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  • ROSALITA

    頽廃の華咲きて――5

    「……いいですか、オトコヤクってのは、オトコ、すなわちMan(男)の代替品ではないのです。オトコヤクという確固たるセクシュアリティがある。だから、男だけの環境だろうが女だけの環境だろうが、或いは両方、それ以外のセクシュアリティがある環境でも、存在し得るのです。……私がこの舞台の主演に選ばれたのは、オトコヤクの可能性を試し、ありきたりなジェンダーに縛られない大切さを伝えるため。少なくとも自分では、そう思っています。……それとも記者さん、私が単なる話題作りで嫌々こんな格好をしているとでも? ノー。自分にしっくり来る服を着ているまでです。他の人と同じようにね」(本文より)
    10,244文字pixiv小説作品
  • ROSALITA

    ベルベット・ローズ――1

    「今日の観客の半分は、ベルベット・ローズに扮して歌う自分を期待してチケットを買った人々だった。彼らにとっては、ベルベット・ローズの方が真実の存在で、茶髪のアンドロジェニーたる本当の自分は、事実でも虚構の存在。エンターテインメントの世界では、観客の信じるものが真実になる。だからこそ、それが覆されると反感を抱く……たとえ、それが動かぬ事実であっても。」(本文より)  随分前に書いて、長らくお蔵入りにしていたものを引っ張り出してきました。  ロックのコンセプト・アルバムは私にとって、大事な大事なインスピレーション源です。
  • ROSALITA

    頽廃の華咲きて――1

    「痩せこけた頬を縁取る、銀色の長い巻き毛。はっきりと陰影をつけた、青白い顔。着ているジャンプスーツは、エメラルドグリーンのラメ生地。首に巻かれたローズピンクの羽根飾りが、彼が身じろぎする度にふわふわと揺れた。」(本文より)  グラムロック熱に浮かされながら、書いたものです。  要約すると、グラムロック×スピリチュアル×マイノリティ×スターとは何ぞや、という感じでしょうか。例によって長編。 (追記)当初「プロローグ」と題していましたが、紛らわしいので「1話目」としました。慣れないことはするもんじゃないね。
  • ROSALITA

    ベルベット・ローズ――3

    「要するに、自分は孤独なのだ。このスタジオに1人きりうずくまる自分の姿は、そのまま自身の心の内を反映したものに他ならない。  人々に噂されて、見知らぬ人に恋され、嫉妬され、利用されて。人気が出れば、それまでの生活の違いに悩んで、熱烈に崇拝されて。……そして、過去に苦しんで。  アルバムではこの後、主人公は、行き場のない愛と耐え難い孤独を持て余して正体を失ってしまう。そこへ救いの手が差し伸べられる……はずだが、自分にその救いを素直に受け入れることができるとは、今は思えなかった。そもそも、救いなんて本当にあるのか。  その時、ふとこんなことを考えた。ジョーに戻りたいな――と」(本文より)
    11,444文字pixiv小説作品
  • ROSALITA

    ベルベット・ローズ――2

    「幾度も名を呼ばれ、手を伸べられていながら、ジョーはこの若者達に全く親しみを感じられなかった。彼らはあまりに殺伐としていて、欲望を剥き出している。こちらが気を抜いたら途端に骨だけにされてしまうのではないか……そんな無意識の恐怖から、彼女はいつしかマントをきつくかき抱いていた。張りついたように変わらない微笑が、自分でも奇妙に思える」(本文より)
  • ROSALITA

    ベルベット・ローズ――5

    「〈ベルベット・ローズ〉は、かつてジョー・イベリスの強大なペルソナであったが、今その魂はジョーのもとを離れ、あちこちに散らばっている。” Songs about Velvette Rose ”を愛聴するファンの、1人1人の胸に。彼らを慰め、彼らに誠実に向き合うことが、〈救いの乙女〉の使命ではないだろうか……?  祈りに没頭するグウェンの口元に、いつしか慈愛深い微笑が浮かぶ。それがすぐ目の前の鏡に映っていると、彼女が知ることは、決してないであろう。」(本文より)
  • ROSALITA

    頽廃の華咲きて――10

    「彼女の涙が一滴、握られた手に落ちて弾けた。じんわりと熱い滴。優しさも慈愛も、憎しみを乗り越えた感情すらも溶け込んだ、彼女にしか流し得ぬ滴。拭ってしまうのも惜しくて、腕を伝うままに任せる。  本当に、彼女は――いや、彼女だけではない。自分の周囲の人々は皆、温かな心で自分を愛してくれていた。その愛にどう応えるべきか。今のレイモンドにはよくわかっている。」(本文より)  最終回です。エピローグ的な。  ここまで長々お付き合いくださり、ありがとうございました。  テーマが見つかり次第、また書きます!
  • ROSALITA

    頽廃の華咲きて――3

    「書店に行けば、あらゆる音楽誌どころか普通の週刊誌でも、件の歌手を取り上げていることがわかるだろう。さらにテレビでは、コマーシャルに加えてあの会見――ジョー・イベリスとのキスシーン――の映像が繰り返し使われている。「ノーマ・レイモンド」は、一躍ホットな産業になってしまった。  そう、「産業」。スタンレー・キプリングが、歌い手の意思の見えない「産業」たらしめている。」(本文より)
  • ROSALITA

    頽廃の華咲きて――8

    「彼は紅の花弁を噛みしだき、狂ったように笑い声をあげた。――本当に異常な光景だった。髪にも肌にもラメをふりかけ、痩身をぴったり包む衣服を着けた若い男が、座り込んで大笑している。艶やかな紅い欠片がその周囲を埋め尽くす。――これは、前衛映画ではない。現実に、ウィニフレッドの目前で繰り広げられているのである。「ノーマ・レイモンド」という名のエゴに引き摺られ、狂気の池に沈んでいく青年の姿は、直視するには辛すぎる。」(本文より)
  • ROSALITA

    ベルベット・ローズ――4

    「毒舌を振るわれて、グウェンは改めて自分達〈ファン〉が、事実の選別をしていたことを思い知った。信じたい事実は〈真実〉として扱い、そうでないものは〈なかったこと〉として抹消してきたことを。更に酷いことに、美しい作り話の方が、〈なかったこと〉にされた事実よりもずっと尊重されていたことを。  冷静に考えれば、傲慢な振る舞いだと気づくのに、なぜつい熱中してしまうのだろう。殊に、相手が有名人だったりすると?」(本文より)
    12,914文字pixiv小説作品
  • ROSALITA

    頽廃の華咲きて――2

    「「レイ、あなたを解放するために来た」  そっと囁くと、彼の瞳に初めて意思的なものが兆し始める。それはすぐにウインクという形に現れて、彼女を信用したことを示す。――これだけで、2人は互いの気持ちをすっかり理解した。  おもむろに顔を離す2人。ひときわ激しくなる光線に、2人の微笑がほの浮かぶ。」(本文より) (追記)当初「1」と題していましたが、紛らわしいので「2話目」としました。
  • ROSALITA

    頽廃の華咲きて――7

    「自分を所有できるのは、自分だけだから。そう呟く彼の表情が、ジョーにはセレンのそれとだぶって見えた。  稽古を重ねるうちに、彼の内面はいつの間にか、セレンに同化していたのだった。自由を追求する台詞や、愛を称賛する歌の数々が、彼の心をすっかり塗り変えてしまった。それは、決して彼にとって悪いことではない。セレンの仮面を通して、彼自身が成長したとも言い換えられるのだから。」(本文より)

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