解説
『戦争と平和』をテーマに据え、押井が手がけた初期OVAのエピソード『二課の一番長い日』で描かれた「首都東京における自衛隊一部勢力による決起騒動」をメインモチーフに、当時物議を醸していた自衛隊のPKO派遣の要素や、押井独自の都市・建築論に基づく演出などを加えて制作された映画作品である。
ロボットアクションとしてのレイバーの活躍シーンは非常に少ないが、前作から続く実写を意識したカメラワークや当時はまだ珍しかったCGの使用による表示系の表現、高度なレイアウトシステムに基づいた緻密な画面演出と、やや難解ながら巧妙かつリアルでスリリングな展開を見せるストーリーは今なお高い評価を得ており、押井は本作で使われた大量のレイアウトを元に『レイアウトマンの教科書』として演出の解説をした『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』を著している。
世界観はテレビ版・第2期OVAから続く世界である事が明言されており、成長した特車二課の面々のその後が描かれているが、物語は後藤喜一と南雲しのぶの二人をメインにして進む。
押井守の得意とする状況シミュレーションサスペンス作品である一方、後藤と南雲、そしてゲストキャラ柘植行人による三角関係を描いた、愛という言葉が一切語られることのない大人のラブストーリーでもある。
また、クライマックスの雪の降る東京は2月26日とされ、二・二六事件もモチーフとして絡めている。(ただし史実の彼らと違い、劇中で決起した自衛隊員達には、討つべき思想や人物などは存在しないという点に注目してほしい。)
2015年に公開された実写映画長編版では、柘植のシンパとその部下が光学迷彩機能を備えたステルス型戦闘ヘリを使って東京にテロ攻撃を仕掛けるという内容。アニメ映画をそのまま実写化したのではなく、アニメ映画と過去が繋がる、過去の事件を再現した新たなストーリーとなっている。
あらすじ
1999年、東南アジア某国で、PKO部隊として日本から派遣された陸自レイバー小隊が、戦闘車輌を持つゲリラ部隊と接触、本部からの発砲許可を得ることができず一方的に攻撃を受け、たった一人の生存者を残し壊滅した。
2002年冬、かつての特車二課第2小隊の面々は、隊長の後藤と山崎ひろみを除いて新しい職場に異動し、それぞれの日々を送っていた。そんなある日、出向先から戻る道中の南雲の目の前で横浜ベイブリッジに一発のミサイルが何者かによって投下され爆破される事件が発生。メディアは自衛隊の戦闘機F-16Jらしき物体から放たれたと報道するが、当の自衛隊の主張に拠れば該当する機体は存在しないというのである。
事件に関する様々な情報が錯綜し自衛隊への疑惑が晴れぬ中、南雲と後藤の前に陸幕調査部別室の荒川茂樹と名乗る男が現れ、ある人物を事件の第一級容疑者として捜索協力を依頼する。その名は柘植行人。3年前に壊滅した陸自レイバー小隊の隊長にして唯一の生存者であり、かつて南雲と浅からぬ仲にあった男であった。
協力を渋る後藤だったが、その矢先に自衛隊三沢基地所属機が東京に迫る騒動が起きる。実際には空自のバッジシステムがハッキングされて幻の東京爆撃が演出されたものだったが、先のベイブリッジ爆破事件と併せてこれに過剰反応した警視庁上層部は首都の治安を盾に自衛隊へ露骨かつ性急な対抗行動をとり、一部自衛隊部隊が抗議のため外部との連絡を絶って都内の駐屯地に篭城するという事態にまで発展。自衛隊と警察の対立を招いてしまう。
なし崩し的に荒川と協力体制をとることになった後藤達は事件を追い続けるが、そんな彼らをあざ笑うが如くその後も状況は悪化の一途を辿り、在日米軍の圧力もあって事態の早急な収拾を図ろうとした政府は、警察に事態悪化の責任を押し付け、ついに自衛隊実戦部隊に東京都内への治安出動命令を下す。
しかしそれこそが犯人グループの真の狙いであり、目的の最終段階の始まりでもあった。
東京を舞台に『戦争という時間』を演出した恐るべきテロリストを追って、後藤の召集に応じたかつての特車二課第2小隊のメンバー達は最後の任務へと出撃する。