パウル・フォン・オーベルシュタイン
ぱうるふぉんおーべるしゅたいん
タグはオーベルシュタインのほうが多い。
概要
CV:塩沢兼人(OVA)、諏訪部順一(Die Neue These)
「余はオーベルシュタインを好いたことは、一度もないのだ。それなのに、かえりみると、もっとも多く、あの男の進言にしたがってきたような気がする。あの男は、いつも反論の余地もあたえぬほど、正論を主張するからだ」-銀河帝国皇帝・ラインハルト・フォン・ローエングラム-
ローエングラム陣営の参謀にして冷徹・冷酷で知られるマキャヴェリスト。
初登場時はイゼルローン駐在艦隊司令・ゼークト大将直属の参謀であったが、いたずらに名誉ばかりを重んじ、部下からの進言を聞きいれない愚鈍な彼を見限り、敵前逃亡を果たす。後に銀河帝国側の主人公ラインハルト元帥府の総参謀長となり、ローエングラム王朝成立時には帝国元帥となり、軍政を統括する軍務尚書に任じられた。
先天的な持病から眼を光学コンピューターを内蔵するサイボーグ義眼に置換しており、形骸化したとはいえ、本来なら「劣悪遺伝子排除法」の対象である。また、その無機質な眼光によって、周囲からは威圧的で冷徹な印象を抱かれている。
人柄
作中、最も徹底したマキャヴェリズム(目的のためならあらゆる手段は正当化されるという思想)の持ち主。どのような事態を解決するにも、倫理や感情によって揺らぐ事は無く、解決の効率性のみを優先させる。多くの人命を救うためなら少数の犠牲を容認し、必要とあらば自分自身も犠牲になることを厭わない。その徹底したマキャヴェリズムは、朋友としてラインハルトと接するジークフリード・キルヒアイスや、矜持によってたつオスカー・フォン・ロイエンタールとしばしば対立し、最終的に主要キャラクターである彼らの死の間接的原因ともなっている。
徹底して”正論”に基づいた行動を取り、尚且つ仕事に私情を挟まない「無私の人」であった。彼を嫌う同僚達もその点だけは認めていたが、それゆえに多くの反感を買った(フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト曰く「私心がないことを武器にしている」)。
能力
彼が最もその力を発するのは国営、軍政においてである。ラインハルトをはじめ、ウォルフガング・ミッターマイヤーら多くの将校が戦術面に優れるのに対し、彼は策謀や政策の面に力を発揮している。また第七次イゼルローン攻略戦における描写から戦術面の才能も人並み以上にあるようだが、ラインハルトの参謀となってからは他の将校に任せ切っている模様。
また、キルヒアイス亡き後人事面においてもラインハルトの補佐役として活躍している。主な例としてはゴールデンバウム王朝の幼帝・エルウィン・ヨーゼフ2世の出奔後にはわずか1歳の女帝・カザリン・ケートヘン1世の擁立を進言、オットー・フォン・ブラウンシュバイク公爵の忠臣・アルツール・フォン・シュトライト准将の高級副官登用を政治的に利用するために容認、ラインハルトに見出されることがなければ世に出ることはなかったであろうアイゼナッハ上級大将の推薦を積極的に行う一方、人材登用の失敗とされるレンネンカンプ上級大将の新領土高等弁務官就任には視野の狭さと柔軟性のなさ、ロイエンタール元帥の新領土総督就任には権限の大きさから反対しており、結果として彼の洞察力・先見性の高さを証明することとなった。
しかし、彼が登用した秘密警察の長・ハイドリッヒ・ラングはフェザーン自治領・前自治領主・アドリアン・ルビンスキーとつながりをもち、みずからの栄達のため反国家的な動きを示してロイエンタールを反逆に追い込むなどマイナスの一面も大きい。
だが、オーベルシュタインはこれらの反国家的な動きを察知していながらもあえて放置した上でまとめて排除する方向に仕向け、それが最終的には国家の安寧に繋がっているのも事実である。
愛犬?
