ご当地萌えキャラ
ごとうちもえきゃら
概要
企業や地方自治体によって制作され、地域を振興する目的で活動している萌えキャラ全般を指す。
ゲームや、テレビアニメ等のキャラクターが作品の舞台となった地域を振興する例もあるが、それらは「ご当地キャラ」または「ご当地萌えキャラ」と称されない場合が多い。
ご当地萌えキャラが現実世界でイベント活動を行う場合は、主にコスプレイヤーが起用される。
新たな文化の誕生と発展
2010年代から、著しい人気の低迷と粗製乱造により新規参入の余地がない状況となっていたご当地ゆるキャラ(以降ゆるキャラ)に代わり、ご当地萌えキャラ(以降萌えキャラ)が台頭した。
静岡県のあわしまマリンパークを例に挙げると、それまでも萌えキャラ「淡島うみね」と、ゆるキャラ「しまたろう」の二段構えで宣伝活動を行っていたが、ある時から公式ウェブサイトの内容が「うみね中心」のデザインに作り変えられている。これは萌えキャラとゆるキャラの人気差があまりに大きかったためであろう。
その根拠として株式会社ハンクルズが集計している人気キャラクターランキングを示せば、2018年4月の時点でデータベースに登録された4000を超えるキャラクターのうち、萌えキャラの淡島うみねが17位を記録した一方、ゆるキャラのしまたろうはランキング圏外の惨敗となっていた。それ以外のキャラクターに関しても、今なお登録キャラクター全体の9割以上がゆるキャラである中、絶対的に少ないはずの萌えキャラばかりが上位を占拠している。さらには当該ランキングのみならず、同様の結果がご当地キャラカタログなどでも確認できるため、特殊な現象でもなければ、特定一社の調査による結果でないことも証明されており、ランキングの信頼性を補強している。
あわしまマリンパークのような現象は全国で見られ、萌えキャラが台頭してきた背景には、以下で述べる萌えキャラファンとゆるキャラファンの熱狂度の差や、グッズにおける購買層の広さ、キャラクターの維持と運営に要する費用のほか、キャラクターのデザインなども大きく関与している。
維持・運営コスト
萌えキャラとゆるキャラの差を維持・運営費の面から言及するならば、どちらもイメージを重視するキャラクターゆえに、イベントの都度コスプレ衣装や着ぐるみを洗浄・補修しなければならない点で共通している。
しかし一般的な衣類とは性質が大きく異なる着ぐるみを洗浄・補修するには、1回につき十数万円から数十万円の洗浄および修繕代が求められる。それに対して萌えキャラのコスプレ衣装は一般的な衣類と同等の費用(高くても数千円程度)でメンテナンスできるため、イベントの都度洗浄・補修を繰り返すとなれば、それだけでも無視できない金額差が生じる。
他にも運動(特に歩行)能力に乏しい大部分のゆるキャラをステージに上げるには、毎回、舞台に合わせた専用のスロープなどを新たに建造しなければならない。さらにそれらを運搬し、設営するにも特別な費用を要する。よって着ぐるみのみならず、ゆるキャラを維持し、運営するには莫大な予算の編成が避けられない。また行政自治体が抱えるゆるキャラの場合、それらの費用は主に税金から捻出される。
具体的な金額として、行政自治体がゆるキャラの運営および維持のために投じる経費は、キャラクターが活動を通じて得る利益を差し引いても1体あたり年間およそ2000万円に上り、ひこにゃんやくまモンは年間3000万円を超えると公表されている。これが萌えキャラの場合は数万円程度で済み、高くても年間数十万円の予算で維持・運営できるため、いかに萌えキャラがコスト面で有利かは想像に難くない。
ファンの性質
ファンの熱狂度の観点では、ラブライバーを見ればその差が顕著に読み取れるであろう。くまモンやひこにゃんなどが出演する大規模なイベントが開催されるからといって、遠く離れた地域からわざわざ熊本や彦根まで赴くファンは少ない。しかし沼津でラブライブ!の小規模なイベントが開催された際には、特に声優が来るでもステージイベントがあったわけでもなく、僅か数メートル四方の小さなグッズ販売コーナーが設けられた以外はパネル設置のみであったにも関わらず、北は北海道、南は九州からも、ヒッチハイクまで駆使して多くのラブライバーが駆けつけた。
グッズの購買層
