概要
薙切えりなの実父。旧姓は「中村」。遠月茶寮料理學園の第71期卒業生で、在学時は一年にて遠月十傑の第三席にまで上り詰めたという、驚異的実績の持ち主。当時、遠月十傑の第一席、二席であった堂島銀、才波城一郎の後輩にあたる。
整った顔立ちであるが、黒のスーツにコートを身に纏い、実業家やマフィアのボスを思わせる、どこか威圧的な様な風体の持ち主。髪型はオールバックで、一部の髪は白くなっている。
口調は穏やかであるが、発言の内容は慇懃無礼そのもので、自分の意にそぐわない者を容赦なく見下し、それらからの罵声等は意にも反さない。
徹底とした美食至上主義であるらしく、美食を追及した料理を「芸術」と例えるのに対し、それに値しないものは「餌」と断言する程。また、真の意味での美食は、限られた者だけの間で価値を共有すべきものとしている等、選民思想にも似た思考をしている危険人物でもある。
娘であるえりなに対する行いから義父の薙切仙左衛門によって遠月を追放されており、食品関連の実力者達からは忌み嫌われてるのと同時に恐れられている。
実の娘であるえりなには、一見すると優しげに話しかけているが、当人は薊の存在自体に激しい恐怖心を抱いており、普段の自信に満ちた様子とは打って変わって、別人の様に弱々しく身体を震わせていた程。
10年程前、えりなの「神の舌」を完成形にするべく、彼女に対して歪んだ英才教育を行っている。それは蝋燭一本を明かりにした閉鎖的空間で、「うまい料理」と「まずい料理」を比べさせ、まずい料理は屑篭の中に入れさせるというもので、食べ物を捨てる事に抵抗感を持つ彼女の反論は一切認めず、威圧と笑顔を使い分けて徐々にえりなをコントロールしていった。その結果、冷酷な人格になってしまったえりなは、まずい料理を床に叩き付けて嘲笑う等、独裁者の様な非道さを見せる様になり、この件が仙左衛門の怒りを買って追放されるまでに至っている。
遠月から追放された後、遠月ではその存在に関する記録が徹底的に抹消されており(強いてあげるなら図書館の古い料理誌くらいにしか残っていない)、新戸緋沙子の父親も「禁句」として彼に関する質問をしてはいけないと語っている。そして競争主義者である仙左衛門ですらも、孫娘のえりなを薊に任せてしまった事を「最大の失敗」とまで評している。
追放後は、富裕層のみで構成された閉鎖的コミュニティの活動等、考えを改める様な行動は一切しておらず、アメリカに本部を置いて南アジア、中近東に進出までしていたが、遠月学園の学園祭である「月饗祭」の最終日にて、突如えりなの経営するレストランに姿を現す。現在の遠月の状況を憂いているらしく、遠月を「あるべき姿」に正すべく、改革を行う事を宣言する。
そして、10年ぶりにえりなに料理を振舞ってもらうべく、城一郎用として空けられていた席に座り、えりなに料理の要求をするが、そこへ幸平創真が姿を現す事になり、興が冷めて店を出た薊は、そこで義父である仙左衛門と再会する。
腕さえあれば誰でろうと問題は無いと語る仙左衛門に対し、薊は下等な生徒を排除すべきであると主張。既に遠月十傑の過半数を味方につけていた事で、仙左衛門に代わって自らが遠月学園の総帥に就任する事を宣言するのだった。
就任後、即座にえりなの秘書であった緋沙子を解任し、えりなを孤立状態に追い込む。その数日後、学園の宝僧演説内において、授業、ゼミ、同好会といったあらゆる自治運営勢力の解体と、新たに「中枢美食機関(セントラル)」の創設を宣言する。
セントラルの創設後は、選ばれた者だけが自由に料理する事を許され、選ばれなかった者はセントラルに指示された料理だけを作る代わりに十傑レベルの料理技術や知識を得られるという方針となり、実力のある者から見れば到底受け入れられないものであるが、逆に実力のない者から見れば、料理人としての将来に大きくプラスに繋がるものとなっていた。
講師の一人であるローラン・シャペルからも、薊の方針やその世界を「奴隷制度」、「ディストピア」と評されている。