僚友のゴシップに遭遇することの多いナイトハルト・ミュラーによれば、拾ったダルマチアンの老犬を育てている。軟らかく煮た鶏肉しか食べないため、オーベルシュタイン自ら鶏肉を買いに出ることもあるという。諸提督たちが意外な一面に驚く中、ビッテンフェルトは「人間には嫌われても犬にだけは好かれるらしい。犬同士気が合うのだろう」と揶揄した。
ナンバー2不要論
本人が名付けたものではなく周囲による命名。オーベルシュタインは組織におけるナンバー2の存在を認めず、ナンバー1の下で数人のナンバー3が互いを牽制することで権限の均衡を保つことが望ましいと考えており、ナンバー1に次ぐ1人の人間が特権的に権勢をふるうことが組織に良くない影響を与えるという持論を持っていた。ラインハルトの傍らでキルヒアイスだけが武器の携行を特権的に許される慣習や、皇妃の権限など組織内部における特権をことごとく排除した。マリーンドルフ伯がラインハルトに結婚を勧めた際も、マリーンドルフ伯が娘を皇帝と結婚させようとしているのではないかと疑ってかかったほどである。
略歴
イゼルローン駐留艦隊幕僚
イゼルローン駐留艦隊司令のゼークト提督の幕僚を務め、的確な助言を行うがことごとく却下される。そのため艦隊は要塞への期間も果たせずに惨敗、トールハンマーの直撃を受けたゼークト提督は戦死。オーベルシュタインは敗北を見越して脱出艇にて艦を去る。しかし上官を見捨てての敵前逃亡によって問責され、ラインハルトに助けを求める。
皇帝は帝国軍三長官に責任を求め、空席をラインハルトに譲り渡そうとしたが、ラインハルトはオーベルシュタインの助命と引き換えにこれを辞退した。
この際、オーベルシュタインはラインハルト個人に対する忠誠を誓約している。
リップシュタット戦役
ガイエスブルグ要塞に籠城する貴族連合とラインハルトの戦いの際、貴族連合の前線基地だったレンテンベルグ要塞で捕縛したオフレッサー上級大将の部下をことごとく処刑し、オフレッサーひとりを貴族連合に帰還させた。オフレッサーは、金髪の孺子(=ラインハルト)嫌いの急先鋒で通っており、その彼が無傷で帰ってきたことにラインハルトと裏切りの密約を結んだのではないかと思わせ、貴族連合に大きな相互不信を飢え付けるという、オーベルシュタインの策略であった。結局オフレッサーは、ブラウンシュヴァイク公に裏切りの嫌疑をかけられて逆上し、ひとしきり暴れまわった後、裏切り者の汚名を着せられて葬られた。
ヴェスターラントの虐殺
貴族連合軍の盟主であるブラウンシュヴァイク公が自らの荘園ヴェスターラントの反乱で親類を殺されて激発し、地球を破滅に追いやって以来の禁忌であった熱核兵器を使用しようとした際、オーベルシュタインはラインハルトに虐殺の黙認を進言した。オーベルシュタインはヴェスターラントの虐殺の映像を政治宣伝の材料に利用し、貴族の悪逆非道を世に訴えた。その結果、貴族連合軍内部で、平民出身の将兵たちの貴族に対する反感が表面化。あらかじめオーベルシュタインが連合内に潜入させておいた工作員が、そのタイミングを見計らってガイエスブルグ要塞守備兵の離反工作に成功し要塞主砲を封じ込め、戦闘の短期終結に寄与した。結果、戦役が長引いた場合にガイエスブルグ要塞が第二のイゼルローンと化し、さらに多くの人命が失われる可能性を予防した。
ラインハルト暗殺未遂
リップシュタット戦役終結後、ブラウンシュヴァイク公の腹心・アンスバッハ准将がラインハルトと謁見した際、ブラウンシュヴァイク公の遺体の中に隠してあった銃砲によってラインハルトを襲撃した。
それまで謁見に際しては、唯一キルヒアイスだけが、ラインハルトの傍らで武器の携行が許されていた。オーベルシュタインは他の将校に対して公正を期すため、この特権的な慣習を廃止するようラインハルトに進言しており、アンスバッハの謁見は、ラインハルトもその進言を容れた直後のことだった。そのため丸腰のキルヒアイスはアンスバッハの凶行を防げず、結果ラインハルトをかばう形で落命する。
その後オーベルシュタインは、いずれラインハルトの失脚を企むと予見されていた帝国宰相・リヒテンラーデ公を、ラインハルト暗殺未遂事件の首謀者に仕立て上げることを提案。ミッターマイヤーら諸将の賛同もありリヒテンラーデ公から国璽を奪う事に成功した。
皇帝誘拐
リップシュタット戦役終結後、フェザーンに亡命していたランズベルク伯アルフレットとフレーゲル男爵の部下であったシューマッハ大佐が帝国首都・オーディンに潜入、皇帝・エルウィン・ヨーゼフ2世を誘拐し、自由惑星同盟に亡命させるとの報がフェザーンのニコラス・ボルテック総督よりもたらされる。