キャラクターグッズについても前項で触れた内容に近い現象が生じている。ゆるキャラの場合は、よほどの知名度を得ていたとしても、そもそもラブライバーなどとはファンの熱狂度が異なり、ターゲットも限定されるため、グッズを手に取ってもらえない場合が少なくない。しかし萌えキャラの場合は、たとえそのキャラクターを知らなくても「萌えキャラである」という1点だけで興味を惹かれ、グッズを手に取る者が存在するなど購買層が広い。
ある意味でゆるキャラの主戦場とも呼べる地方の土産物店や高速道路のサービスエリアでさえ、著名なゆるキャラのグッズに対し、それほど著名ではない萌えキャラのグッズが7倍近くの売り上げを記録しており、萌えキャラのグッズを購入していった客についても男性やオタクばかりではないとされる。
キャラクターの運営者にとって、キャラクターグッズを買ってもらえるメリットは一時的な利益に留まらない。キャラクターグッズを持ち帰ってもらえるということは、そのキャラクターを購入者の家族、友人、知人が目にしたり、SNSやブログなどへ画像と共に投稿してもらえる可能性を意味する。購入者がインフルエンサーであれば、より大きな広告効果が得られる場合もある。その上で萌えキャラの熱心なファンには、ゆるキャラのファンに比べて日常的にネットを駆使している者も多い。すなわち萌えキャラであれば、ゆるキャラとは比較にならない、桁違いの情報拡散力をも味方にできる可能性がある。
デザインの優位性
キャラクターのデザインに起因して人気差が生じた可能性も考えうる。ゆるキャラのデザインには、一般公募で得た小中学生の作品を採用したケースや、自治体職員が考案した図案をそのまま流用したケースも散見された。言わばゆるキャラの多くは素人でも似せて描ける単純なデザインであり、その「ゆるさ」こそが持ち味でもあった。
対して萌えキャラは十分な練習を積み重ねた者しか満足に描けず、描くにあたって数段上のスキルとセンスが求められる。ご当地萌えキャラを専門に扱うインターネット掲示板では「萌えキャラのデザイナーにゆるキャラを描かせれば似せて描けるであろうが、ゆるキャラのようなキャラクターしかデザインしてこなかった者に萌えキャラを描かせたら、たとえプロであっても萌えキャラファンを納得させられるほど似せては描けない可能性が高いのではないか」とも指摘されており、キャラクター自体のデザインや作画レベルも人気差を生じさせた要因の一つであると見られている。
事実、ゆるキャラ戦国時代に海外では、スパイダーマンやバットマンのように緻密な作画で定評があるアメリカンコミックスを読み慣れた(いわゆる絵を見る目が肥えた)者によって「日本はこんなにチープなキャラクターで盛り上がるような国」と、日本や日本人を揶揄するような報道が沢山なされていた。もっとも中にはユニークな文化と表現した記者もいたため、日本国内では海外からそうした肯定的な意見ばかりが選択的に輸入され、さもゆるキャラが世界的に支持されているかのように報じられていた。
ところが2010年代に入り、ご当地キャラ業界に萌えキャラが増加を始めると、それまでの日本の評価が一変する。2000年代後半は京都アニメーションやシャフトの全盛期であり、海外にも日本の萌えキャラに親しむファンが根強く存在していた。その上で諸外国には萌えキャラを芸術と捉え、偏見を持たず、そのデザインや設定、作画の完成度を純粋に評価する土壌もあったことから、萌えキャラの台頭により「これぞ日本」と再評価されたのである。その結果、日本は汚名返上を成し遂げ、国内においても萌えキャラの商業的価値が注目されることとなった。このあたりは各国向けWikipediaにおける「Moe」の解説ページも参考になる。
これら一連の事情によって、現在では萌えキャラを積極的に採用する自治体や組織、団体が増加の一途を辿り、ご当地萌えキャラのマーケットが拡大を続けている。また上述のとおり、萌えキャラを商品化できるレベルで描くには格段に高い作画スキルが求められるため、マーケットが拡大する一方でご当地萌えキャラにゆるキャラが犯したほどの乱造傾向は見られない。そのような意味でも萌えキャラは他のキャラクターより多くのアドバンテージを有していると言え、これからも徐々に日本社会、そして世界へと浸透してゆく可能性が示唆されている。
是非
