鎌倉のオーベルシュタイン
かまくらのおーべるしゅたいん
概要
2022年4月17日にオンエアされた、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第15回「足固めの儀式」にて、登場人物の一人である大江広元が見せた鮮やかなまでの策謀ぶりに端を発して名付けられたあだ名である。
広元は、過去にも大河ドラマの主人公ともなった戦国武将・毛利元就の祖先に当たる人物であり、その元就も「謀神」の異名を取るほどの策略・調略の使い手としても有名な事から、ファンの間では本作の広元の策謀に対し「さすがは元就の祖先」「血は争えない」との感想もちらほら見受けられる。
経緯
その前週にオンエアされた第14回「都の義仲」において、頼朝は御家人を糾合した上で、朝廷との軋轢を増しつつあった木曾義仲を追討すべく派遣しようとするが、
平家討伐ならばいざ知らず、源氏同士の身内争いのことなどどうでもいいと考える地方領主たちは、予てから抱いていた頼朝への不満を一気に募らせ、これを追放すべく叛乱を企てる。
この不穏な事態を察知した頼朝と、その側近である大江広元は一計を案じ、
あえて坂東最大の実力者・上総介広常に叛乱軍を率いるよう、小四郎を通じて依頼。
そしてその狙い通り、広常が事を穏便に収めることで叛乱を不問に付すことに成功し、頼朝も広常の功を賞し酒を酌み交わした。
・・・が、それらは全て広常一人に全ての科を負わせ、謀反人として処断せんとする頼朝と広元の策謀の一端に過ぎなかった。
その結果、広常は御家人たちが集まる中で、頼朝からの密命を受けていた梶原景時の手により、見せしめとして殺害されてしまった。
これらのあらましと、鎌倉殿のためなら血も涙もない策謀を献策する広元の姿勢に、やはり策謀と組織運営に定評のあるオーベルシュタイン(『銀河英雄伝説』)を想起する視聴者も少なからずおり、そこから「鎌倉のオーベルシュタイン」とあだ名されるに至ったのである。
これも主君であるラインハルト・フォン・ローエングラムにオーベルシュタインが提唱し献策したものである。
第23回「狩りと獲物」において曽我兄弟が”源頼朝暗殺未遂事件”を起こした。
情報が錯綜するなか、鎌倉に”鎌倉殿(頼朝)死亡”の誤報が届いてしまう。あわてた比企能員と三善康信は、カリスマ性はないが頼朝に次ぐナンバー2にあたり、人望もある頼朝の異母弟・範頼に”鎌倉殿”就任を要請、朝廷にもその旨を告げる書状を送った。
このとき、広元は冷静に「事件のいきさつを把握するまで待つ」ことを主張するが範頼らは聞き入れず、結果、無事鎌倉に帰った頼朝は広元からの報告を受けて激怒。
第24回「変わらぬ人」で頼朝からの詰問を受けた範頼は伊豆・修善寺に幽閉されてしまう。直後、ともに上洛した娘・大姫の病死と、自身にかかった病から情緒が不安定になった頼朝は「これもまたあやつ(範頼)がかけた呪詛」によるものと思いこんで梶原景時に範頼殺害を命令、善児に殺害され、これも「オーベルシュタインが言うナンバー2不要論」とささやかれることとなった。
一方で...
このあだ名の元となったオーベルシュタインは彼の属する銀河帝国の陣営でさえも味方から嫌われまくっていることで有名であり、特に猛将として知られる提督たちはおろかラインハルトからも蛇蝎のごとく嫌われている。
一方で広元は頼朝上洛に同行した際には、御家人たちの酒宴にも顔を出しその席で「鎌倉下向を『都落ち』と嘲笑った公家連中を見返せたのは坂東の勇者があってこそ」など明確に坂東武士たちを讃えたことで、作中における猛将の代表格である和田義盛に気に入られている。
広元の史実に基づいて考えれば、貴族出身とはいえ合理を重んじる広元は坂東武者たちと馬が合っているのかもしれない。
また、広常の一件などに対する悪感情は頼朝に向かっていると思われる描写が多く、広元にはそれほど怒りの矛先が向いていない点もオーベルシュタインとは対照的だと言える。(史実においても頼朝の死後御家人たちから弾劾され鎌倉を追放されたのは別の宿老だったりする)
- 反面、この酒宴での一幕は貴族階級に代表されるゴールデンバウム朝が作った全てのものを破壊することを目的とするオーベルシュタインと保守的思考に凝り固まった京の貴族に見切りをつけ、いつかは見返してやろうと思っていた広元という「既存の特権階級への反抗心」という共通点を示すこととなった。