概要
第二次世界大戦中に世界で日本が唯一実用化に成功した酸素魚雷を改造利用して生まれた特攻用潜水艇で、終戦までに400基以上が生産された。
艦首部に1.55トンもの炸薬を搭載している。これは元となった酸素魚雷の倍以上の炸薬量である。これが爆発した場合、戦艦であっても大破は免れないとされた。
兵器としての経緯
開発・実戦投入
人間魚雷そのものの計画は早くからあり、1942年のガダルカナル島での敗戦以降に持ち上がっている。当初は海軍は導入に否定的かつ消極的で、脱出装置なしでは兵器として採用できないとの意見が強かったが、戦局の悪化もあって特攻が戦闘手段として採用され始めた1944年に、海軍大臣の裁量で半ばやむを得ず採用に至る。
前述した脱出装置については、帰還を想定しない兵器ということで結局装備はされず、ハッチこそ中から開放は可能であったものの一度海に放たれてしまえば出ることは不可能だった。
運用としては潜水艦に搭載されて出航し、作戦海域に達すると切り離され、エンジンに点火して目標へ向かうという方法がとられたが、大戦末期は本土決戦を想定して基地にそのまま配備されるという手法が中心となった。
欠点として、もとが魚雷であるため、前進と左右転進のみで後退はできなかったうえ、Uターンするにもかなりの半径を要した。また、最大潜航深度は80mで甲標的より浅く、潜水艦に搭載した場合その潜水艦もそれ以上深く潜ることができず、敵に発見された場合の回避行動に大きな制約がかかった。
他にも、命中させるには搭乗員が目視と計算で敵船の到達時間を予測してルートを決めるという、予測射撃のような煩雑極まりない攻撃手順や、エンジンから発生するガスによる一酸化炭素中毒の危険など、回天は多くの問題を抱えていたが、これらの問題は、終戦まで改善されることはついになかった。
戦果・被害
終戦までに回天は前述した通り400基以上、記録では420基が生産されたが、実戦で出撃されたのは148基となっている。残りは輸送中に破壊されるか未使用のまま終戦を迎えた。
戦果としては、アメリカからの証言まで含めると駆逐艦『アンダーヒル』、給油艦『ミシシネワ』の撃沈、輸送艦大破1、その他小破数隻となっている。このほか、回天を搭載した母艦そのものによる攻撃で工作艦1隻と重巡洋艦『インディアナポリス』が撃沈されている。
これに対し、出撃による戦死者は87名、うち49名が発進後の戦死で、これには座礁や突入失敗による自爆による戦死も含まれる。その他訓練中の事故などまで含めると戦死者は145名であり、特に訓練中の死者は15名と、特攻兵器では最も多い。
また、回天搭載の潜水艦も、前述した行動上の制約により被害が絶えず、搭載がされた16隻のうち8隻が撃沈されている。
備考
『人間魚雷』という名称の兵器はなにも日本にだけあったというわけではなく、イタリアやドイツ、それにイギリスにも存在はしていた。ただしこちらは回天とは異なり、ダイバーが操縦して接近し、船底付近に時限式の爆薬部分を切り離して設置し、爆発する前に退避する。という方法であった。当然操縦機器はむき出しであり、魚雷というよりは爆薬を搭載した水中スクーターに近いものであったが、搭乗員の生還を前提とした兵器であったという点で回天とは大きく異なっている。
そもそも日本も同様の発想はしていた。ただ地中海やドーバーといった狭い海域とは異なり、広大な太平洋での戦いだったので、航続力が求められた結果、これらよりは一回り大きく、小型ながら本格的な潜水艇の性格を持つ甲標的として完成する。さらにエンジンを装備して行動範囲を広げた蛟龍、水中翼を装備した海龍へと発展している。
また、回天搭乗員へ志願した者は1375名にのぼり、のちに生き残った隊員の手記や記録書、回天を基にした小説が数多く出版されている。中でも横山秀夫の『出口のない海』や、先述した回天搭載の潜水艦伊58による『インディアナポリス』撃沈を描いた『雷撃深度一九・五』およびそれを基にした映画『真夏のオリオン』は有名である。
関連タグ
北上 伊58搭載母艦(北上は回天母艦に改造され、投下試験まではしているが、実戦には出撃していない)なお、艦隊これくしょん(艦これ)では両者をモチーフにしたキャラ(艦娘)が明確な表現こそ避けているも、「アレは積みたくない」と回天搭載を拒絶するようなコメントをしており、運営からも現在実装済みの酸素魚雷や甲標的と異なり回天は絶対に実装しないと明言されている。