え、彼女の想いを断ち切るために自分の姉を婚約者に仕立てて聖を突き放すという、かなり独善的な手段をとっている。
また、パワフル高校での同期であった東條はプロ入り後はライバルの1人となっているが、東條は鈴本の姉に想いを寄せているという設定だった。
黒歴史化
14での好待遇から、制作陣としては人気キャラである猪狩守や友沢亮に続く第3世代の主人公のライバルキャラに据えたかったものと思われるが、あいにく鈴本は前者2人のようにユーザーに受け入れられることはなかった。
まず第一に、鈴本は聖が想いを寄せる相手として登場したが、聖は早川あおい、橘みずきに続くシリーズ3人目の女性選手であり、ゲーム上で彼女にこそできないものの、シリーズのメインヒロインの1人として非常に高い人気を誇るキャラクターであった。
当然聖自身の魅力もさることながら、そもそも13で彼女が(鈴本に似てるからという理由があったものの)主人公に明確な好感を抱く描写があり、聖→主人公の恋愛模様の構図が用意されていた。その聖が公式の設定として好意を抱く相手である鈴本には、シンプルに嫉妬の念を寄せるファンは少なくなかった。
さらに上述のように鈴本は自分なりの善意とはいえ聖を振っており、結果として聖は号泣して一時は野球を続ける意味を見失うまでに傷付いている(この点を見ると鈴本の目論見は完全に裏目に出たと言える)。これが余計にファンの反感を買うこととなり、人気者という設定に反してユーザーからの心象は文字通り最悪だった。
よりメタ的な話をすると、「パワプロ(主人公)のそっくりさん」「第二のパワプロ」のような立ち位置にいたからこそ許されていた聖との恋愛事情が、後の作品で似ても似つかぬイケメンの完璧超人と化してしまった事で、プレイヤーからの共感を得られなくなってしまった結果だとも言える。
そもそも高校で一度野手に転向したはずなのに14では何の説明もなく投手に戻っているばかりか、サブポジションすら付いておらず野手転向に関する要素が何一つ残っていないため、これを同一人物と見做せという方が土台無理な話である。逆にこれだけプロで投手として活躍できる素質と実力があって、なぜ高校で野手に転向していたのかも謎であり、その実力に反して設定が薄く、ちぐはぐであった。
また聖との関係を除いても、あまりに能力、容姿、環境に恵まれすぎて、設定上は微塵の欠点も見当たらない完璧超人であった鈴本は、裏を返せば「ただ凄い」だけの特に面白みのないキャラでもあり、ユーザーに受け入れられた人気キャラたちに見受けられる愛すべき欠点や困難な苦境が存在しない鈴本は、単純にキャラクターとしての厚さ、魅力に欠けていたとも言える。
さらに言うと、サクセスの「主人公」は言うまでもなくプレイヤーが操作して育成している選手(パワプロ君)であり、猪狩守や友沢はあくまで主人公にとっての壁や目標、時には無二の親友として主人公の物語を演出する立場のキャラクターとして魅力を発揮する場面が多かった。しかし鈴本は聖や東條とのエピソードなど、しばしば主人公を差し置いて勝手に自分の物語を動してしまうことがあり、少なからず主人公の立場を食ってしまっていたことも難点といえる。
もっともこの点については、友沢も11~13にかけて久遠ヒカル、神高龍、蛇島桐人といったキャラと主人公が介入できない部分で因縁や物語を構築していたり、みずきも13では理不尽に過ぎる振る舞いで実質「みずきの物語に主人公を無理やり付き合わせている」といえるような状態であったため、サクセスキャラのエピソードが強化される反面主人公の影が薄くなったり、都合の良い役回りに当て嵌められるというのはこの頃のサクセス自体の傾向でもあった。あくまでこれも副次的な要因で、やはり件のエピソードが「聖との恋愛物語」であったことが一番の問題だったと思われる。
また、6以降の猪狩守や友沢はサクセスの舞台次第では毎回主人公のチームメイトや指導者としても登場して密に交流することができ、チームメイトとしてのシナリオでは例えば猪狩は自身を天才と自賛しながらもその実誰よりも多くの練習を重ねている努力家であることや、友沢は実は家が貧しくて病気の母親と幼い弟妹を支える苦労人であることが明かされるなど、ライバルとしての関係だけでは分からない魅力が描かれる機会も多くあった。
それに対して、14の鈴本は主人公と同じチームになることがなく、チームメイトや友人といった身内視点での描写や魅力の掘り下げがなかったことも痛手であった。
まとめると、聖の人気に由来する彼女の想い人というポジションへの嫉妬と、本人のなろう主人公のような設定と振る舞い、周囲のよいしょに対する反感が相互的に高まり、キャラクター自体への反感という形で表層化してしまった上に、それを払拭できるだけの魅力を発揮する機会を一切与えられなかったことが不運だったといえる。これが後者だけならば、人気を得られたかはともかく、そこまで悪目立ちする事はなかったかもしれない。しかし、支持を集める人気ヒロインの1人とかつてバッテリーを組み、彼女に好意を寄せられていたどころか、挙句その告白を「振ってあげた」という態度は、そのキャラ人気に致命的な打撃を与えた。
制作陣もこの状況を問題視したのか、14ではメインのライバルキャラとして優遇していたにもかかわらず、続く『15』では完全に存在を抹消され、『2013』や『パワプロアプリ』、『パワフェスモード』などで再登場したものの、肝心の聖との関係についてはその描写が殆ど無くなり、コンボイベントなども設けられなかった。「聖が鈴本に片思いしていた」という設定は、実質パワプロの黒歴史と化している。
一方アプリにおける聖のキャライベントでは、主人公から不意にぶつけられた口説き文句に聖がどぎまぎして集中力を乱すという展開が描かれており、聖から主人公への好感の設定については今でもちゃんと残っている。製作陣も軌道修正を図ったようだ。
アプリでは神高からサヨナラホームランを打ったのが中学時代の出来事という設定になっていて彼から対抗心を抱かれているほか、東條とも変わらずライバル関係にあり、この2人とのみコンボイベントが実装されている。
余談
鈴本のモデルは当時甲子園での活躍により世間で絶大な人気を誇っていた斎藤佑樹とされる。
ただしステータスの通り、野球選手としての技量や性質はあまり踏襲していない様子。あくまで人気にあやかっただけと思われる。