アバドン【Abaddon】とは、『新約聖書』の「黙示録」に記される怪物(悪魔/魔神)の一種である。
概要
“第五の天使がラッパを吹いた。すると、一つの星が天から地上へ落ちてくるのが見えた。この星に、底なしの淵に通じる穴を開く鍵が与えられ、それが底なしの淵の穴を開くと、大きなかまどから出るような煙が穴から立ち上り、太陽も空も穴からの煙のために暗くなった。”
「ヨハネの黙示録」にて語られる"七つの災厄"の五番目に出現する存在。
その姿自体は不明であるが、彼が天使のラッパによって召喚された際に率いる奇怪なイナゴから"蝗の王"と呼ばれることもある。
また奈落の主ともされ、神に背いた堕天使や冷獄に封じられたルシファーを千年の間封じ見張る、まがりなりにも神の御使い、天使である。
アバドンのイナゴ
“そして、煙の中から、いなごの群れが地上へ出て来た。このいなごには、地に住むさそりが持っているような力が与えられた。いなごは、地の草やどんな青物も、またどんな木も損なってはならないが、ただ、額に神の刻印を押されていない人には害を加えてもよい、と言い渡された。”
アバドンが率いるイナゴは、「金の王冠、人の顔と女性の髪、獅子の歯、蠍の尾」を持つとされ、人に襲いかかって尾の毒針で刺すという。その飛び回る様相は"戦車を轢く馬"に例えられ、おびただしい数の群れで襲来するという。
尾に付いた毒針の毒は人を殺すことはないが、死をも上回る激痛を5ヶ月ものあいだ人に与えて苦しめるという。
ただし、彼らが刺すのはキリスト教徒以外の異教徒だけであり、さらに言えば彼らは決して人を殺すことを神から許されていないという。
原形について
名前はヘブライ語で「abad(彼は殺した、滅びる)」から転訛した【破壊者, 滅ぼす者, 奈落の底】という意味になる。
そして原形はイナゴによる虫害であり、その神格化とされる。実際、イナゴによる虫害の威力凄まじく、1万の大群で4000kmを移動し、広大な田園を七日も経たずに食い潰すという。
創作での扱い
十六世紀の学者ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパがアバドンを復讐の女神を統率する悪魔と明記するなど、悪魔としてのアバドン像は時代が降るごとに輪郭を強くしていった。特にジョン・バニヤンの「天路歴程」ではアポルオンの名で主人公クリスチャンと戦う悪霊として登場している。
その正体が不明なことから、存在が類似する魔王ベルゼブブをモデルとしてイナゴ型の悪魔(怪物)として描かれることが多い。
またアトラスのRPG『女神転生』シリーズでは、不気味な緑色の魔神として登場する。