ラインハルトはオーベルシュタインと協議し、あえて皇帝を誘拐・亡命させることにより自由惑星同盟を攻める口実を作ることを決定、皇宮の警備責任者・モルト中将に責任を負わせること、ペクニッツ子爵の娘・カザリン・ケートヘンを後任の皇帝に据えることもあわせて決定した。オーベルシュタインはこの時モルトの上司である憲兵総監兼帝都防衛司令官・ケスラー大将にも責任を取らせることを主張したが、ラインハルトはこの直前、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフから潜入したランズベルク伯が皇帝を誘拐する可能性があるという話を聞いていたことから「ケスラーは得がたい人材だし、減俸ですませよう」と返答、これに対しオーベルシュタインは「時には部下に死を与えることも、部下にとって名誉であり、君主にとっても必要」であると説き、ラインハルトも割りきれないものを感じながらオーベルシュタインの見解が正しいものであることを認めるに至った。
同盟滅亡
バーラトの和約後、同盟領において高等弁務官を務めていたレンネンカンプに、ヤン・ウェンリーの謀殺を進言する。レンネンカンプはかつて戦場においてヤンに敗北した経験からオーベルシュタインの進言を容れ、同盟にヤン・ウェンリーの身柄引き渡しを要求する。同盟がこれを拒否すれば和約違反となり、帝国の介入を強める事態を招くため、同盟側ヤンがいなければ引き渡しようがないと考え、地球教のテロに見せかけてヤンの暗殺を企む。
ヤン艦隊一同は、自己防衛的措置としてレンネンカンプを人質にハイネセンを脱出するが、虜囚となる事を良しとしないレンネンカンプは監房で自害してしまう。
しかし結果としてレンネンカンプの死は、帝国が同盟を完全併呑する口実として利用される事になった。
ロイエンタールの反乱
ロイエンタールの反乱の際には、オーベルシュタインとラングが帝政を壟断する者であるとしてロイエンタールに名指しで非難されている。
オーベルシュタインはラングを連れロイエンタールの元へ処罰を受けに赴くという道を提案した。自らを犠牲にして和解の道を示し、兵の犠牲を最小限にしようとしたが、ラインハルトはこれを拒否。ラインハルトにかわりミッターマイヤーがロイエンタールとの戦端を開いた。
皇帝弑逆未遂事件
ヴェスターラント出身の男が皇帝弑逆未遂事件を起こす。オーベルシュタインはこの時、「皇帝をお恨みするにあたわぬ。なぜなら陛下にブラウンシュヴァイク公の蛮行を黙認するよう進言したのは私だからだ」、「ヴェスターラントの犠牲があったからこそ、さらに大きな犠牲を仮定の数字にすることができた」、「卿は陛下よりも私を狙うべきだった。邪魔する者もおらず、ことも成就したであろう」と淡々と語り、男の憎悪を皇帝からそらしている。
衝撃を受けたラインハルトは男の処分を保留、これに対しオーベルシュタインは男の処刑を、ケスラーは名誉ある自殺の権利を与えることを主張、翌朝、男は牢内において自殺した。
オーベルシュタインの草刈り
同盟滅亡後、旧自由惑星同盟の要人を政治犯として片っ端から逮捕し、これを人質にイゼルローンの明け渡しを求めている(この要人の中にはヤンの部下だったムライや、ヤンの上官でもあり士官学校の恩師でもあるシドニー・シトレ元帥も含まれた)。
この時オーベルシュタインは、「人質作戦などという卑劣な策など用いず、正面からの戦いでイゼルローンを陥落させればよい」と考えていたビッテンフェルトらと口論になった。その中でオーベルシュタインは、ラインハルトのことを「戦いに堂々と勝利することこそ美徳であるという私的な感情によって、これまで多くの兵を死地に追いやってきた」と辛辣に批判。それに加えてビッテンフェルトやその場にいたミュラー、ワーレンらの軍功に対しても「卿ら三人がかりで何度ヤン・ウェンリーに勝利の美酒を飲ませて来たかよく知っている」と言い放ったため、激怒したビッテンフェルトに殴り倒された。
ラグプール事件
先述のオーベルシュタインの草刈りで逮捕された旧自由惑星同盟の要人を収監していたラグプール刑務所で、暴動が発生。帝国側はこれを鎮圧しようと乗り出したが、オーベルシュタインの部下と、彼を殴り倒したことで軟禁されていたビッテンフェルトの部下との間で摩擦が起きていたため、指揮系統が大混乱し、逆に帝国の将兵に多数の死者、重軽傷者を出してしまった。ラインハルトはオーベルシュタインのこの失態を強く叱責し、オーベルシュタインとビッテンフェルトを和解させた。
この際、オーベルシュタインは逃走中だったルビンスキーを逮捕している。その方法は全宇宙の医療カルテを調べ上げるという気の遠くなる作業だった。
最期
ラインハルト崩御の夜、オーベルシュタインは地球教の残党をおびき寄せるためラインハルトが回復しつつあるという情報を流す。ラインハルトを暗殺せんとフェザーンの仮皇宮に乗り込んだ地球教徒の手榴弾によって瀕死の重傷を負う(OVAでは左脇腹が大きく抉られ、内臓、肋骨が露出していた)。医師達が緊急の手術を行おうとするも、すでに自分が手遅れである事を悟っており「助からぬ者を助けようとするのは偽善であり労力の無駄だ」と拒む。そして医師達に向け遺言を告げる。「ラーベナルトに伝えてくれ。犬には柔らかい肉を与えてくれ、もう先は永く無いから好きにさせてやるように……」と言い残す。『ラーベナルト』という聞きなれない単語に戸惑う医師達に「ラーベナルトは我が家の執事だ……」と事務的に告げて事切れた。
後日の地球教の証言から、オーベルシュタイン自身が、彼のいた部屋にラインハルトが伏しているという偽の情報を流した結果だと判明する。