概要
『絵本百物語』で昔からいると紹介された虫の姿の妖怪。
室町時代に編纂された辞典『下学集』には飛鳥時代の話として、石見(島根県)において民家に忍び込み、夜な夜な住人を刺し血を吸うために、天皇の命を受けた陰陽博士に退治された恙という虫がいたとある。刺されたものは病にかかり、死んでしまうものが多かったという。
「恙(つつが)」とは病気や災いのことで、それがないことを「つつがない」「つつがなし」という。
中国では「恙無」という表現は古くは司馬遷の『史記』の頃にもあり、前漢の『神異経』では黄帝に退治された、虎や豹、人を食い、噛まれると病になるという獅子に似た獣が「恙」という名で記述される。
江戸時代の記録では東北や北陸の河川敷で恙虫による熱病に罹るものが多く、地域により「毛木虱(けだに)」「恙ノ虫」「赤虫」「島虫」とも呼ばれ、姿が見えない恙虫の正体は様々な非業の死を遂げたものの怨霊であるともいわれた。
それらの名を冠する病除けの神社や地蔵、お堂などが各地に建てられ、加持祈祷もおこなわれた。
生物のツツガムシ
医学の発達により、この病気がネズミの耳に寄生するダニの一種の幼虫に刺されたことにより(成虫は刺さない)、病原性リケッチアが体内に侵入して発病することが判明した。
そのため、この病気を媒介するダニの総称が「ツツガムシ」、病気は「ツツガムシ病」と名付けられた。
アカツツガムシによるものは「古典型ツツガムシ病」といわれ、昭和にはいってから関東を含めた全国で発見された別種のダニによるものは「新型ツツガムシ病」という。
同じくダニが媒介するリケッチアを原因とする「日本紅斑熱」や「発疹チフス」に症状が似ることから「藪チフス」ともいわれた。
原因となるダニは日本全国だけではなくアジア、オセアニアの太平洋沿岸にいることがわかっており、現在でも山などで作業をしていて刺され、発症した者がいるとニュースになる。
なお、刺すのは血を吸うためではなく、細胞の組織液を吸うためである。