私がたどり着いた時には、海はすでに穏やかさを取り戻していた。
空を覆っていた黒い雲も消え去り、さっきまで世界の終りのようだった光景は、まるで嘘のようだった。
海面には一人の少年が静かに立っていた。高天原の長老たちによると、津波を巻き起こし村を丸ごと消滅させたのは、この少年だと言う。
「荒様」
彼は私の声を聞き、ゆっくりと振り返った。蒼白な顔には何とも言えない複雑な表情が浮かんでいた。
「初めてお目にかかります、私は御饌津と言います。長老様たちから名を受けて助けに参りました」
私は、建物の土台しか残っていない浜辺の村を見て、心の中が悲しみと怒りで張り裂けそうになった。
こんなに大勢の命が、この少年の力によって一瞬で奪われたとは信じたくなかった。
一体なぜこのようなことをしたのか、問いただしたかったけれど、自分の思いを口に出すことはなかった。
私は彼の顔を見ないで、ただ手を差し伸べた。
「さあ、一緒に高天原へ帰りましょう」
この少年とは、絶対に気が合わないだろう、私はそう思った。
(伝記一より)
概要
CV:川澄綾子
中華人民共和国のソーシャルゲーム『陰陽師』の登場キャラクター「御饌津」の過去の姿。
高天原では豊作の神とされている。
性格は穏やかで、荒の助手を務める。
人間に対して極端な見方をしない。数千年の歳月が過ぎて、かつての誤解は消えたが、彼女が他人のことを理解し始めたとき、自分がどんな運命に直面することになるのか、まだ知らない。
(陰陽師「式神図鑑」より)