事業や文化の振興など、行政機関や公共団体が宣伝に萌えキャラを用いることについては異論もある。しかしそれはゆるキャラ時代も同じであり、ふなっしーの例では一部の船橋市民から「船橋は彼のように破天荒なイメージではない」と不満の声が上がっていた。いかな文化にせよ否定的な者は必ず現れる。要するに分母が大きくなればなるほど、キャラクターが支持されればされるほど比例的に批判の声が目立ってくるに過ぎず、そもそも取るに足らない相手を批判する必要もないため、そうした声が生じるのはそれだけ分母=支持者が増えた証拠と見ることもできる。
2010年代になるとかつてのオタク文化全般に対する大衆的な拒否感は減った一方、ポリティカル・コレクトネス論者からのバックラッシュを受けた。萌えキャラに対する批判的な意見として有名な例には、JAなんすんが設置した「高海千歌」のパネル・イラストについてスカートが透けて見えると指摘されたり、胸の大きな宇崎花を起用した献血啓発ポスターや、海女の碧志摩メグについて性的であると指摘された件が挙げられる。
これらの指摘は「萌えキャラである」ことや「性的」とした点で共通しているが、これら作品やキャラクターのデザインに明確な違法性はなく、各所の倫理規定に反するほどでもなかったため、「萌えキャラゆえに批判を受けた」と解することもできる。厳密に言えば高海と宇崎は「ご当地萌えキャラ」ではないが、このような指摘についてご当地萌えキャラを専門に扱うインターネット掲示板では、批判が他の萌えキャラにまで及ぶ可能性を憂慮し、次のように論理展開された。
批判に対する反論
高海千歌のパネル・イラストに関しては不透明なスカートに落ちた影による錯視の可能性が高く、いやらしい目で見ない限りいやらしくは見えない。いやらしく見えてしまったとしたら、いやらしい目で見たためであろう。あらゆる場所に掲載されている複数の現物写真は、明度やガンマ値を抑えるなど錯視を誘発させかねない色調変更が施されているため注意を要する。
宇崎花のポスターに関しては単に「大きな胸」という「個性」を持つ人気キャラクターを起用したに過ぎない。取り立てて他のポスターに見られない特色があるとすれば、それは宇崎が「萌えキャラ」である点に尽きる。仮に宇崎ではなく、胸の大きな現実の女性モデルを起用し、同じ構図でポスターを作成していたとしたら、そのモデルも同じ批判を浴びたであろうか。同様の批判が現実の女性モデルに対して巻き起こったとするならば、その女性に対する重大な名誉毀損事件に発展しかねない。これは碧志摩メグについても同じことが言える。すなわち、これらは「性的であるか否か」ではなく「萌えキャラであるか否か」によって批判を浴びたとも解釈できる。もし「萌えキャラである」ことを根拠に現物の撤去や公認の解除に至ったと仮定するならば、関連団体に対する業務妨害のみならず、表現の自由を保障した日本国憲法第21条にも抵触しかねない事件であったと言えよう。
世界の歴史を振り返っても分かるように「偉人」と呼ばれる男性らの成功の裏側には必ず女性の影があった。確かに男性は力が強く、迫力もあるため、特に重要な交渉の場で女性より有利に立ち回れる可能性が高い。現実的に多くの国で経済的にも政治的にも男性を中心とした社会が形成されており、その事実は否定しがたい。しかし、いかに大きな力を持った男性であれ、最初は女性によって生み出され、育まれる。これは成人者も同様であり、かのナポレオン・ボナパルトもジョゼフィーヌ・ド・ボアルネの存在なくして大儀を成すことは困難であったろう。
すなわち女性は「女性」というだけで偉大であり、尊敬すべき存在と言え、ゆえに女性は何かを牽引したり、癒したり、元気にするための「象徴」となりうる。むしろ女性こそ主役たるべきではなかろうか。萌えキャラは決して女性を蔑んだ存在にあらず、可愛らしさ、容姿の美しさ、聡明さ、守ってあげたくなる性格など、あらゆる女性の魅力(無論そればかりではないが)を凝縮し、それを昇華させて生まれた存在である。セクシーさは女性や萌えキャラが持つ有り余る魅力の、ほんの一面に過ぎない。そのような萌えキャラを何かの広告塔やマスコットに据える取り組みは、他のキャラクターを起用するよりも素晴らしいではないか。
