概要
昔の日本では、若い漁師が全裸に近い格好で仕事をすることは珍しくなかった。
これは第一に、服を着ていると水を吸収して動きにくくなる上、海から出た後も体温を奪う要因になるので、できるだけ裸でいるほうが合理的だったからである。
第二に、漁村社会ではしばしば、仕事中の服装が身分を反映しており、年齢を重ねて出世した者だけがふんどしを締めたり上着を着たりすることを許されたからである。
九十九里浜や銚子などの千葉県の太平洋沿岸部では、1960年代頃に至るまで、若い男性漁師たちはみなペニス(オチンチン)の先を一本のわらで縛っただけの「藁チン」で漁をしていた。
要するにほぼ素っ裸であり、男性器も完全に丸出しな上に、藁でその男性器をさらに目立たせるという、なんとも「男らしすぎる」格好であった。
漁業の仕事には多くの女性たちも関わっていたが、彼らは女性の前でもその格好で働いていた。
元々は女性も海に入る仕事の際はトップレスになっていたのだが、時代を経るにつれて上半身にも服を着るようになり、男女の服装の差が大きくなってしまったのだという。
それにしても、彼らはなぜ男性のシンボルの先っぽに一本のわらを巻いていたのだろうか。
その理由のひとつは、藁の巻き方と関係していた。
藁の巻き方については正確な記録が残っていないが、実際に近くで見ていたある女性の証言によると、男性たちは藁チンをするとき、ペニスの包皮を前側に引っ張り、余った皮の部分を藁もしくは紐で縛っていたのだという。
つまり、藁チンをすることで、ペニスを包茎の状態にして固定し、砂や虫、魚の鱗などから亀頭を保護できたのである。
だからこそ、男性は(女性と違って)ふんどしやパンツを穿かなくても大丈夫だったのだ。
しかし、そのような実用的理由のほかに、女性からの視線も大いに関係していたようである。
実際、男性たちが陸の上でも藁チンをしていたのは、そうしていないと仕事中にペニスがブラブラ揺れてしまい、一緒に働く女性たちに笑われるからだったと証言している女性がいる。不思議な話だが、藁チンをすることでペニスが揺れにくくなるのは事実らしい。
また、女性たちもいる場で男性器をモロ出しにしている以上、せめてものマナーとして亀頭だけは隠しておくという意味もあったと考えられる。
とはいえさすがに若い世代の男性たちは、藁チン姿で働くことに若干の恥ずかしさを感じていたようである。特に、男性自身のサイズが小さめな男子にとって、そのモノを女子に毎日見られてしまうのは少しつらいものがあったらしい。
1970年頃になると彼らも下着を履くようになり、藁チンの文化は自然消滅していった。