男性が力や迫力という男性たる武器をもって活躍するのであれば、女性が女性の武器を手に社会進出して悪いことがあろうか。女性には、あらゆる女性の武器を存分に活かす権利があり、それについて「性的であるから女性を傷つける」などと批判しては、反対に世の女性の自由、尊厳、権利、地位を奪いかねない。また「性的」であるとした思考に至るロジックについても「萌えキャラ」を「女性」とみなしているからに他ならず、その場合「萌えキャラは気持ちが悪い、なぜ萌えキャラを採用するのか」とした主張は「女性は気持ちが悪い、なぜ女性を採用するのか」と論じるも同じ意味を持つため、致命的なパラドックスを生じさせてしまう。したがって正に逆説的であるが、萌えキャラの否定こそ女性蔑視に繋がる。
(以上要約)
この論旨が示すように、ご当地萌えキャラファンの心中からは、萌えキャラに対する並々ならない好意と共に、女性に対する敬意の念が読み取れる。ご当地萌えキャラファンの根幹を形成しているこれらの心理は、これから益々ご当地萌えキャラが発展してゆくための原動力となるに違いない。
これらの反論が生じた理由を解説する上で、触れておかなければならない事象がある。
一連の反論は単に、ご当地萌えキャラファンが、ご当地萌えキャラを応援したいがゆえに展開した主張ではない。
どんな批判を浴びても静観していたご当地萌えキャラファンが口を開き、こうした反論を展開した背景には、ご当地萌えキャラに否定的な人物が引き起こした、次の憂慮すべき事件がある。
ご当地萌えキャラに対する誹謗中傷事件
2020年10月、あらゆるキャラクターのファンが集まるご当地キャラカタログにおいて、ある事件が発生した。
ゆるキャラファンを連想させるハンドルネームの人物から、多数のご当地萌えキャラと、それらのキャラクターを抱える運営事業者が、目を覆いたくなるほど事実無根の誹謗中傷を受け、キャラクターの運営業務を妨害されたのである。
具体的には、ご当地萌えキャラのプロフィールに「豚」などと露骨な悪口を書き込んだり、書いてあった内容を消した上、ご当地萌えキャラにはアンチしかいないような内容に書き換えたり、そればかりでは飽き足らず、足立区を振興するキャラクターのページなどには「足立区は止めて練馬区に住もう」などと、キャラクターの振興対象に対する悪口まで大量に書き込まれた。
さらに犯行に及んだ者のコメントによると、犯行に及んだ動機は「萌えキャラの急激な台頭を面白く思わなかった」だけであった。
実に身勝手極まる言い分であるが、犯人は、たったそれだけの理由で一連の大それた行為に手を染めたとされる。
現代においては、特定個人や、一軒の飲食店に対する誹謗中傷さえ、程度次第で問題視される傾向にある。
そうした中、本事件においては、地域や地場産業を元気にするために活動する多数の萌えキャラと、その運営者が標的となった上、被害を受けたキャラや事業者も数百と広範に及んだため、悪質性が常軌を逸していた。
無論、運営関係者は1体のキャラについて1人とは限らず、各キャラクターが振興する地域などへの攻撃とも言える点に考えを及ぼせば、実際の被害者は、より膨大な数に上ると見られる。
ご当地萌えキャラファンの間で本事件が話題になると、加害者は言い訳にも聞こえる反省の弁を口にしたが、荒らした内容については一件とて戻そうとせず、逃げるように現場を離脱。
各ご当地萌えキャラの紹介ページは、ご当地萌えキャラファンが介入するまで荒らされたままの状態となってしまった。
このような、あまりにも度が過ぎた犯行に、ご当地萌えキャラファンからは、ご当地萌えキャラアンチやゆるキャラファンに対する怒りの声が相次ぎ、先の「批判に対する反論」へと繋がってゆく。
「ナポレオン・ボナパルトもジョゼフィーヌ・ド・ボアルネの存在なくして大儀を成すことは困難であった」とした節や、「萌えキャラの否定」に隠された真理に迫る解説なども、この事件を受け、ご当地萌えキャラファンらによる沸騰した議論の中で言及された内容である。
この事件ほどではないにせよ、過去にもゆるキャラグランプリにおいて、「こにゅうどうくん」の運営者を始めとする複数のゆるキャラの運営者が自ら、不正なメールアドレスを大量に取得(その時点で迷惑極まりないが)した上、投票結果の不正操作を行っていた事実が明るみに出て問題視されるなど、ゆるキャラファンや、ゆるキャラの運営者、ご当地萌えキャラアンチには元々、許されざる行為に及ぶ者が度々散見されていた。
ゆえに本事件を目の当たりにしたご当地萌えキャラファンには、被害を受けたご当地萌えキャラと、その運営事業者に対し、アンチの卑劣な行為に屈することなく戦ってほしいと願う者が少なくない。